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ベッドに身を埋めると、甘い香りがした

「キスしてい?」
「ん…」

最初は触れるだけ
チュッ
チュッ
と軽いリップ音をたてながら、欲を少しだけかきたてるようなキス

「ふっ…んッ」

少しだけ息苦しくなって形の良い唇をほんのりひらくと、その隙間から舌が入り込んできた
そのまま、自分の舌を絡めとられて口内を蹂躙される。

厭らしい水音が耳に響く少しその状態が、続いた後、彼は充分に堪能したようで、下唇を舌で舐めると銀色の糸を引きながら、自分の唇をゆっくりと離す。

「はっ…」
「んぅっ…あッ」

互いに、途切れ途切れの荒い呼吸をする。
はあッと先ほどまで自分と繋がっていた部分から漏れ出す吐息がとてつもなく熱いものをはいているように感じて、まるでキスを覚えたっての初な少年のように頬を染めると彼が自分の上でくすくす微笑っていた。

「恥ずかしいの?」
「違うけど、そうなのかも知れません」
「なんじゃそりゃ」

互いに笑ってもう一度触れるだけのキスをする。

「ひっあン…ふっ…」

突然、感じた冷たさに躰がビクンと震えた。
何時もは温かい、子供のような彼の手は行為をするときだけ、ひんやりと冷たい。
その冷たさがシャワーや性欲によって火照った躰に気持ちが良かった。

胸板を撫でるように数回往復すると、胸の突起を指で挟んで、ぐりぐりといじり出す。
この行動も最初のうちは少しだけ痛くて何だか気持ちが悪いというか、違和感しかなかったものの、いつしか気持ちのいい発火材となっていた。

「んっ…あ、の……」
「どーした?」
「キス、したいです」
「いいよ」

了承をとり、自分の上に跨っている彼の自分より少しだけ太い首に腕をまわす。

「んッ…ふぁ」
「イイ?…ん」

貪るようなキスをしながら、胸の突起を弄られて段々、己の中心が熱を持っていくのを感じる。

――嗚呼…こんなにも彼に犯されているのだな、と考える。
馬鹿馬鹿しい、けれどもそんな不埒な事を切り捨てらんない自分がいた。

「あァんッは…」
「はっ、かんじてる?」
「やっ…」
「こんなに尖らせて……だんだんヤるにつれて、厭らしくなってきたよね?最近はネコがお気に入りなの?」
「ん…はっあァん…ふぁ、それは、ふっ…たりッあン…の、せいで、すよっああ!!」

――否、彼のせいだ
彼に犯されている時だけ感じるものがある。
彼とのセックスだけに意味があるのだ。


彼とベッドで躯を繋げるようになったのは何時のことだろうか?

多分その時にはすでに彼に捕らえられていた。
けれども、彼は知らない知るはずがないのだ…
知られてもいけない。
何故なら、約束を破ったことになるからだ。この関係はいくつかの約束で成り立っている。
例えば、"かわりばんこにネコか、タチをやる" "他のヒトにあっても、知らないふりをする"
"ウリではないから、お金をだしてヤらない"
など、細かいことは、幾つかあるが、最大にして絶対の約束があるそれが"決してアイを求めてはいけない"

それを破った事になる。それを知られたら、きっとこの関係を続けられなくなる。


――それだけは、阻止しなければ…

警告が頭の中で響き渡るぐるぐると脳みそが揺さぶられて、気持ちが悪いけれど何処か吐き気がする中に甘美で濃密な快感のような、そんなモノが巣くっている……
手離せない。
どうせなら、彼を閉じ込めて、ベッドに縛り付けて、誰にも触れさせず、その瞳には自分以外を映させず、その綺麗なコエすら喉を掻き切って聞こえないようにしてしまいたい。そうして、自分だけを抱きしめて、アイを囁いて、傷つけて、犯して、殺して欲しい。そんな猟期的な妄想をさえ狂ったようにするようにさえなってしまった。


彼の瞳には、自分など映ってさえいないのに…


どうかしている。
壊れてしまったのだろうか?
それとも、傷ついているのかもしれない。

どちらにしろ、自分が狂ったことには変わりはない、そんな風にしか考えられなくなっていた。

「はっあン…ふっ…」
「んッ…」

息も絶え絶えに繰り返される、哀しい口付け。
それでも、傷つきながら、この口付けを拒まず、あまつさえ求めてしまう悲しきヒトの性。

「おっ…いい感じに盛り上がってるじゃん」

――嗚呼…現実が突きつけられる

彼の背後で、悪魔の囁きが聞こえた。


ネコをかってでた哀れな男に跨るのは、その男すら凌駕するほど報われない憐れむのも、馬鹿馬鹿しくなるような男だった 。

綺麗だったシーツは彼らの汗とシャワーでついた水滴のおかげで、グシャグシャに乱れている。
それの白さは彼らの肌の白さと乱反射して魅惑的に悪魔の様な彼の瞳に映った。
眩暈がするような甘さがどことなく部屋に漂う。


実際には、そんな感想を抱くのは彼だけで、漂ったのは鼻を摘みたくなるような鉄錆のような血の香りだった。


「あッ…うっあああァ!!」
痛みに顔を歪め、腹の奥底から出したような低い唸り声。

「いたいー?」
「はっ…」

毎回この時ばかりは、本気で嫌になる。
彼の背中に爪を立て血が滲む位に容赦なく、痛みを与え、自分は恍惚とした冷笑を浮かべている姿は、自分からみても、ありえないような位異常性があった。

「ねぇ?痛い?」
「はっ…いた、アい…あンあッ!!」
「嘘吐きだよね?こんなに気持ちよさそうに、感じているのに…淫乱」
「あぅっ…」

くすくす
愉しそうに、まるでお気に入りの玩具で遊ぶ純粋無垢な子供のようだ、だから尚更たちが悪すぎるのだ。

悪い事とは思っていない只楽しく遊んでいるだけ罪悪感など感じた事すら無いだろう。


それも、相手の好意を知ったうえで、それに漬け込んだとびっきり悪質な"遊戯"

愉しいだろうさ。
自分の言いなりで、痛めつけても女のように壊れたりしない、最高の玩具

そんな"遊戯"を止める事など、文句すら言えない彼には無理な事だった。


ただひたすら、傷つきながら、歪んだアイを受け止める愛しい彼を見つめるしかできない。


「ほら…どうしたの?さっきの続き、しようよ」

ひょうっと、窓の外でビル風が啼いた。
カタカタと、立て付けの悪い窓の硝子が震えている。
ぎしりと軋む寝台の音がやけに鮮明に脳内に残った。

「まずは、キスしながら、弄ろうか?それとも、いきなり慣らさないで、中にいれる?血がでちゃうかもね、綺麗だろうな。白いシーツと白い肌の上に赤い花が咲くんだ。どうする?」
「はっ…」
「ねぇ?」

聞きながら更に、爪を肌に食い込ませる。

「ふっ…くッあ」
「なんか、言えよ」
「あがッ」
「……おい」

冷徹な顔が、彼らを見下ろしていて、無意識のうちに体がぶるりと震えていたが、身体の奥底から絞り出す様にして声をだした。

「だ、いて。ください」


絞り出した声は思ったよりも、か弱くて、風が少しでも強く吹けば消えてしまいそうな小さいものだった。

「はっ…だってさ。抱いてあげなよ」
「う、くっ…あァ、はッ、い」

同じことの繰り返し
無意味な行為


無力な両手
抱かれたり抱いたり
いくらそんな事をしても空白の隙間は埋まらず
哀しいかな、小さくなって、ひとりで震える体を抱きしめる。


どうすれば、この行為を終わらせる事ができるだろう?



出来ない事を考え、また低回する
無理なことなのだ
他の都市では出来るような簡単な事も此処では何も意味を成さず、只同じことを繰り返す

ぎしっ

また一つ、寝台が啼いた
抱いてと言った言葉どうり、彼は抱かれる。
口付けは荒々しく、獣が餌を貪るように、彼自身の熱は、サディスティックに口淫され、だらしなくも、厭らしくまた艶めかしく、先走りの白濁が甘ったるい蜜のように零れ始めた。

「あン…ふ、あ」

キスの間に漏れ出す啼き声は女のそれよりも、それらしい。

びちゃびちゃと音をたてながらしゃぶられる。
時々歯をたてたり、亀頭を舌で器用に弄ばれ更に白濁とした体液がそれを含んでいる彼の口の中に広がった。
苦々しい逸れを吐き出しもせず、少しの間口の中で堪能したあと、ゴクリと喉を鳴らして呑み込む。

「ひっ…」
「そろそろ?」
「うん…しゃぶって」
「えっ…んグっ…」

その声を合図に、突然今までキスをしていた彼が起き上がったかと思えばいきなり、彼自身の逸れを口の中に押し込んできた。

「ふっ…ん」
「歯ァ、たてないでよ」
「ん、あふっ…んんッ」
仕方なしに、両手でおずおずと、彼の逸れの根本を掴んで舌を這わせる
裏筋を重点的に舐めてやれば彼も卑猥な先走りを垂らした。
それが、何故か嬉しくて、夢中でしゃぶる。
「はァ、んっ」
彼のそれは固く膨張し、それをみているだけで自分の後腔がひくつく
「後、慣らしてあげる」
「ふぁッ」
「きつッ」
今まで自分の逸れをしゃぶっていた彼が、そのまま空いた片手の指を後腔にずぷりと挿れた。
「はン…」
「感じてないで、俺のしなよ」
「ふっ…」

生理的な涙が頬を伝う
「淫乱だね」
くす
くす
「あふぁッ、んんっはァ!!ぁッ、ん」
「指、増やしてあげる」
「やぁッ!!」
バラバラと、中で動かせば、快感が身体じゅうを閃光のように駆け巡る
「俺のも、しろって」
「うくっ…は、い」
「あんっ…そ、いいッ」
見下す表情は余裕などなく、快感に溺れるもののそれだった
「気持ちいい?」
くっくっ
喉を鳴らして笑えば、不快感が心を支配する
けれど、体は別な生き物のようによがって、大きく跳ねる
「はッあン」
「一回、イったら?」
壊れそうな理性と躰の奥底から湧き上がる無限の様な快感に全てをなげだしくなった

しかし、意地悪なことに根元をしっかりと掴まれてイくことができない。中途半端にぶら下がったような欲のせいで、先走りだけが、溢れていく。「ふっ…お、ねがっ…いします。い、いかせて、下さぁいッあン…ふぁッひゃあぁぁァ」
「どうしようか?」
くっくっと喉を再び鳴らした
ひゅうひゅうと体に当たる、隙間風に不快感が煽られ、只虚しさが溢れているのではないか?
そんな当てのない思考が脳内を占めるが、しかしそれはやはり勝手な思い込みでしか無いことを理解すると、どうしようもなくなって、しかしながら、その持て余した感情がそれを上回る無限に引き出された快楽によって、全てかき消された。
「お願い…し、まっァァアアアアぁッひゃあぁぁぁぁァァァァ!!!!!」
「…ふうッ。やっぱり、あきないなっ」
「確かに」
突然、解放された快楽は先ほどまで抑えられていた理性の鎖などいとも簡単に破ってくれた。
嗚呼、なんと脆い。

セックスするとどうしても、何処か寂しさが残る。仕方のないことが虚無感に変わる。

そんな自分に見切りを付けられず、ブラリと中途半端な生き方をしている自分に軽蔑しているのだ。けれど、以前にも同じことを考えたようにいっこうとして光が見えない。全く嫌になる。薄れゆく意識の中嘲笑う自分がいた。



目を覚ました時はとっくに日が昇っていた。

隣では疲れた顔で未だ眠りについている彼らの姿があった。
自分が気を失ったあと、互いにネコを務めたのであろう、後孔から精液がトロリとたれていた。


シャワーを浴びて、体を清めて昨日の服を着る。今日は午後から収録がある。

二人が起きる気配は無い。

仕方なしにベッドサイドのメモ用紙に"先に帰ります"とだけ書き残して部屋を後にした。

お金をカウンターの女に渡すと、下品た笑みでまたのお越しをと言われた。


空は重たく灰色に染まっている。
まるで今の自分のようだ。

惨めな男は明かりの消えたネオン街から去ってゆく。

今日も寂しさを抱えて。


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