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48.だってそれは「ひとりぼっち」てことでs
彼を寝室にある机の前に座らせて、私は幸村さんの真正面に座る。もちろんお互いに座布団の上に座っている。
幸村さんの手が両膝の上で固く握られていた。私はそれを無視して幸村さんの両手をひっ捕らえ、机の上で固く握る。幸村さんの固く組んだ両手を私の両手で更に強く固く握る。つつむ、と言う表現では足りない程固く、強く。彼の日本男児独特の作法はこの際無視だ。
私は幸村さんが話すまで固く幸村さんの手を握っていた。両手で固く強く包んでいた。爪の跡が残るんじゃないかって位に。幸村さんの両手をずっと包んでいたような気がする。どの位時間が経ったのか分からなかった。お客が来なかったのが幸いした。誰にも幸村さんが話しだすまでの間を邪魔されなかった。
幸村さんが話しだすまでずっと握っていた。両手で包まなければ、彼が分からなくなりそうな気がしたからだ。だって、なぜなら、ほら。

誰もいない世界で私一人だけだなんて、“私”と言う世界がいないみたいでとてもかなしくなるじゃないか。
とても泣きたくなるじゃないか。
わっと泣き出して誰かに「私はここにいるよ!」と認めてもらいたいじゃないか。
誰かに「私はここまでこうしてこうやっていきてきたんだよ!」と認めてもらいたくなってくるじゃないか。
だから分かるんだよ、「貴方以外誰もいない世界の怖さ」を。だから分かるんだよ、幸村さんがなんで「彼の世界」に関連するものばかりあげたのか。ずっと怖かったんだね。ずっと怖がってたんだよね。
自分一人しかいないから。幸村さんがこの日まで生きてきた世界を知るのは、ここには幸村さん一人しかいないから。誰もその日まで生きてきた幸村さんの痛みや悲しみ、喜びを共通する人はいないから。だから怖いんだね。だから彼らの名前を言ってたんだよね、幸村さん。だから早く戻りたいんだよね、幸村さん。そうだね。私の事を知らない世界なんか消えちゃえ、って思うこともあるよ。世界は 他の人は 周りの人は  誰も私の事なんか知らない。誰も私が「私」であることを知らない。だけどね、だけどね、幸村さん。

此処には貴方の知っている人はいないかもしれない。
だけどね、だけどね、幸村さん。せめて私は貴方の話役にはなれないかしら。

私はあなたの知っている世界は知らないわ。だけど貴方の話を聞くことはできる。貴方の知っている話を聞くことができる。私はそれを聞いてあなたに質問して、あなたは悲しくなるかもしれない。だけど、あなた以外「あなた」を認識する者がいないよりはマシじゃない。
幸村さん、あなたは私の中に あなたの世界をつくってもいいのよ?あなたの世界を知らなきゃ、私はあなたのことをしらない。りかいできない。あなたを「あなた」とにんしきできない。
だからね、幸村さん。私にはなしていいんだよ。私になんでもいってもいいんだよ。ちょっと傷付くことばは遠慮したいけど。
だからね、だからね、幸村さん。遠慮なく言っていいんだよ。わたしはあなたのこと、うけとめる だから。


しばらくか、何時間か経って、幸村さんはぽつぽつと話し始めた。

彼の生活していた頃。
彼の生活していたぶり。
彼の上司や尊敬する人。
彼の友達やらいばると言えるそんざい。
彼の母親と言える存在。かぞくのようなそんざい。
彼のもっとも大事にしていたもの。
彼のもっとも大好きなもの。
そしてちょこっとの彼の小さいころの話をきいて、かれのはなしは終わった。


「真っ白殿。」


幸村さんが最後にそう言う。


「真っ白殿は、いなくならないでござるか?」


幸村さんは顔を俯かせたままそう聞いた。
私はうんと頷いて 彼の両手を強く力強く握った。



私は泣いていたことをしらない。
かれも泣いていたことをしらない。


最後の一、二行目にそれぞれいれることば
「私自身」
「かれ自身」


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あきゅろす。
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