45.子供扱いしないで下さい。 真っ白殿は俺に大きな紙束と箱を渡した。俺の世界で書いていた文字と真っ白殿の世界で使っている文字は同じらしい。その箱には"くれよん"と書いてあった。 「真っ白殿、これは どうやって使えばいいであろうか?」 「ん?えーっと・・・落書きに使うやつ。」 「落書き?」 俺の頭の中に思い浮かんできたのは、幼い頃に筆で半紙からはみ出して文字を のたくっていたことだ。佐助が呆れながらも俺の汚した床や壁を拭いていたような気がする。 真っ白殿は色々と物を出しながら俺に答える。机の上に、実物に近い 指の大きさに近い人形の入った箱が出された。 「そう。その筆・・・クレヨンを使って、その落書き帳に落書きするの。」 「これ、に?」 紙は貴重なものではないのか。 「そう。だって幸村さん、そんな長時間だと 暇でしょ?」 「うぅむ・・・ 」 稽古も何も出来なければ、暇である。だが、俺だって読書をする。 「真っ白殿、何か本を貸して頂けないでござろうか?」 「 え・」 真っ白殿が目を見開いて俺を見る。もしや、俺が書を嗜む者に見えなかったとでも言うのだろうか? 「・・・? 俺が書を読まないとでも思ったのでござるか?」 「いや・・・。 うん、まぁ・・・部屋の方に本あるから、それ読んで。」 真っ白殿は暫く目を泳がせて思案した後、寝室の方へ指さして、また作業を再開した。 あ。と真っ白殿は声を出して台所へと向かって、ごそごそと音がした後、おぼんにお茶の入った"ぽっと"と湯のみを乗せて戻ってきた。 「はい、これ。のど 渇くといけないから。」 「・・・かたじけないでござる。」 真っ白殿はにっこりと笑って俺におぼんを手渡す。子供扱いされたようで、胸がむかついた。 あ。もうすぐ面接の時間だ。 真っ白殿はそう言って俺の背中を押し、寝室へ押しやる。俺はおぼんの下に 落書き帳とくれよんを しいて寝室へと入る。扉は真っ白殿が開けてくれた。 真っ白殿、俺は子供ではござらん。 [*前へ][次へ#] [戻る] |