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ファンタの味
第15話






流れ出した時はもう止まらない


ただ進むだけ……









ピンポーン


桃城宅にチャイムが鳴り響いた
外と家内を繋ぐ扉を開ければそこには愛しい少年-ヒト-

桃城が家の中に少年―越前リョーマを進めればリョーマは おじゃまします と小さく呟くとそのまま階段を登っていき端にある桃城の部屋へと入る


「…きたな」


相変わらず汚い部屋
けれどそれが桃城で、リョーマはそんな桃城も含めて、この桃城武という人間が好きなんだと実感する

そのまま歩みを進めベッドへと腰掛ける





ギシッ





ベッドのスプリングが軽く軋む小気味のいい音をただボケーと聞きながらリョーマはこの部屋の持ち主を待つ


「ったく、行動早過ぎだっての
それに汚いは余計だ」

「…地獄耳」

「うるせー」


部屋のドアを閉め桃城はリョーマにゲームのコントローラーをほうり投げる

桃城自身ももう1つのコントローラーを握ってゲーム機のスイッチを入れた


「またこれ?」

「あぁ、この前の仮を返してやる」

「上等じゃん」


二人は目の前のゲームに集中する
すると自然と場は静まりゲーム音と時計の針の音が響き渡る


一刻ほどすると桃城はいきなりコントローラーを放り投げる
2つに別れた画面の桃城側には青い字で 負け とでかでかと書かれていた


「桃先輩、まだまだだね」

「くそー、もう止めだ!!」


本体の電源をブチッときると軽快に流れていた音が一瞬で消え場が静寂な雰囲気に包まれる

そんな静かな場では小さな音でさえも大きく響き、妙に互いを意識してしまう

そんななか先に動いたのはリョーマ
傍らに置いてあったファンタを手に取るとプルタブを開け一気に口の中へと流し込む


桃城はそんなリョーマの一連の動作を眺めていた

ファンタを飲み込む時に動く喉仏
飲み込む時の小さな音
口を離す時の仕草…


正直リョーマとしてはとてもやりづらい状況
仕方なく桃城の方を見れば視線は混じってしまい


― あっ…


一瞬で視線を外す

けれど、そんな些細な行動でも愛おしいと思えるのはただ単に愛しているからなのか、あの事を乗り越えられたお陰なのか…


「越前…」


桃城はリョーマを呼ぶ
けれどいくら待てどもリョーマは桃城の方に視線を注ぐ事はせずただジッとそっぽを向いたまま


「越前……」


もう一度名を呼べば渋々といった感じでリョーマはやっとこさ桃城を見つめる

けれどその表情は…


― 真っ赤…


今にも蒸発しそうな程赤く、例えるならば林檎
そんなリョーマが愛おしく、桃城は正面からリョーマを包み込むように優しくフワリと抱きしめる


― なんで…


あの時に気付かなかったのだろう
この感情に…

ただ一緒にいれるだけで…見つめ合うだけで愛おしい

ただその先の事ばかりを意識しすぎて相手の想いも思いも…性格すらも


けれど………


「………」


腕の中におさまっている小さな温もりを少し離し見つめれば少しだけ俯き、また顔をそっとあげると小さく頷く


「桃…先輩」


けれど……今回の一件で考えが改まったのは何も桃城だけではない


ただ自分がいやだからと断り続け桃城が勘違いを起こすまで桃城の想いに気付かなかったのもリョーマだから


「目…」


桃城が呟けばリョーマはソッと視界を瞼を閉じて遮る
同時に肩に置かれる自分よりも大きな手


そして近づく気配…





「っ………」





一瞬、二人の唇は確かに触れた
それはとても短いけれど今の二人には長過ぎるほどの一瞬で

名残惜しそうに離れる
それでも心はもう幸せで一服に満たされている


「ありがとうな…越前」




俺達の恋は始まったばかりで


困難が多い…


けど





「別に…俺も、嬉しかったから………」





1つの困難を越えた今


前よりは絆が深くなったよね?





「素直じゃねーな」

「うるさ……っ!?」

「…、ごちそう様」












俺達が交わしたキス



それは短くとも長く



甘い



甘い



ファンタの味がした――…








END



08/05/15

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