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大人日乱
5.


*
*

それから静まり返った部屋の中、もぞりと寝返りを打った松本を見下ろす。
ぽかんと開いたあかいくち。
そのあどけないくちびるが、甘い響きを伴い俺の名を呼ぶ。
幾度となく…好きだと夢の中、繰り返す。


「だー!もう、わかったっつーの…」


緩んだ口元に浮かぶは苦笑。
眠りについて尚、俺に好きだと言い募る女の波打つ髪をひと撫ですれば、僅かに身じろぎをして松本がゆっくりとその目を覚ました。
暗闇の中、金色の睫を震わせ数回瞬きをして…。
やがて傍らにある俺の気配に気が付いたのか、ゆるりと『俺』を見上げて目を丸くした。

「たい…ちょ?」

ぽかんと開いたあかいくちびる。
呆然と見上げるあおいひとみ。
恐らく、まだ。何ひとつ状況は理解出来ちゃあいない筈だ。
のそりと上体を起こした松本は、愕然としたままボサボサの髪を一心不乱に両手で撫でつけている。
恐らく、酩酊の末に失われた『記憶』でも必死に辿っているのだろう。
(そーゆーとこはホントわかりやすい女だよなあ)
うっかり緩んだ口元に、松本はまるで気付きもしない。

焦点の合わない瞳。
重ならない視線。
夢うつつの中繰り返された、大好きって言葉。
俺の名前。

思い出すだけで、どうしたって口元は緩んだ。



戸惑い焦る松本を前に、まつもと、と。
苦笑混じりに女の名を呼ぶ。
それから、ビクリと背筋を伸ばした女の肩を、そっと胸元に抱き寄せた。
すっぽりと腕に収まる細い身体。
見た目以上に華奢な肩。
初めて抱き締める女の身体…そのやわらかさに、知らず鼓動は跳ねていた。
そして、じんわりと滲む愛おしさ。
(参ったな)
どうやら本気でこの女に惚れちまったみたいだ…。



「たた…たいちょ…!?」

突然のことに頬を真っ赤に染め上げて、目を白黒させながら「なんで?」「どうして?!」と慌てふためく松本を、更に強く抱き締める。

「良いから。大人しく俺に抱かれてろ」

そっと耳元に囁いて、ぴょこんと跳ね上がった金色の髪にくちびるを落とす。
「ふっぎゃあ!」
途端、面白いぐらいに硬直する身体。
それにまた口元は綻んでゆく。
まるで借りて来た猫のように漸く大人しくなった松本は、今は腕に抱かれたまま、戸惑いながらも俺の胸に身を委ねている。
だがどうやら未だ状況は読めていないようだ。
今のこの状況が「信じられない」とばかりに、今にも泣き出しそうに目を潤ませている。
(尤も、それも当然なのかもしれないが)
「たい…ちょ?」
恐る恐ると見上げて、問い掛ける瞳。
そんな、泣き出す一歩手前みたいな顔をした松本の額にくちづけながら、俺はにんまりとほくそ笑んだ。




(さあ、先ずは何から君に伝えようか?)






end.


以前連日ブログに投下していたコネタを纏めて、加筆・修正してみました。微妙に「桃色片想い」の続きのようなそうでないような…(w;
どちらにしろ、やっとスタートラインに立ったところでおしまいと云う、何とも痒いところに手の届かないコネタですみません(笑)
基本『好意』さえ抱いていれば恋に落ちるのはきっかけひとつと思っているようなひとなので、コレ隊長簡単に松本に堕ちすぎじゃね?と思われた方はすみません。そこはもう考え方の相違ですので諦めて頂くしかないかなと…。
あと、隊長がやたらヘタレな癖に最後だけ微妙にSのスイッチ入っててすみません(笑)

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あきゅろす。
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