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大人日乱
3.


*
*


「どうしてこんなことになったのかしら?」
問うたところで答えは戻らない。
返す言葉をあのひとは持っていないと知っていながら、それでもどうしたって口を衝いて出る問い掛けの言葉。
「さあな。俺にも良くわかんねえよ」
嘆息混じりの投げやりの言葉を口にしながら、硬い手のひらは尚もあたしの身体を苛む。
薄い舌先に翻弄される。
抗う意図など元より無いのだけれども、時折これが夢かうつつかわからなくなる。――怖いとおもう。
夜な夜なこうしてあのひとに抱かれることを。
『女』として身を委ねていることを。
そんなつもりは毛頭無かった。
こんな結末を望んだつもりは微塵もなかった。あたしも、あのひとも。
ただ、傍らに…。
副官として仕えていたい。
それだけがあたしの願いであった。
なのに今は、副官として。妻として。
あのひとの傍らに立ち、時にこうして身を委ねる。
夜毎の情交を受け入れている。
転機が訪れたのは、およそ半年ほど前のことだった。
上級貴族のひとりから、強引なまでの縁談話を持ち掛けられて困惑していた。
断ることも出来ないままに、輿入れを強要されて絶望していた時のことだった。
二進も三進も行かないあたしにあのひとが、唯一手を差し伸べてくれたのだ。
「結婚すんのがそんなに嫌なら、お前…いっそ俺の女になるか?」
所詮、一死神でしかないあたしでは、どうあっても断りようのない縁談だった。
死神であり続けることですら許されなければ、あのひとの傍にも居られなくなるのだ、と。
思って絶望に打ちのめされていたあたしへと向けて。
「俺とお前がただの上司と部下のままであることで避けて通れぬ『縁談』ならば、俺達が変わるより他ねえだろ。男として、女として…共に在る未来を選ぶことで、生涯お前を傍へと置ける。あの『約束』を叶えてやれるが。――どうする、松本?」
…他の誰でもない俺の妻となり、日番谷乱菊として、永劫俺と寄り添ってくれるか?
苦渋に満ちた顔をして、差し伸べられた震える手。
あのひとの妻となり、ただの『女』となって、これから先の未来を傍らに在るなど、正直今のあたしには想像も出来ない話ではあった。
けれど、もう二度と。
このチャンスを逃したら、あたしはこのひとの傍に居られなくなる?
…それは嫌だ。
好いてもいない別の男と寄り添って、共に生きねばならない未来など、あのひとの妻となり女となる自分より、更に想像はつかない。
そんな未来など欲しくない。
そう思ったから手を取っていた。
結局あたしはどうあったって、あのひとの傍に在り続けたいのだ。
あのひと以外の誰をも選びたくはないのだ、と。
気付いて頭を垂れていた。
「隊長は、あたしを…選んで下さいますか?」
お傍に置いてくれますか?
他の誰でも無いあたしだけを、あなたも欲して下さいますか?
問うたあたしにあのひとは、どこか泣き笑いにも似た顔をして、当たり前だと答えてくれた。
「俺だって…お前以外の女はいらねえ。お前以外の副官だって望んじゃいねえ。他の男にくれてやりたいとも思っちゃねえよ。…だから、悪リィ。頼むから俺と結婚してくれ。ただひとりの女として、生涯俺の傍に居てくれねえか」
行かないでくれと縋るように抱き寄せられて、その背を抱き返したその日を境に、あたしとあのひとを取り巻く何もかもが一転をした。
輿入れの日を目前に、あたしとあのひとは婚姻を済ませ、最早手も足も出せないようにと、早々『日番谷乱菊』と名前を変えた。
形ばかりではあったのだけど、あのひとにとって唯一無二の『女』となったのだった。









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