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123.
「あちゃー…。」

佐助は 内から外の様子を覗いていた。と言っても、外の喧騒が家の中まで聞こえているだけだが。
「これは暑さで参っているなぁー・・・」と呟きながら、地下から引き上げた壺を下ろした。滑らかな床の一部に、長方形の縁を描くように凸んだ場所があり、そこに取ってらしき凹みがあったので軽く叩いてみたところ、空洞の音がしたので 開いてみたら、壺と透明な瓶が数個、広い空間の中に置いてあった。中身は腐っており 使えそうにないが、壺や瓶の方は洗えば使えそうなので、佐助は一人、穴から 壺と瓶を出す作業をしていた。

積み上げられた石の隙間を泥か何かで押し固めた釜戸らしきものの すぐ横にある勝手口から小十郎が顔を出す。

「よぉ。どうだい。」
「まずまず、かな。とりあえず、後はこれとこいつを出すだけだな。」

と、佐助は 今しがた出した壺と、まだ空洞にある残りを指さして言った。

「? そいつは何だ?」
「保存食っぽいけど、腐って駄目になってる。」

佐助が小十郎の問いに首を振って答える。小十郎は 佐助の出した壺に近寄り、木蓋を開ける。開封された壺から放たれる臭気に 佐助は思わず眉間を寄せた。

「こいつは…肥料に使えるな。」
「そう?そいつは良かった。それの処分を考えていたところだったからね。」
「あぁ。暫くは…あっちにやっといた方がいいだろ。」

小十郎は台所の勝手口を指さして言う。
横には、つっかえ棒が立てかけたある。

「・・・そうだね。猪や野良犬が食べるかどうかは微妙だけど…用心に越したことは無いね。」

と、佐助は小十郎の提案に賛同した。

ふと周囲を確認してみる。この作業を終えれば、佐助のする仕事はもう無い。一度、小十郎の残した仕事の事について尋ねてみた。

「俺か?」
「そう。片倉さん、もう終わった?」
「まぁな。ある程度の目星は付けたからな。」

と、小十郎は頭の中で 土や気候、水の状態から何が一番よいか と考えた 農作物のリストを思い出して、そう答えた。佐助は「そう」と返す。佐助は暫し顎に指を当てて考えて「じゃぁ」と口を開きかけた途端、二度目の騒音が 佐助の口を遮った。

「うわぁ・・・旦那達、まだまだ元気だねぇ・・・。」
「・・・そうだな。」

羨望、とは言いにくい表情で 幸村達が作る騒音と怒声を聞きながら、室内だと言うのに 片手で ひさし を作った。先程聞いた騒音とは、一つ違う要素が含まれているな。

「・・・政宗様達も、暑さで参っているんだろう。」
「・・・そう、かな?俺には もう一つ、別の要因が絡んでいると思うんだけどなー?」

にやりと作り笑顔をした佐助を横で見、組んだ両腕を崩さずに小十郎は外を見た。彼の両目には、石釜と 開いた扉から見える緑の景色がうつっていた。

「・・・。」
「まだ帰ってこないのかなー、真っ白ちゃん達。早く戻ってこないと、折角買ったばかりの家 燃やされちゃいそーなのに。」

軽口を叩く佐助を余所に、外へ出る小十郎。佐助は彼の背中に視線を投げかけて、どうしたのかと尋ねる。

「何か冷たい物を持ってくる。」
「そ。じゃぁ 俺様はここで、自分の仕事の続きでもしてるわ。」

小十郎に背を向けて 穴の中から壺やら瓶を出す作業を再開した佐助。そんな彼を訝しく思い 小十郎は肩越しに視線を投げかけた。

「・・・いいのか?」
「・・・何が?」
「お前の主君の事だよ。」

佐助は肩越しに小十郎の様子を窺った後、「あぁ、」と何でもないように 小十郎の疑問に答えた。

「俺様も、アレはちょっとは危ないなあ と思っているけど、結局は旦那次第だからね。あー言う事には、旦那自身で解決して貰っている。まぁ、旦那の命に関わる事になったら 話は別だろうけど。」

まぁ、そこまでやる程旦那は阿呆じゃないし。と 佐助は付け足した。
小十郎は 「そうか」 と頷き、佐助から視線を離し、外へ出た。
彼の足は 外へ向かっていた。

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あきゅろす。
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