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72. 椅子
「うぅ・・・。」
「ちょっと、アンタ。やっぱ無理なんじゃないのかい?」
「いや・・・伸びの運動しなければ、この位・・・っ!」
「 ヤレヤレ・・・あんま、無理しないでくれよ?」
「大丈夫です。幸村さんから聞き及んだ話によると、全て佐助さんに持ってかれそうですし。」
「あぁ、そ。」

と、佐助さんは素っ気なく返す。まぁ、そうかもしれないなー。何せ自分の主と長い間一緒にいた相手だ。意地でも警戒はする。自分だって、恩を返すべき相手が馬の骨とも知らない輩と一緒にいると想像するだけでも、その相手を意地でも警戒心バリバリにしたくなる。
佐助さんにコンロや蛇口の使い方を教える。「へぇ、凄い技術だねぇ」と佐助さんは言ってたが、すぐに慣れてテキパキと料理の仕込みを始めた。

「・・・今日、何を作るんですか?」
「ん?鉄分たっぷりの料理。真っ白ちゃん、血 流しすぎたから。」
「ふーん。」

佐助さんの軽口を軽く流し、台所に置いた椅子に座り、その上に置いておいた料理雑誌をぱらぱらと捲る。

「ん? それ、調理法ばっかのやつ?」
「ん。まぁ・・・。」
「・・・なんか、作ってほしいの、ある?」
「ん、。」
「ん、ちょっと貸して。」

と、佐助さんは ひょい と横から 私が見ていた料理雑誌を取り上げ、まじまじとそのページを見る。「小匙一杯、ねぇ・・・」と佐助さんは呟いた。ちなみに 佐助さんに既に小匙多匙の意味を説明してあるから大丈夫だ。

「よし、作れるわ。」
「え、マジで?」
「マジマジ。俺様を信じてー。」
「うん、信じるわ。」

普通に即効で返したら 佐助さんは黙って 料理の支度に取りかかった。
暇なので台所の向こうから聞こえる声に耳を傾ける。
客間にあるお客さん専用の机は今、無い。いきなり六人もの大人数を抱えた今、今まで使ってきた机では足りなくなったのだ。そして急遽、客間の机と寝室にある机を使って食卓を囲む事にしたのだ。
今、寝室と客間の間を挟む扉は閉ざされている。摘み食いを出さない為だと言う。
向こうから賑やかな声が聞こえる。
"政宗殿、某が此処を座るでござるッ!"ハッ!馬鹿言ってんじゃ無ぇよ!俺が此処に座るって決まってんだよッ!"フン・・・我は此処に座るぞ。乳首、そこに座るではない。"あぁ?何でだよ。"そこは・・・"
等と言う会話が聞こえてきた。
あ、換気扇回してない。と思って立ち上がろうとしたら佐助さんが こちらを向いてきた。

「ん?どうしたの。」
「や、換気扇 回そうと思って。」
「換気扇? それ、どうやって回すの?」
「あぁ、その紐をポチっと押して頂ければ。」
「ポチっと、ねぇ。」

そう言って佐助さんは換気扇を回す為の紐を引っ張る。
ごうんごうん と音が鳴る。そう言えば、ずっと自分一人だけで作ってきたな。途中から、 幸村さんが来て、独りじゃなくなったけど。

「ねぇ、ちょっと聞いていい?」

佐助さんが料理に向きあいながら私に問いかける。

「えぇ、いくらでもどうぞ。」

と、佐助さんが言いたい事を察して 最初にそう言い放つ。 佐助さんはしばらく黙った後、質問をした。

「じゃぁ、素朴な疑問。なんで旦那を拾ったの?」
「自分に似てると思ったから。」
「 似てる?」
「私も飛ばされた身だから。」
「 飛ばされた?アンタも神隠しにあった、って意味かい?」
「 そうとも言う。で、それは近いにあたる。」
「 近い?」
「もしかしたら、これは神隠し的な大がかりなものである事。まぁ、これはあくまで推論。それと、一つ。」
「ん?」
「利用出来る物は搾り糟が出ないまでとことん使い尽くす。短期間で一気に使い尽くす。短期間って言うのは、一桁の数字の日数にあたるので、注意。後、私生活を知った物には死によって葬る。・・・それを念頭に置いて、質問して。」
「・・・うぅん・・・とりあえず、アンタが性格悪いんだろうなぁって事は分かった。」
「んー・・・まぁ、そうかも知れないね。敵かもしれない人にはそう感情や情を移してはいけないし。情を見せれば相手に馬鹿にされる事もあるし、ねぇ・・・。」
「 へぇ。ま、確かに あんたは童顔だからね。」
「まぁね。その所為で馬鹿にされる。」
「ふぅん。」
「それを逆手に取って怯えた所を一気に、ってのが私の一般的な策略なんだけど 。」
「 へぇ。」
「で、他に質問は?」
「うーん・・・俺様的には、アンタは敵か味方か、ってー言う決定的な証拠が見たいんだよねー。」
「・・・えぇっと、押入れの一番上の天井。」
「?」
「戸棚の中の薬品、押入れの下に入れたすり鉢とゴマすり、箪笥の一番下の衣類の一番下に入っているケース。」
「・・・。」
「それらが全て、私の武器の隠し場所、だったけなぁ・・・?」
「ちょっと、ちょっと。何勝手に武器の居場所教えてんの?」
「え、いや。どうせ後から分かる事だと思うし・・・。先に言っといただけ。」
「・・・。」
「まぁ、これは例外ね、例外。あっからさまな武器を持ってるのは禁止されてるの、私ら。まあ、それを使うのは専ら止めてほしいのだけど。」
「・・・。」
「あぁ、後で皆に言うつもりだけどね、 自己防衛以外の暴力禁止っ! って。まぁ…幸村さんには言い忘れたけど・・・。」
「ふぅん、それで?」
「や、そんだけ。他には?」
「んん・・・今のとこ、無いかな?」

そう言って佐助さんは再び料理に取りかかる。
向こうはどうやら軽い言い合いになったようだ。あ、こじゅさんが止めた。

「ところでさ。」
「え?」

佐助さんが また再び問いかけた。

「あんたって、そんな性格なの?」
「そんな性格って?」
「いや・・・今の旦那のように素直な性格なんだか・・・。」
「・・・まぁ、自分には正直に生きてますしね。」
「でも、たまに捻くれた事 言うよね。」
「まぁ、AB型ですし。」
「えーびぃ型ぁ?」
「あ、血液型占いの事です。詳しくは本棚にある『AB型取扱説明書』の本を読んで下さい!」
「へ、へぇー・・・。」
「えぇ。まぁ、今の現代の日本人は皆、血液型占いに騙されてますからね。」

自分もそのうちの一人ですがー、と呟いてみる。考えを述べたまでだ。
佐助さんは ふぅん と答える。

「じゃぁさ、」

佐助さんはまた聞き返してきた。

「俺様って、真っ白ちゃんにとって、どう見える?」
「・・・は?」

佐助さんの言葉に疑いをもって聞き返してしまう。だが、佐助さんの目はマジだった。本気ではないだろう、と言う事が分かった。遊びではない、真剣に聞いているのだろう。

「忍。」
「は、それだけ?」
「えぇ、主人に忠実に仕える忍。それだけです。」
「なぁんだ、それだけか。」

と言って佐助さんは調理に取りかかる。
香ばしい匂いが鼻孔をつく。

「ところで真っ白ちゃん、」
「なんでしょうか?」

佐助さんの質問に また答える。


「真っ白ちゃんは、真田の旦那の事、どう思ってんの?」
「・・・」

危うく第一印象が出そうになったが、なんとかそれを押し込めた。


「そうですねぇ・・・早く帰って、お館様の為に頑張ってほしいですね。」
「それ、本当?」
「えぇ。だから、ちょっと心配になると言うか・・・。」
「ん? どんな風に?」
「幸村さん、人を信じやすいと言うか疑いがないと言うか・・・。前、ちょっと危ない所に迷子になった時は間一髪の所で助かりましたが・・・」
「・・・。」
「それに、前カーテン破られた事やガラス割れた事、危うくシャワーの勝手が壊れそうになった事、料理をさせたら危うくガス爆発しそうになった事・・・なんか これらを含めてもまだまだ子供っぽい、って感じますし・・・ まぁ、全て厚意の上でやってくれた、ってのは分かってますが・・・あぁ、でも 今は力加減を知ってくれたみたいでちゃんとお手伝いをしてくれてm」
「本ッ当、うちの旦那がお世話になりましたァッッッッ!!!!!!!!!」
「あ、佐助さん?いいですよ、そんな謝らなくて。っと言うか、コンロ見て下さい。味と風味が落ちちゃいますよ。焦げますよ。」
「う、うん・・・」

と、佐助さんはちょっと泣きそうになって、またコンロに戻る。いきなり佐助さんがこちらに体向けて頭下げた時は吃驚した。

「・・・あ。そういや、俺・・・真っ白ちゃんに自己紹介、したっけ?」
「・・・あ、まだですね。そういや 幸村さんに佐助さんの事聞いて以来、ずっと佐助さんと呼びっぱなしでしたね。すみません・・もし不快な思いをさせたなら。」
「や、いーよ。忍者ハットリくんよりはマシだし。」
「そうですね。」

笑う。

「あ、俺は猿飛佐助だから。これからよろしくね 真っ白ちゃん。」
「えぇ。こちらこそ。 早く見つけないとなぁ・・・。」
「あ、敬語いいからね。俺も敬語使わないし。」
「じゃぁ、たまに敬語になるわ。」
「あぁ そう…。もし俺に何か手伝える事があったら言ってよ、俺に出来る事なら手伝うしさ。」
「あ、なら一言。民俗学とか伝統とかそういうの、分かりますか?」
「うーん・・・言い伝え的な何か?」
「そうです。そちらの方で、何かこういう的なもの、ありませんでしたか?神隠し的なものとか・・・。」
「んー・・・思い当たらないね。」
「 そうですか。」
「・・・それが?」
「、自論ですが、こちらにあるそう言う言い伝えとそちらにある言い伝えがリンクして たまたまこちらに来たのではないか、と言うのも考えてまして。」
「ふーん、そっか。」
「あ、後一つ。」
「ん、なに?」

「そちらの世界で、幸村さんがいなくなって、どの位経ちましたか?」
「・・・きっちり一日。」
「・・・こちらもきっちり一ヶ月です。」

「ところで、この事・・・誰かにも言った方がいいですよね。」
「んー・・・ま、竜の右目の旦那に言った方が よくない?」
「右目?」
「片倉のおっさん。」
「お、っさん・・・」
「・・・俺様が言ったの、本人の前でも言わないでね。」
「本人の前であっても、あんな極殺モード見られたら、意地でも言えませんよ、そんな事。」

唇に人差し指を持ってきて しーっと合図をとった佐助さんに対して そう返す。

「んー、そっか。それなら良かったわ。」
「えぇ。」
「ん、これとこれ、持ってってくれる?後、暇してる奴らにも手伝う様に言ってくれない?」
「勿論ですよ、こんな量 いきなり持っていけませんからね。」
「そうそう。」
「あぁ、後。佐助さん。」
「ん、なぁに?」

佐助さんが私に 重さが軽い皿を渡す。

「傷口、小さくなるように 縫って下さって、ありがとうございます。」
「・・・」
「あれ、傷口を薄く縫ったからこそ 開きやすくなってたんですね。すみません、二回も動いちゃって開いちゃいました。」
「 んー、や そこは本人の責任だって、言うもんだし。」
「ま そうですが・・・。それでも、どんな他意や厚意があったとしても、傷口が目立たない様に縫ってくれた事を感謝します。」
「・・・ん、そっか。」

そう言って、佐助さんは私を 回れ右させて 料理を運ぶように促した。

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