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121. 自覚をもって。
「終えたぞ。」
「あ、あぁ…うん。ありがとう。」

なりさんが私の傷の治療を終え、腰を上げた。軽く試行のつもりで足を上下に上げた。動きやすい。なりさん、最初 ものすごく 何時までも傷口に消毒液を塗り続けたものだから、包帯の巻き方に少し不安があったが(たとえば 幸村さんのように、包帯が何時の間にかギプス並みの太さになったとか(以前、あった。)、なんだ杞憂か。よかった。
なりさんは 私の傷の治療を終え、腰を上げた後、私の座っている岩の横にあった、小さな腰かけ岩に腰を掛けて、腰から一冊の本を取り出した。文庫本か。腰から取り出したことは―なりさんの服装には、腰には鞄や文庫本が入る程のポケットがついてないわけだし―ジーンズの腰のところに挟んで持ってきたのだろうか。クスリと笑うのを堪える。それじゃぁ、相手に失礼じゃないか。いや、ちょ…言葉に見下し感があって・・・。
私が一人、悶々とそう考えていると、なりさんが思いだしたように声をあげた。それに どうかしたのかと尋ねると、なりさんは「あぁ・・・」と声を上げた。

「・・・貴様に言う事があった。」
「え。何?」
「貴様の部屋にあった本は全て読み尽くした。だから 新しい物を買え。」

と、なりさんが簡潔に言った。なりさん達が来てから ひぃ、ふぅ、みぃ… 指で数えて考えてみると、中々なりさんの読む力はすごい、と言う事か。

「読み直したりしたらどうなの?」
「はっ。飽きる程読んだわ。」

なりさんがうんざりした目で答える。まぁ、実は私も 自宅にある書棚にある本全てはもう 資料参考にする位しか読んでない。
もうそろそろ、買うべきか。

「そうですねー…。私も もうそろそろ新しいのが欲しいので、買い時かもしれないね!」
「わざわざとって付けたように言わんくてもいいわ。」

うんざりしたように言ってから なりさんは本に目を戻した。あっはは と私は空笑いして返しとく。
遠くから カーンカーンと言う、小刻みな音が聞こえてくる。チカさん達が木を切り始めたのであろうか。確か、私はなりさんにも 切った木の枝を切って調達することの役割をしてほしい と言ったような気がするのだが・・・サボりか?

「わー。遠くから、木を切るような音が聞こえますねー。」
「そうだな。」

それでも振ってしまうのが、私の性か。そして なりさんは本から目を離さずに即答する。

「・・・・・・・・・なりさん。確か私、なりさんに チカさん達の手伝いを頼みましたよね?」
「なんだ。我に重労働をしろとでも言うのか。」
「いや、切った木の枝取りと言う、なんとも比較的楽な作業がありますでしょうに。」
「我の手に傷がつくからやらん。」
「あれ。なりさん、何時からそんなキャラに?」
「貴様もするなよ。我と貴様は一心同体だ。貴様の身体に傷の一つでもついたら 溜まったものではないわ。」
「あれ。それって、つまりは『お前と俺は道連れだ』ってー事ですよね?つまりは共犯者的存在的な?」
「まぁ、そう言うことだな。」
「わー。やっぱりー。」

ぱちぱち、と何となく手を叩いてみる。まぁ、自分の考えが当たって嬉しい と言う一種の動作なんだけど。

ふと、空を見上げてみる。
やっぱり空は 青かった。



「ヤバい。海 行きたくなってきた。」
「・・・そうか。」
「海行きましょーよ、海ー。海行きたい。ビキニ見たい。綺麗なお姉さん見たい。かき氷。白い海。青い春ッ!!!」
「何だそれは。しかも、最後。明らかに違うものがあるだろ。」
「かき氷と焼きトウモロコシが食べたいです。」
「いや。もう 殆どが間違いだったな。我の失言だ。貴様、もう少しまともな日本語喋れ。」
「いえ。ただ思った事を口に出したまでですよ。」
「なら、少しはまともに考えて喋れ。」
「え。なんで?なりさんだからこそ、私のありのままの姿を見てほしくて、在りのまま 私がありのままに思った事を口に出しただけじゃないですか。」
「・・・・・・・・・。」

貴様はもう少し、自覚と言う物を持ったほうが良い。


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あきゅろす。
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