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52.泳ぎ
水着はどうやって着るのでござるか?と聞いてきた幸村さんに いつも下着を着るのと同じ要領でいいよ と返して、幸村さんの赤い水着を買った。え、自分の?とりあえずあるし、欲しいのがないので また今度買うことにした。


そんなこともあって、今 アスレチックにいます。

「真っ白殿!某の泳ぎ、見てくれたかッ?!」
「うん、見た。ジャスト三十秒。」
「本当でござるか?」
「うん。ほら、これ。」

幸村さんにタイムの出たストップウォッチを見せる。
幸村さんが競技用のプールで何十回も往復しているので、面白いものが見れるかなぁ、と思ってストップウォッチを借りてきて計っていた。本当は泳ぎたいのだけれど。
幸村さんに断って、隣のレーンで泳ごうと思ったが、どうせ二人で来たのなら、向こうに見える流れるプールと激流スプラッターの滑り台に乗りたい。
だが、だが、だが、・・・どうしよう。
しばらく幸村さんのタイムを取りながらたっぷりと考えて、


「幸村さん、ちょっと泳いでくるね。」

「分かったでござる!」

ストップウォッチを幸村さんのいるレーンに置いて、幸村さんの隣のレーンに入って、何往復か泳ぐことにした。


息継ぎを五回までしかせずに一往復する。泳ぐ間に泳いでいる幸村さんとすれ違う。
うぅむ、綺麗なクロールだ。そして・・・綺麗に処理してあるな、羨ましい…。結構前に、誕生日プレゼントとして永久脱毛をしたが、あれが生まれつきだと・・・羨ましい。やはり最初から剃らなければよかったのだろうか。未だに剃った事のない腕と足は薄い。それかあのスポンジの脇バージョン、出てくれないかなぁ・・・やりにくいけど。
ふぅ と息継ぎをして、また泳ぐ。何時の間にか往復をしていた。

いくらなんでもずっと泳ぎ続けていると疲れる。幸村さんはまだ疲れてないようなので、近くにあるイスへ近づく。なんかパラソルみたいのもあるよ。つくえもあるよ。
幸村さんのレーンに置いたストップウォッチを拾い上げて、適当なイスに座り、一息吐く。
幸村さんが私に気付き、こちらへ近づこうとするが、何時の間にか現れた女子に囲まれ、顔が真っ赤かになった。あっはは。ちょっと面白いものが見れた。え、性格悪い?大丈夫、これも一種の社会勉強だと思うので。私は、この後疲れてやってくる幸村さんの分も合わせてジュースを買いにいくことにした。いや、最初から買いにいこうとしたけど、幸村さんは今 囲まれているのでどうしようもない。
幸村さんは非常に困っているけど、今この場で私が出たら面倒くさい事になるし、一番手っ取り早い方法が「この人私の彼氏です」方法だからなぁ・・・。兄弟方法もあるけど、すっごく手っとり早くて後腐れ無いのが彼氏方法だからなぁ・・・。とりあえず、幸村さんには悪いが、自力で頑張ってもらおう。薄情だとは思わないでほしい。これでも結構色々と考えているのだ。


幸村さんにお茶、自分用にファンタを買って帰ると、まだ幸村さんが絡まれていた。ちょっとムカっと来ながらも、冷静に自分を落ち着かせる。幸村さんは未だに顔を真っ赤にして慌ててるし、わぁ 女の子も楽しそうにしてるねぇー本人嫌がってるから止めなさいってーのに。

段々腹が立ってきたので「彼氏です」と言って追い払うことにするか。「ちょっと止めなさいよ」と言ってから。
私のいる位置と幸村さんの位置からはまだ遠いから大丈夫だけど、後で幸村さんに言い訳すれば大丈夫だろう。
最初っからこうしとけばよかった・・・と後悔しながら足を踏み出すと、誰かに呼び掛ける声が聞こえる。が、無視。無視して幸村さんに近づいて行くと、がしりと腕を掴まれた。

「・・・。」
「アンタだよ、アンタ。なに?聞こえなかったの?」

いや、聞こえなかったと言われても・・・。そりゃ、友達や知り合いかもしれない、と思って日頃から聴覚は澄ましてますが、貴方の声は知らないし、アンタの事知らないんですが。

「・・・。」
「さっきから呼びかけてたけどさ、全然振り向いてくれなくて、俺、困っちゃったよ。」
「・・・で?」
「え?」
「で。用は何ですか。」

何も無かったら、離せ。

「ああ、道が分からないんだよね。ちょっとはぐれちゃったみたいでさー。あそこ、分からない?」
「・・・あぁ、道が分からなかったんですね。それじゃぁ、職員に聞いてみたらどうですか?」

なんだ、道を尋ねてきただけか。それなら最初からあんな態度をとって失礼だったな。

「うん、そうなんだけど、中々捕まらなくてさぁ。」
「あぁ・・・そういうこともありますよねぇ。で。場所はどこなんですか?」

いくら失礼働いたとしても、こちとらは用事があるんだ。さっさと済ませてくれ。

「それで、道案内してもらいたいんだけど、駄目かな?方向とか全然分からなくてさー。」
「・・・それなら尚更職員さんに聞いた方がいいですよ。」

こっち来たばっかだし。そんなに内部構造詳しくないし。

「だから、一人よりも二人の方が心強いんだよー。頼むよ、俺と一緒にダチ探して下さいッ!!」
「う・・・」

男の人が頭下げて 手を合わせて懇願してきた。
し、知らない人についてってはいけない。しかし、この人が本当に困っていたらどうしよう。いや、ここで嘘か本当か見極めるのも大事だ。しかし、本当に困っているのかもしれない。
自他共童顔の自分は確かに話し掛けやすいのかもしれない。(自慢じゃないが、幼い頃のアルバムを捲っても、私の顔に変わりはない。(まぁ小さい頃に事故に遭ったが)
後背が低いのも相手が自分より雑魚だと思われる一因だと思うし、それあって私に尋ねてきたのかもしれない。
私一人だったら道案内してあげてもいいが、今は幸村さんがいる。彼を置いてはいけない。(行ったとしたら、確実に また幸村さんが迷う。)
やっぱ駄目です、と手を振って断ろうとして、目の前の男に断ろうとした矢先、別の手がガシリと掴まれている腕を取った。

「あ。」
「え。」

男と私の声が合わさった。
幸村さんが 掴まれてる方の腕を握っていた。微かに骨がミシミシと言っている。
幸村さんは半眼で男を睨みつける。なんか、怖い目をしている。

「真っ白殿。」

幸村さんがこちらを向く。男に向けた目を違って 冷たさは無いが、叱られた時の子供の気持ちにさせるような眼をしていた。

「そう、勝手に 俺の前で、他の男と喋 って ほしくないでござる。」
「あぁ、ごめん・・・次からは気を付ける。」
「そうではなく、俺以外の男と、そう 無闇矢鱈に喋らないで ほしいのでござる。」
「ん・・・? ご、ごめん・・・?」
「何で疑問形でござるか?」
「あ。や、ごめん。なんか、何時もと 立場が違うなぁ、って思って・・・。」
「真っ白殿、某を舐めないで欲しいでござる。某だって、馬鹿じゃないでござる。勝手違い位、分かるでござる。」
「ん・・・ごめん。」
「・・・真っ白殿、まさか、俺の事 馬鹿だとお思いであったか?」
「や、違う。子供っぽいとは思っていた。」
「・・・・・・・・・・それなら許すでござる。」
「・・・(許せる、じゃないんだ)」
「ちょっとアンタ!」

男がそう叫んだ。私と幸村さんは同時に男の方を振り向いたが、私が振り向く前に、バシンと強い音が鼓膜に響いた。

「あぁ、すまないでござる。全然気付かなかったでござる。して、用事は一体如何なものでござろうか。某が出来ることならば、手伝うが?」

 私の頬は別に痛くもない。私の身体の部位に何処にも痛む場所は無いが、目の前から男が消えて、掴まれている腕の感触は一つしかない。
幸村さんの視線を辿ると 下で蹲る男がいた。背中には床の跡が赤くついていた。

「ちょ、ちょっと 幸村さんッ!!」
「真っ白殿、行くでござる。」
「その前に、この人に謝・・」
「真っ白殿に勝手に触ったのでござる。」
「だけど、」
「某、もう帰りたいでござる。」

幸村さんは相変わらず強い握力で ぐいぐいと私の腕を引っ張っていく。
幸村さんが床に蹲る男の傍を通り過ぎる時、男を見下して、

「よかったな、真っ白殿に、"殺し"が罪であると聞かされてなければ、お前は死んでいた。」



半ば強引に 幸村さんが率いてアスレチックのあった建物から出て、しばらくすると 「すまないでござる」 と、幸村さんが謝ってきた。「なにが?」と私が返すと、「某が、真っ白殿を守れなかったこと」と幸村さんは言った。「 あの男の人は、大丈夫なの?」しばらくの間。一拍置いて「 手加減はした」と幸村さんは言った。「悪かった、って思ってるなら、いいよ。」と返した。「・・・悪かった。」幸村さんはそう返した。
「幸村さん、」と私は呼んでみた。「なんでござるか?」と幸村さんは答えて振り向いてくれた。
「・・・アイス、買って帰ろうか。」そう言うと、「! 分かったでござる!」と言って、幸村さんは満面の笑みで答えてくれた。

いつもの幸村さんだった。




ヤ、ヤンデレ化・・・ッ!狂犬化・・・ッ!

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あきゅろす。
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