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47.目が虚ろ
不意に不安になった。寝室の扉を見る。生憎、こう言う勘は当たりやすい方だ。来たお客さんに失礼を言って途中で帰って貰った。こう言う時は他の事に集中出来にくい。お客さんには今日の分の治療代は無しにして帰ってもらった。すまないね、だけどこう言う時にはひどいことを言ってしまいそうな気がするんだ。うまく、制御が ね、出来ないんだ。他の事に集中して。頭パーになっちゃうの。ぶっちゃけ自分の不安に思っていることが心配、みたいな感じ。
何だこれ、と自分で呟いて叱咤する。そうでなければ理性のタガが余計にこじれる。剥がれる。
寝室の扉の前に立つ。
これで何もなかったら、幸村さんの絵でも見よう。前、クレヨン興味持ってたし。きっと興味津々好奇心旺盛で落書き帳に絵を描きまくってるだろう。きっと床にクレヨンの食み出しがあるかもしれない。まぁ、それもいいか。クレヨンはすぐとれる 筈。

扉を開ける。そこには私の予想外のものがあった。


「・・・ゆきむら、さん?」


私はふと、そう呟いてしまった。幸村さんは泣いていた。そう、泣いていたのだ、彼は。しかし、前回のとは違う。以前のとは違う。
彼は、壊れてしまいそうな目で泣いていた。これは、ヤバい。こう言うのとはあったことは無い。だが、壊れたやつなら何度もあった。彼を、そう言う目に合わせてやるものか。と思う反面、慎重に考えを運んだ。彼は今、何を考えている?彼は、何を考えて泣いているのだ?

「・・・真っ白、殿?」


幸村さんがそう呟く。「うん。」と私はなるべく平静を装って、普段するように呟いて、彼の返答に答える。一体、何があった?


「真っ白殿、佐助を知らぬか・・・?」


佐助?一体誰の事であろうか・・・。もしや、以前彼が言っていた『佐助』と言う人物であろうか?


「真っ白殿、お館様がいづこか・・・知らぬか?」

お館様、彼が最も尊敬している相手だ。
     自分の頭を強く叩く。手首で額を叩く程度だが。
いけない、彼は違う。彼は正常だ。彼は正常だ。彼は違う。異なるものではない。彼は正常な人間だ。では正常な人間って何。いや違う、今はそんな押し問答ではないはず。今は彼・・・ きっと、“ホームシック”って奴だろう。重症の。誰も知りあいもいない世界にいきなり一人で飛び込んできたら、誰だって怖くなる。

とりあえず慎重に言葉を選ぼう。今の彼の存在は、きっと、今はグラグラな存在だ。か弱い力一つだけで簡単に崩れ落ちる棒のような存在。だから、彼には気をつけないと、今の彼に、だが。とりあえず慎重に言葉を選ぼう。慎重に、慎重に。
「話をしませんか?座って。」駄目だ。何となく駄目な気がする。「落ち着いて」これはタブー。絶対駄目だろ、これは。むs…自分死ねばいいと思う。
とりあえず目を閉じて深呼吸をする。いい方法は思い浮かべません。
もう一度目を閉じて深呼吸する。

寝室の扉を開けっ放しにして彼に近づく。幸村さんは一歩も動かない。何処かを見ているようだ。誰かを探しているのだろうか。佐助さん?お館様?それとも私の知らない(と言っても彼から聞いてない人物だが)人か?
幸村さんの両腕を掴む。本当は肩がいいかもしれないが、身長差があって出来なかった。幸村さんが呆然と私を見る。目はまだ虚ろだ。幸村さんの腕を掴む手に力を入れる。跡が残らないか心配だ。
幸村さんの目をじっと見る。彼の目は虚ろだ。涙の跡がある。


「幸村さん、」

私は慎重に言葉を連ねる。幸村さんは黙って私の言うことを聞いてくれてる。うんうん、と頷いている。


「座って、話をしましょう?」



踏切を付けて そう言った。
彼は うん と頷いただけだった。

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