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大人日乱
8月の長い夜 2


「悪いな、伊勢」


散々くだを巻き酒を煽ってはすっかり酔いつぶれてしまった乱菊さんを迎えに居酒屋まで現れた日番谷隊長は、「しょうがねえなあ」と若干呆れ顔ではあったのだけど、すやすやと規則正しい寝息を立てる乱菊さんを見つめる眼差しは、とてもやわらかく感じられた。
(正直、これで「自分は何とも想われてない」と言い張れる彼女自身の神経を疑ってしまうほどに…)


「毎回毎回ご足労様です」
溜息混じりに頭を下げた私を片手で制して「いや。こっちこそすまなかったな」と笑うこのひとは、そういえばまだ少年だった頃から酔いつぶれた乱菊さんを律儀に店まで迎えに来ては、隊舎まで連れ帰っていたのだった。
別に一緒に飲んでいる私や檜佐木さん、阿散井くんに帰りを任せても構わないものを…。
けれどこのひとは決してそうしようとはしなかったのだ。
「コイツの面倒看るのはもう慣れた」
そう嘯いて叩き起こすような真似もせず、以前であれば背に負って、今では軽々と逞しい腕に抱き上げて、眠る乱菊さんを部屋まで送り届ける。
そうして乱菊さんに向けて伸ばされた長い腕。
彼女を自室へと連れ帰る為に…。
眠る彼女を捕らえて浮かべた微笑みは、酷く愛おしげにも見える。

(やっぱり乱菊さんの勘違いなんじゃあないのかしら?)

愛されてなんていない、だなんて…。
とても大事にされているように見えるのは、それとも…私の『勘違い』なのだろうか?
だから少しだけ待ったをかけた。
否、待ったをかけるような言葉で引き止めたのだ。あのひとのことを。


「手のかかる恋人をお持ちで大変ですね」と。
「いっそ、雛森さんのようにお酒を嗜まれない方だったら良かったですね」と。

何気ない風を装って、放つ言葉の端々に毒と棘とを散りばめた。
一瞬怪訝な顔を浮かべた日番谷隊長は、けれどすぐに気を取り直すと。
「かもしれねえな」と。
否定することなくあっさり私の非難を認めたではないか!
これにはさすがに戸惑った。
あまりにも予想外な反応だった。
けれど日番谷隊長は、その口元にすぐさま苦笑を浮かべると。
「だからって勘違いするなよ」と、私の思惑を何もかも見透かしたように前置いた。







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