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大人日乱
The foot of the candle is dark 1


「あら、隊長。どうしました、こんな往来で惚けちゃって」
「いや。随分いい女が歩いているなと思って見てたんだが…」
「…だが?」
「お前だった」
「あはは!やあだ、たいちょー、そんな今更おだてたって何にも出やしませんよう」




クスクスと笑う女はそれを冗談か何かと受け取ったらしく生憎俺の言葉はさらりと聞き流されてしまったのだが、この時の俺は本当に私服姿の松本に見惚れてしまっていたのだった。
職場で見るのとは明らかに違う。
見慣れた死覇装姿でもない、ましてや昔見た現世の奇抜な服でもない、その…艶やかな着物姿は、俺の目にとても魅力的に映ったのだ。
長年傍に居て、まるで気付きもしなかったのが不思議なくらいだ。
俺はこんなにも美しい女を、後にも先にも見たことがない。
思わずごくりと喉が鳴った。




*
*

「松本ぉ」
「はい?」
珍しく高く結い上げられている金色の髪。
覗く、細く白い項から目が離せない。
「お前、今日はこの後なんか予定でもあんのか?」
この美しい女をもっと傍で見ていたい。
そう思ったら勝手に口が動いていた。
「? いいえ。ああ、でも今から修兵のところに頼まれものの現世土産を置きに行こうかと思ってましたけど」
修兵…?ああ、九番隊の檜佐木のことか。
頼まれ物と今松本は言ったが、どうせ松本に会いたいが為に檜佐木が用意した口実に過ぎないだろうことは想像に難くない。
(つか、面白くねえ)
私服姿の松本を檜佐木なんぞに見せたくなかったし、何よりこのまま他の男の元へ行く松本を黙って見送るつもりもなかった。



「それ、今でなきゃ拙いのか?」
「いいえ、別に」
あっさりと松本は否定した。それに僅かに気分が良くなる。
「じゃあそれはまたにしろ」
「はぁ?」
訝りながらも頷く松本の小首を傾げる様さえも、歪められた柳眉にさえも、俺は「美しい」と思わずにはいられない。…つか、重症だなこりゃ。
「なあ。今から飯、食い行かねえ?昼食ってねんだわ、俺」
「えー!ああもう、隊長はまた…。あたしが居ないとすぐお昼抜くんですから!困ります」
「…おう。すまん」
なるべくさり気なさを装ったつもりであったが、松本の『喰いつきっぷり』は想像以上のものだった。
事実俺は、松本が非番だったり会議だったり虚討伐で席を外したりしていると、昼飯を食いっぱぐれるほど仕事に集中してしまうのが常であったし、また松本がそれを面白くないと常々思っていることも知ってはいたのだが…。
「それで、こんな時間にこんなところに?」
「ああ、まあな」
「もう三時ですよ。お腹、相当空いてらっしゃるんじゃないですか?」
「…ああ、まあな」
「困りましたね、こんな中途半端な時間じゃ食堂だってもう開いてませんよ」
「ああ、そうかもな」






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あきゅろす。
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