41.猫のて
「さて、今から昼食作りを始めるが・・・幸村さん。」
「なんでござろうか。」
「とりあえずエプロンしとこうか、初めてだし。」
「う、うむ?えぷろんとは、どのようなもので ござろうか?」
「んー・・・お母さんの必須アイテム。」
「あいてむ?」
「道具。とりあえず胸当て付きで いっか。」
「お、おぉ?」
適当な所からエプロンを取り出して幸村さんに手渡す。どこにあったとかは突っ込まない。
幸村さんはそれを まじまじと眺める。
「真っ白殿。」
「なに?」
「これは、どうやって着ればよいのであろうか?」
「ん、ポッケが付いている方の上の方に紐があるからそれを首に掛けて。」
「ぽっけ?」
「これ。」
と 私はエプロンの腹についたポケットに手を突っ込む。幸村さんは「心得た」と言ってエプロンを着た、が 後ろの紐を結んでなかった。多分気づいてないだろーなぁ・・・。私は包丁を台の上に置く。
「ちょっと動かないでね。」
「? 心得たでござる。」
と幸村さんは後ろに回り込んだ私を見て答える。幸村さんの尻尾が動いた。・・・あ、幸村さんの結んだ髪だけど。髪の量が少ないから 前から見たら いまいち分からないけど。(実際気づいたのは幸村さんがお風呂上がりの時だ)
幸村さんのエプロンの腰紐を結んで準備を終える。
ちょうど用意した包丁の一つを幸村さんに渡す。
「?」
「包丁です。」
「それ位分かるでござる。」
「ごめん。やり方は?」
「全く知らないでござる。」
「そっか。」
まな板と材料を用意して幸村さんをその前に連れてく。
「?」
「さて。」
とりあえず切りやすい――別名 被害の少ない――水菜をまな板の上に置く。
「?」
「まずはこれを切ろう。幸村さん、切り方、分かる?」
「分かるでござるよ!」
「じゃぁ、どうやって切る?」
「このように !!!」
「危ねぇ!!!」
幸村さんがぶんぶん包丁を振り回すので慌てて避ける。
「幸村さん、敵を攻撃すると違うから、食材相手にそう言うことしなくていいから。あと、めっちゃ危なかった。」
「す、すまないでござる・・・。」
さっきの包丁の振り回し方、刀振るのと同じように振ってたな・・・。ま いいや。
「とりあえず、手を洗おう。」
「・・・普通はこちらが先ではなかろうか・・・?」
「まぁ、細かいとこは気にしない。また今度気をつければいいし。」
交代交代で流しの洗面所で手を洗う。プッシュ式のきれいきれいを使って。最初これを使った時の幸村さんは、楽しそうに何度もプッシュしていた。残りがやばくなったし泡もひどくなったので急いで止めたが。
まぁ、手を洗い終えた。
「では、お料理教室を始めまーす。」
「わくわくするでござるなっ!!」
幸村さんが文字通り目を輝かせて包丁を握りしめた。
わぁ、犬みたいで可愛い。
と言うか、料理教室って、懐かしい響きだなぁ。
「ではまず最初に水菜を切りまーす。」
「水菜でござるか!」
「ん、幸村さんのところにもあった?」
「あったでござる。鍋や煮物でよく見かけたでござる!」
「ん、そっか。」
「それで、これをどうするのでござるか?鍋にぶっこむのでござろうか?!!?!」
「あー…期待裏切るようだけど、今から 幸村さんには水菜を切ってもらいまーす。」
「なぬ!水菜をッ!!」
「うん。では、まず包丁持ってないほうの手を猫の手にしてください。」
「うむ・・・こう、で あろうか?」
「んー・・・そんなに固く握らなくてもいいや。軽く。」
「こ、こうであろうか?」
「それでもまだ固いかな。」
「こ、こうか?!」
「いや、まだ固い。」
「こ、これならッ!!」
「まだ固い。あ、そうだ。幸村さん、なんか壊れそうなのを思い浮かべてみて。」
「壊れそうなの?」
「そう。なんか触れたら壊れそうなもの。それを ぐーで握る感じで。」
「・・・。」
幸村さんはしばらく思案して
「佐助の・・・を。」
「? まぁ、そんな感じで猫の手。」
「よし!習得したでござる!!!」
「うん。じゃ、猫の手を水菜のく・・・や、ここらへんどに置きます。」
「こう、でござろうか?」
「ん、そう。で、包丁で切ってくの。」
「 切る 、 と。」
「そう。えぇと・・・縦に一文字で。」
「・・・」
幸村さんが包丁を高く掲げる。
「いや、そこまで高く掲げなくてもいい。」
「え。そうでござるか?」
「うん。ここまででいいから。」
「・・・い、威力が落ちるのでは・・・。」
「威力関係ない。それに、錆びた包丁は味が落ちるから。それに大抵のものは切れるから。」
「大抵のものをッ?!!?!」
「あ、食材に関して。」
「そ、そうでござるか・・・。」
ちょっと幸村さんがしょんぼりした。でも気を取り直して包丁を構えなおした。その包丁の位置はちょうど水菜の真ん中。
・・・・・・。
「ちょっとごめんね。」
「!」
幸村さんの左手をもう少し左へ移動し、右手をもう少し右へ移動させる。
「えぇと、まぁ・・・距離はこの位で。」
「!!!!!」
「猫の手は強く握らない。水菜を潰さないように軽く乗せる。」
「ッッッッ!!!!!」
「それで、軽くこうやって切る。」
サクッと幸村さんの右手を軽く押して水菜を切る。
そしたら幸村さんは声にならない叫びを出してバッと包丁を宙へ投げ出した。
(叫んだと言っても叫び声じゃないので近所迷惑にならなくて よかったです。)
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