忘れ物
4.
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気まずい空気になってから、数分が経った。
 
未だに2人は口を開かない。
 
ヤムチャも、モニターを見つめながら 動けずにいた。
 
もう 帰るべきだろうか。
 
だが、この空気のまま2人が謝ったり、ましてや仲直りするとは考えにくい。
 
やはりここは自分が出ていって、間に入ってやった方がいいかもしれない。
 
しかし、それでは立ち聞きしていたのがバレてしまう。
 
さて、どうするか…
 
考えていると、モニターのスピーカーから小さな、本当に小さな声が聞こえた。
 
 
「………よ……」
 
「?」
 
声の主はブルマだ。
しかし、何と言っているのか聞きとれない。
 
ベジータも同じなようだ。
 
スピーカーに思いきり耳を近づけた、その時。
 
「なによなによなによ――――っ!!!あたしはねぇっ!あたしは…あたしはただ…あんたが、し、心配な…だけなのにぃっ…」
 
やっとそう言って顔を上げた彼女を見て、ベジータは、そして突然の大声に耳がキンキンしていたヤムチャも、ギョッとした。
 
だが それも無理はない。
 
いつも勝ち気な彼女の瞳から、ぼろぼろと大粒の涙が零れたのだから。
 
「お、おい…」
 
「うわーん!!ベジータのバカバカバカ―――っ!!!」
 
ベジータは慌てたように声をかけたが、ブルマはとうとう床にへたりと座りこんで泣き出してしまった。
 
 
声を上げて泣く彼女を 戸惑いながら見つめていたベジータだが、やがてブルマの前まで歩いてくると、しゃがんで彼女と目線を合わせた。
 
「ブルマ…泣くな。」
 
そう言っておずおずと腕を伸ばすと、白いグローブをつけた手で 彼女の頬をそっと拭う。
 
今までに見た事の無い彼の優しい仕草と声に、ヤムチャは驚いた。
 
だが拭っても拭っても、涙は次から次へと溢れてきて ベジータのグローブに、ブルマの袖に、点々と透明な染みをつくっていく。
 
それに耐えきれなくなったのか、ブルマの肩を両手で掴んで、ベジータは言った。
 
「わ、わかった…」
 
「え?」
 
言いにくそうに目をそらして、だがしっかりと、彼は言った。
 
「お前の、言う通りにする…」
 
 
ブルマの目が大きく見開かれる。
 
「ホント?」
 
「…ああ。」
 
「じゃあ、またケガしたら あたしに言ってくれる?」
 
「…ああ。」
 
「ちゃんと手当てもさせてくれる?」
 
「…ああ。だから、もう泣くな。」
 
ベジータが全てを承諾したのが分かると、ブルマの顔はぱあっと明るくなった。
 
「嬉しい!ベジータ大好き!愛してる!」
 
本人の言う通り、よほど嬉しかったのだろう。ブルマはベジータに抱きついた。
 
「なっ…」
 
妻からの突然の抱擁と愛の言葉に、ベジータは顔を真っ赤に染めた。
 
「バッ、バカ、いきなり何をっ…は、離れろ!」
 


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