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116. 午前十一時二十五分
カーン カーン と幹に斧が入る音が森に木霊した。森と言っても、此処は山の中だが。頬や首に落ちる汗を拭う。一人で作業をし続けているが、流石にこれはキツい。木を切り倒す作業にしても木を平たい地面(俺達の家となる前に動かすだけだが)へ運び出す作業にしても その枝分けや資材にするのも全て一人はキツい。野郎共がいりゃぁ 作業分担して終わらす事が出来るだろうが、生憎此処には俺一人だ。早いところ毛利の野郎や若虎、竜の野郎達を引き連れてこなけりゃぁ 何時まで経ってもこの作業は終わりゃしない。
確か、真っ白が事前に言っていた筈だ。「水とか熱とか光熱費引く人が来るんで挨拶しといてくださいね」、と。ずっと道路に向かって木を切り倒して来ているが、その気配は未だに来ない。時間が掛かっているのかそれとも遅く来るのか。一息を入れて 大きく息を吸って吐く。暑い。水分が欲しくなった。
元親は手に持った斧を切り倒した幹の切り株に カツン と刻みのいい音を立てて 自分達の家となる場所へ足を進めた。

元親はずっと木々の生い茂った所のお陰で、炎天下の暑さに当たらなくてすんだ。生い茂る木々の木陰で さんさんと輝く太陽の直射日光に当たらずに済んだが、今まで自分が木々を切り倒してきた道、そして家となる場所に出ると、木陰にいた時より多くの汗が出た。
水分を補給せねば、と思い 縁に向かう森の中へ進む。
途中、双竜や真田とその忍、毛利の野郎が畳を外へ運び出していたが、水分を補給させることを優先させて森の中へと向かった。声を掛けられた時は 後で手伝う と残しておこうと思ったが、それはなかった。

藪を潜り抜け森の中を進む。
この家に来た時、毛利の野郎が酔ったので真っ白が何処からか水をとりに来てそれを毛利に飲ませていた。此処に着いた当初も何処からか水の流れる音が聞こえたし、真っ白もきっとそこから毛利に飲ませる為の水を汲んだのであろう。真っ白は最初、ここに"水もひいてない"状態だと言っていた。俺達がいる世界、真っ白の世界や生活に関するある程度の事は、彼女の家にあった書物や テレビと言う機械、彼女自身の言葉から学んだ。
木を切り始めてから幾刻か経ち、喉に乾きを求めて 試しに水の流れる音を辿っていくと、川を発見した。
一口手に掬って飲んでみても異常は無い。元親は此処を水分の補給場とした。後で彼等に教えても問題はないだろう。熱の放出は、外よりも内が軽いはずだからである。

そして今も暑さと喉の渇きを感じて 元親は 水分の補給場へと向かっていた。ポキリ、と枝を踏む感触がして足元を見る。枝が落ちておりそれを踏みつけていた。元親は水分を補給する為に川へ往復する際、枝等を落とさないように気を付けていた。
元親は少しの警戒をして川へ向かう。だが、木々や藪の間から見えたのは看覚えのある姿だった。元親は真っ白へ近づくが、真っ白は 後ろを振り向かない。気付いてないのか。
何かに夢中であるならばそれを邪魔するのは悪いか と思って元親は音を立てないように気を付けながら真っ白の後ろへ回り込む。真っ白は川に手を突っ込んでいた。手に筒状のものが握られていた。
このまま観察して後ろから声を掛けるのも有りかもしれないが、敢えて横へ移動して真っ白の顔を見る。横顔で しかも俯いている為 見づらかったが、真っ白は微笑を浮かべたまま川に手を突っ込んでいた。しかし微笑は崩れて眉間に皺が寄せられる。

ふと真っ白が元親に気がついて顔を つつ、と動かして元親へ顔を向ける。「おつかれさまです」と真っ白は言う。「おう。」と元親は返す。そして「何してんだ?」と真っ白に返す。
真っ白は「水筒に水を入れていた」と返す。しかしそれは元親の尋ねた問題の意図とは離れていた。


「何してんだ?」

川に手ぇ突っ込んで。

真っ白は元親の問いに「水筒に水を入れていた」と返していたが、元親は 何処かそれが違うように感じた。ならばあの微笑の意味は何だったのだろうか。
元親は疑問に思いながらも喉の渇きを潤す為に川へ身を屈め水を掬う。真っ白は 元親のその行動を見て、何かを思い出したように彼に 川の水の入った水筒を手渡した。
これは毛利達に渡すもんじゃねぇのか?と疑問に思い、真っ白に尋ねる。真っ白は「後で水汲むから」と返した。それもそうか。俺は真っ白から水筒を受け取り、一気に飲み干す。…喉が渇いてたのだ、凄く。

水筒を飲み干していると真っ白の視線を感じる。「俺に惚れたか?」と言う軽口(半分本気でもあるが)を叩こうとしたが、何やら別の事を考えていそうだったので止めた。

口元を拭った後 真っ白に水筒を返す。真っ白は俺から空の水筒を受け取った後、屈んで川に水を入れ始めた。いや、寧ろ川で遊ぶ事が目的と見える。手で川の水を弾き始めた。
どうやら楽しげに見えたので 真っ白の横に屈み、真っ白が川と戯れるのを見る。真っ白は横目で俺を見た後、水筒に水を入れる振りして川で遊ぶ。

無表情装いつつ(っつーか装えてねぇが)、無邪気そうに楽しげに遊ぶ真っ白。
それを見て、ガキの頃楽しかった思い出が蘇ると同時に、昔毛利の野郎にやられた事を思い出す。真っ白に当たるわけではないが 昔を思い出してガキの頃の気持ちに戻ったわけだ。童心に帰る、と言う。何も考えずに ただ脅かしてやろってなだけで後ろを軽く押したわけだが、川へそのまま落ちた事には流石に驚いた。
……引っ張りあげるべきかそのまま押し倒s…いやいや止めておこう。とりあえず、川から上げねぇとな。

「ちょっと チカさん!」と言われた時は色々と時が止まったりヤバかったが。

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あきゅろす。
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