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46.いろ色
バタンと扉の閉まる音がする。心に冷風が吹き込んだような気がした。
真っ白殿から貰った帳を広げる。真っ白な紙ばかりが綴じてあった。手元を見る。真っ白殿に貰ったばかりの奇妙な筆がある。この前、外に出た時に これと同じものを見て、「真っ白殿、これは何でござるか!?」と尋ねたことがあった。真っ白殿はほほ笑んだまま 「クレヨンと言うものだよ。」と答えてくれた。俺がまた尋ねると、「まぁ・・・文字、いや。絵を描くものかな。主に。たまに文字を書くけど・・・専ら絵を描くものかな。」と答えて下さった。
俺が゛くれよん゛とやらに興味を抱いていると、真っ白殿が財布の中身を開いて項垂れた。俺に「今度買ってあげるからね・・・」と呟いて肩を落としたまま買い物を続けていたような気がする。

まさか、あの時のことを覚えて下さって、の事なんだろうか。

俺は好奇心に駆られて、あの゛くれよん゛とやらを使ってみたかった。真っ白殿はそれに気づいて、俺に゛くれよん゛を買って下さったんだろうか。

不意に胸がジーンと来て涙が出そうになる。
腕で拭い、涙を止める。そう言えば、最初会った時に俺が泣いた時も 真っ白殿は「泣くな」ではなく、ただひたすらに 「腕で拭うな」と言って 俺に てぃっしゅを渡して俺の背中を撫でてくれた。
真っ白殿は、初めから俺の事を気遣ってくれていたのだろうか?
それは自惚れてもいいのだろうか?
真っ白殿から貰った帳と箱を腕で抱きしめたまま また泣きだしそうになったので、腕で目頭と目尻を拭って鼻を啜る。後で てぃっしゅ とやらを借りよう。

その場に座りこんで帳を広げる。
真っ白殿から貰い受けた帳に、何かを描きたい。だが何を?いや、自由に描こう。
寝転んで描いた方が描きやすいであろうか?お館様の叱咤が飛んできそうな気がする。だが、何時ものように座って描くと、つい気を張って描いてしまうような気がする。ただ、俺は 真っ白殿に貰ったこの帳に 自由気ままに描きたいだけなのだ。
「お館様・・・申し訳ございませぬ・・・・・・。この未熟な幸村めをお許し下さい・・・」俺の世界にいるであろうお館様に許しと詫びの言葉を呟いて、俺はその場で横になる。目の前には真っ白殿から貰い受けた帳と゛くれよん゛がある。

広げた帳に肘をついて、帳を見る。真っ白い紙だ。
真っ白殿から貰った゛くれよん゛の箱を引き出して、赤い色の゛くれよん゛を取り出して、描いてみる。
一直線を描いたら次は何を描こうか。お館様を描こう。お館様はこうでこうしてあぁして虎のように勇ましくそして知略に富んでいらして馬術も得意で・・・ そうだ、佐助も描こう。佐助は橙色の髪に迷彩柄の忍装束を着ているから、橙色と緑で事足りるだろう。佐助を描く。次に真っ白殿も描こう。真っ白殿は一体どのような色であっただろうか。真っ白殿に合いそうな色を選び、それで真っ白殿を描いた。あぁ、中々似ているな、これは。真っ白殿に何かそっくりだ。どうだ、佐助。俺も中々上手に描けているだろう?ほら、真っ白殿のこう言うところとか、あぁ、お館様。某の絵を見て下され。お館様の戦場に立つ様を描いてみせました。



鳥の鳴く声がした。



鳥?あぁ、雀か。なんだ、朝か?外を見る。いいや、違う。ここは城ではない。俺がいるのは真っ白殿のいる世界ではないか。佐助やお館様の居ない世界ではないか。
いない。いない。いない。いない。いない。俺の、某の知っている者の誰ひとりいない世界ではないか、ここは。
某は一体誰に向かって言っていたのでござるか?ああ、佐助、佐助?そこにおるのか?いいや、いない。佐助、姿を消しているのか?気配を消しているのか?俺は一武将だ。だから佐助、気配を消していても何とか分かるものだぞ。幼い頃 かくれんぼで負けてばかりいた俺と馬鹿にするなよ。お館様はいづこでござろうか。お館様、お館様、某はまたお館様の武田道場を破りたいでござる。そしてまたお館様に熱い叱咤を受けたいでござる。あぁ、あぁ、あぁ。


「・・・ゆきむら、さん?」


あぁ、あぁ、あぁ       真っ白殿、か。




幸村のお館様に対する評価はそういうのとかは知らない。ただお館様を溺愛・敬愛していると言うことしかしらない。

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あきゅろす。
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