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大人日乱
3.


決して美味しくないわけじゃないんだけど、今のあたしにはちょっとばかり苦すぎるかも…。
どうせだったらこんな鬱屈とした気分の時には、もっと甘いお酒を頼むべきだったかも。
ほんのちょっぴり後悔しながら、残ったお酒をひと息に呷る。
ぷはーっ!と息を吐き出したところで、「今日は酔い潰れるようなマネはしないで下さいね」って、至極冷たい七緒の声が、鋭い矢となりグサリとあたしに突き刺さる。
「て・ゆーか。なによう、その蔑むみたいな眼差しは!残念なものでも見るような目はっ!ちょ…幾らなんでもあんまりじゃない?!」
そりゃ、ぐだぐだ延々愚痴ってるって自覚はあるけれど!
幾ら自分に自信が持てないからって、さすがにちょーっと鬱陶しい?くだ巻くのも大概にしろ!とか思われててもしょうがないかな?ってわかってるけども!
でもだからって、そんなゴミ虫でも見るような目で見下げられちゃうと、さしものあたしも凹みます。
あ…なけなしの自信ですらもズタボロですよ。
うん、泣いてもいいかな?いいよね、別に!
「なーなーおーうっ!」
ぼたぼたと涙の粒を零して向かい側の席、腰を下ろす七緒へと縋るように腕を伸ばせば、ギョッと慄く切れ長の漆黒。
よもやほんとにあたしが泣き出すとは、夢にも思ってなかったって顔だ。
「ちょ…こんなところで何を泣いているんですか、貴女は!」
だけど動揺を垣間見せたのは、ほんの一瞬。
すぐにも表情を取り繕うと、眉間に深い皺を寄せる。
呆れましたと言わんばかりの、これ見よがしの溜息を吐く。
(さすがはクールビューティーとの誉れも高いだけはある)
だけどその眉間の皺だけはちょっとどうかと思うんだけど。
まるでどこぞの誰かさんを髣髴とさせてくれるんだけど、正直今のあたしにはちょっぴり痛いです。切ないです。
おまけに伸ばした腕も空振りに終わり、仕方無しにあたしは卓にぺたりと突っ伏す形となった。
うう…七緒が冷たい。
なによう、七緒の意地悪。けちー。クールビューティーめっ!って、えぐえぐ愚痴っていたら、どうやら立派な酔っ払いと見做されてしまったようだった。
(いやいや、こんなのまだまだ序の口なんですけども。まだまだ飲むわよー酔い潰れるわよー。ええ、断じて酔ってなどおりませぬ)
実際この時飲んだお酒は、ほんの三杯か四杯程度。
ゆえに、然して酔ってたつもりはない。
むしろ精神的に心折れているせいで、見事ぐだぐだになっているだけだったのだけど。
こうしてぐだぐだうだうだいじけていたら、目の前のこの子ももう少しだけあたしに優しくしてくれるんじゃあないのかしらと云う多分な打算が働いていただけなのだけど。
「ああもう、本当に。しょうのないひとですねえ」
やれやれと云った態は崩さずに、それでもぽふぽふとやさしく頭を撫でてもらえたことに、ともすれば緩んでしまう頬。
「なーなーおー!」
「はいはい、そこで大人しくしてて下さいね」
まったく世話の焼ける…と文句を言いながら、それでもあたしをあやす腕。
決して酔ってるつもりはなかったのだけれど、あたしの髪を梳く手のひらがあんまりやさしくて心地良かったから、いつしかゆるりと瞼を閉じていた。
気付いた時には、そのまま眠りの淵へと身を投じていた後だった。










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あきゅろす。
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