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115. 午前十一時二十五分
川の場所は大体知っている。最初 家を見た時に、大体の川の場所を教えてもらったからだ。
確か、仏間の方の縁側の方の森を潜っていけば、確かつけると言う・・・。
私はこじゅさん達が畳を外に干している間に、縁側の方に茂る森へと進む。がさごそと手足に草木が刺さる。だが 掠るだけだ。そんなに重症な怪我はしてない。
がさごそと草木や茂みを掻き分ける。ふと空を見上げると、怏々と茂る森の木々と正午の青くも白も交じる空に 緑の光が差し込まれていた。
うわー。緑だー。生命だー。と そんな事を思いながらまっすぐに あの時指されていた方向へと進む。うん、ただひたすらに指し示させられた方向へ行けば、きっと目的地にへとつけると思うんだ。
・・・・・・いや 昔それで迷っただろ。と言う突っ込みは無しの方向で……。

そんな事を考えながら藪とか掻き分けながら真っ直ぐ直線に沿うように進む。
沿うように、とは なんだか直線に進んでいるように見えて また何時の間にか違う道に進んでいる事があるからだ。今回は、なんとか直線に行くように注意したから行けたらしいが…。

水の匂いが段々近付いてきて、藪や枝を掻き分けたら川についた。大きな川を予想していたが、実際には なんかちょこっと一回り小さな川だった。なんか、かちかち山とかかぐや姫とかの日本昔話の童話に出てきそうな川があった。
なんか、日本昔話の岩とか小石のゴロゴロ転がっている感じの小川。そのまま おばあさんが川で洗濯しているとどんぶらこどんぶらこー と、そんな感じで使える位に。どんよりとした曇り空じゃなくて晴れ晴れとした空だから、 あー……『川のせせらぎ』と表現できそうな位の風景です、今。

川の全体を一通り見た後(なんか 遥か向こう側から 上流から下流に向かって流れるような滝みたいなのがあった)、駆け足で急いで川の方へ向かう。ぼーっとしている場合ではなかった。一応 こじゅさん達には黙ってここへ来ているのだから、まぁ 見つからない内に川で水を汲んで戻ろうかな、と言う ちょっと小さい頃の悪戯小僧気分が抜けられないように気をつけなければいけない。悪戯小僧気分が抜けると言うのは 佐助さんやこじゅさん達が来るかどうかは分からないけれど、彼らに見つかると、なんだか侵入者が敵に発見されたような、「しまった!」と「残念」みたいな気持ちになることだ。
まぁ、それはいい。今は川の水を水筒に汲まなければ。

私は川岸へ 歩く速度を落として 近づき、足を屈めてカバンから出しておいた水筒の口を開けて 水筒の中へ水を入れる。水筒へ水を入れる際に、水筒を持つ手が川の中へ入る。
さらさらとしていて冷たかった。
水遊びするには丁度いいんだろうな。水遊びしたいな。だけど着替えとタオルないから無理だ。
軽い落胆を抱いきながらも すぐに気を取り直して しばらくの間水の感触を楽しむ。すると、いつの間にか誰かの気配がして横目で確認する。
見覚えのあるような足に靴。上へ振り向くと、そこにチカさんがいた。

「あ、こんにちわ。」
「おう。」
「お疲れ様です。」
「おう。」
「なにしてたの?」
「お前こそ 何してんだ?」

そいつに水を入れていたようだが、とチカさんは私の水筒を指差して言う。

「うん。皆暑くて汗かいてたから。」

水が必要だと思って川の水を水筒に汲んでいた、とチカさんに伝えた。確かに 幸村さんも佐助さんも政宗さんも こじゅさんも手や腕で額から落ちる汗を拭っていたし、なりさんに至っては 木陰の方でへばっていた。(それは 私が森の藪の中へ入る前に、なりさんが持った畳を外へ干した後 近くにあった手頃な木陰へ入って 木の幹に体を預けてへばっていたのを見たからだ。) だからすいぶんが必要だと感じてここに来た。
私は水筒をくみ上げて、軽く水気をとり 蓋を閉める。

「ん?あ、あぁ。水飲みに来た。」
「水?」

あぁ、川の事か。

「おう。」
「それ、飲めるの?」
「 毛利の野郎に飲ませておいて、何今さらな事を言ってんだ。」
「あ、そっか。ごめん。」
「謝らなくていいぜ。」

と言って、チカさんは身を屈めて川の水を飲もうとした。あ、と手元に水の入った水筒を思い出した。

「チカさん、チカさん。」
「あ?なんだ?」
「ここに水筒があるから、これ。」

と 水を飲むのを中断して振り向いたチカさんに水筒を差し出す。

「・・・いいのか?これ、アイツ等に渡すもんだろ。」
「ん。ま、でもチカさんが飲んだ後で入れ直すからいいよ。」
「 そうか。じゃ、遠慮無く全部頂くぜ。」

と言ってチカさんは水筒を取り上げ、ラッパ飲みをし始めた。チカさんの喉仏がごくごくと鳴ったり上下に動いたりしているのが分かった。なんだかその喉仏を押したい衝動に駆られたが、ぐっと我慢した。
チカさんは全部を飲み終えた後、ふぅ と一息をついて口元と頬骨に沿うように流れる汗を拭った。

「ありがとな。」
「うん。」

チカさんから水筒を受け取ると、軽かった。
私はそのまま水筒を受け取り、膝小僧を曲げて 水筒の口を カポッと開けて水筒を川の中へ入れた。チカさんが私の動作を見た後、隣に腰を下ろした。ヤンキー座りだ。まぁ、膝を閉じてないと言う点を除けば、私も似たようなものだけど。いや、膝はちゃんと閉じてますよ、えぇ。と言うか、ヤンキー座りの方が結構辛いよ。小さい頃、一回やってみたけど。長時間挑戦しても、地べたにつくし。なんとか筋力が足りない所為だ、って言われるかもしれないけどさ。

川に手を突っ込んで入れてるから、冷たい水が私の手を包むように通り過ぎていく。暫し水の感触を楽しんでいたら 隣でパシャパシャと言う音が聞こえた。横を振り向くと、チカさんが川に手を突っ込んでパシャパシャとやっていた。川の水を汲んだまま じーっとチカさんの方を見ていたら、チカさんが気付いたように私を見た。
チカさんは私を見たまま ニカッと笑った後、私の顔と身体に冷たい感触と バシャン と言う音が頭の中に響いた。

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