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37.犬、考える
途中、真っ白殿は変であった。
言葉を濁したり、会話を変えたり・・・女中の話が出た時は焦った。女人は苦手だ。だが今は真っ白殿に対しては普通だ。なぜ ? 真っ白殿は女人。真っ白殿と接している時は真っ白殿が女人だと言う事実を忘れるからだろうか。

真っ白殿から貰い受けた布で槍の手入れを行いながら某はぼんやりと考えていた。
真っ白殿が此処に慣れない自分を気遣ってか、自分は真っ白殿が使っていた畳を拝借する事になった。今、俺は布団の上に胡坐をかいて槍の手入れをしている。昨夜と同じ位置だ。女人と夜を共にする等破廉恥極りない。しかし昨夜は、眠れた。

真っ白殿が 俺の女人に対する反応を見てから俺から離れようとした所為なのかもしれん。だが、俺は本当に女人が苦手だ。女中も日頃から世話になっているが、本音を言えば近づきたくない。だが、真っ白殿には近づきたい。なぜ?
今日真っ白殿が手を繋ごうと俺に言った時は渋った。女人と手をつないだことはない。まして真っ白殿ならなおさらだ。・・・なぜ?なぜ、なんだ?

槍の刃を拭き終えて何処かに不備は無いかと探す。
真っ白殿に買い与えて貰った浴衣は、自分が着ていたものとは全く違っていた。着た時点で肌にあたる感触が違っていた。肌がちくちくする。

・・・真っ白殿に世話ばかり掛けさせられている。だが、俺の出来ることと言えば 無いに等しい。俺は不器用だ。昔 小さいころ佐助が短刀で柿の皮を剥いていたのを真似したが、大きく指を切ってしまい、それ以来佐助に禁止されている。
俺に出来ることとはなんだろう。真っ白殿に 世話になったお礼として。

そう言えば、俺は一体何時になれば帰れるのだろう。真っ白殿は 自分も出来る限り調べるが無いに等しいから期待しないでくれ と言っていた。ここでは当たり前のことか?しかし、真っ白殿の口ぶりだと、俺のような体験は無いに等しいと言っていた。それに「神隠し」と言う単語。あれが真っ白殿と俺の体験に当てはまると言うのならば、俺はまさに神隠しに遭っている状態なのだろうか。
お館様は無事であろうか。上田城は。兵たちは。佐助は?俺がいない間、俺が元いたところでは一体どうなっているのだろうか。あぁ、政宗殿の決闘がまだ終わっていない。早く戻らなければ。しかし 何時戻れるのだ?俺は。

呪った。俺は何かに呪った。何に対してかは分からんが、確かに俺は呪った。誰か?いや、何か、か?
なぜ俺が、なぜ某が。だが、これを敵軍の中に放り込まれたとしよう。敵軍である真っ白殿は己の敵である俺を匿ってくれた。ありにくいことだ。何か裏があるのではないかと思うが、俺には分からん。いつも佐助に頼りっぱなしだった気がする。しかし、俺はお館様の上洛の為に武芸を磨いている。こんな所で留まっているわけには。だが下手に動くと・・・。あぁ、分からない。頭がごちゃごちゃになった。


真っ白殿が寝室に入る気配がした。真っ白殿に尋ねてみよう。俺の思っている疑問を。

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