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大人日乱
2.


全てを知る切欠は、随分前に隊長の机の引き出しの奥に偶然見つけた古ぼけた一枚のスナップ写真にあった。
「綺麗なひと…」
その写真に写る女の人は、まだ幼い隊長に抱きつき(まるで大輪の向日葵の如く)豪快に笑っていた。
ゆるやかにうねる、光を湛えた金色の髪。
死覇装の合わせから覗くたっぷりとした白い肌。
青い瞳も艶のある少しふっくらした唇も、死覇装の上からでもわかる見事なボディラインのデコルテだって…其のどれもが、こけしのように真っ黒で真っ直ぐな髪に黒い瞳、背だって低くて(だってこの写真の女の人、どう見ても170近い背丈があるわよね?)色気も皆無なあたしとは正反対で…、(誰、なんだろう?)とは思った…けれど。
確かに初めて見る人なのに、何故かあたしは『彼女』を知っていた。知っているような気がした。
…ううん。知っている、とは少し違う。
そして首を捻って気がついた。それも至極呆気なく。考えるまでもなかった。写真の『彼女』に良く似た雰囲気を持つ多数の『女』を、何時だってあたしは隊長の隣に、傍に、見てきたと云うだけのことだった。



だからこのひとが隊長にとって初めての副官であったことを。
このひとが隊長にとってどれほど大切な存在であったかと云うことを。
知ってしまったのは単なる偶然に過ぎないし。
このひとがもう遥か以前にあった戦いの末に亡くなってしまったと云うことを。
今でも隊長が彼女の…”松本乱菊”と云う女性の影を追い求めていると云うことを。
知ってしまったのも単なる偶然に過ぎなかった。
…だから。


ずっと不思議に思っていた、もう長いこと副官を置かなかった…置こうとしなかった日番谷隊長が、総隊長の命令とは云え、あたしなんかをどうして副隊長として受け入れる気になったのか?どうして”あたし”だったのか?
その取るに足らない謎すらも、『彼女』の存在を知ることで全てあたしにはわかってしまったから。









「さて、そろそろ仕事に戻るか…」
飲み終えた湯呑みをごとりとテーブルに戻すと、隊長は緩慢な動作で再び立ち上がった。
時計の針は既に三時半を回っている。お茶の時間はこれでお仕舞い。けれど隊長が干し柿に手を付けることはなかった。
「ああ、その干し柿だが包んで置いてくれるか?」
「それは…別に構いませんけど。もしかして持って帰るおつもりですか?」
「おう、そのつもりだ」
結局好きなんだか嫌いなんだか良くわからないまま言われるがまま、あたしは余った干し柿を包み直すと隊長に手渡した。
受け取る隊長の目はとても穏やかで…けれど何処か淋しげな色をしていたから。
(そうか。干し柿を好きなのはきっと、隊長じゃなくて”マツモト”さんの方なんだ)とようやく気付くあたしも大概鈍感ね。てゆーかあのひと、あんな派手でエロい外見なのに、実は干し柿が好きとか…ちょっと有り得なくない?などと思いながら湯呑みを片付け始めたあたしに隊長が「ああそうだ」と振り向きざまに声をかけた。
「わかっているとは思うが…」
「…はぁ?」
(いったい何のことでしょう?)
正直皆目検討もつかないことはとりあえず黙っておくことにした。
「明日一日、俺は非番だ。隊のことは全てお前に任せるからな」
「……りょ、了解しました!!」
……て。ごめんなさい、すーっかり忘れてました隊長!
取り繕うようにえへらえへらと笑ったところで、どうやら隊長は全てお察しのご様子で。目一杯眉間に皺を寄せて睨まれた。
「てめぇ…誤魔化すんじゃねえ、馬鹿野郎!」
「わーん、ごめんなさぁいたいちょー!」
ああでもそうか。もうそんな時期なのね。
すっかりそのことを忘れていたあたしはそっと壁に掛けられた日めくりに目をやった。
(明日は、そう…”あのひと”の命日だった)
「ったく…しょうがねえなあ、お前は」
ブツブツ文句を言いつつも、けれど結局くつりと笑ってあたしの頭をぽすんと撫でた隊長の目は、直ぐに穏やかなそれへと変わる。そして僅かな躊躇と戸惑い。
「頼むぞ、…『松本』」
あたしの名を呼ぶその一瞬。
隊長の目にきっとあたしは映っていない。
隊長の中で瞬時にすり替わる、『失われた過去』と『耐え難い現実』
見つめる先にいるのはきっと、隊長が追いかけたくて追いつきたくて堪らない…あのひとの姿に違いない。
でも。
それでもあたしは構わないの。
「はい、任せて下さい隊長!」
だから今日も何も知らない振りをして、あたしは殊更明るく振舞う。貴方が焦がれ求める、あのひとのように…。
何故ならこの『名前』こそがあたしの”存在理由”なのだと。
あの日、あたしは気付いてしまったから。






end.


久々の更新が『やってしまった』感の非常に強い松本死ネタですみません;;
一応第三者視点の日乱のつもり。てゆーかもうある意味ドリー夢に近いかも?(あわわ;;)
もう居ない松本の幻を、それでも貪欲に追い続ける痛い未来隊長が単に書きたかっただけなのです。
とりあえずこんなんでも日乱のつもりなんですよ〜と最後まで言い張ってみる。すんません!

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