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3.犬、目覚める
赤い衣を身に纏う人物はぱちりと目を覚ます。
目に見えたのは天井。しかも木製ではない事が一目瞭然である。
可笑しい。確か自分は城ので稽古をしていた筈。
お館様が執務をしている間、いつものように親方様の役に立てるように稽古に励んでいたはず。
縁庭で佐助が腰かけていた。
旦那、今日も励んでいるねぇ。と佐助は言ってた。
佐助、団子は買ってきたのか?!と自分は佐助に言ったはず。
はいはい。ちょっと待ってねぇ。と佐助は腰を上げ、台所へと茶をとりにいったはず。

自分の記憶はそこで途切れている。
では・・・・・・ハッ!


「佐助ぇぇぇえええ!!!某の団子はぁぁぁあああ!!?!!?」
「うわッ!!!」


大声で佐助に団子の所在を確かめようとしたら、聞きなれぬ声が聞こえた。
城では滅多に聞かぬような・・・兵士達の声よりも幾分か高く、その声は自分が昔よく行っていた団子屋にいた給仕の者に似ているような・・・。

声の出所に顔を向ける。反射で槍を構える。しかし、一本足りない。
素早く一本足りない槍を探す。
すぐ足元にあった。
槍に手を伸ばし掴む。
左足を軸にして身体を浮き上がらせ、戦闘の体勢に入る。
しかし、足元は柔らかくて危うく体勢が崩れそうになる。ぬかるみとは一風違う。かと言って布団の上でも無い。
柔らかい足元の上で体勢を元に戻し、槍を構えたまま叫ぶ。

「貴殿、何者だッ?!!」

尋ねられた者は呆けて某を見た。
裾と袖口が薄い水色の白い羽織を着ており、黒い着物と灰色の袴を穿いていた。
おぼんを両手で持っており、その上には湯気の立つお碗が二つ乗っている。

・・・ごくり。

自然と唾を飲み込む。稽古をすると腹が減る。必然的に佐助が団子を差し出して休息をとるが、今回は佐助の団子を食べ逃した。
非常に腹が減った。目の前にある湯気の立つお碗は魅力的に映った。

だが、誘惑されてはいけぬぞ、真田幸村ッ!!

佐助が言っていたはずではないか!「知らない人からものを貰っちゃダメだよ」と!!!

だから、この目の前の人物からものを貰ってはいかぬし、空腹に負けてこの者から食事を貰うなど・・・いやでも美味そうだ・・・、いやでも貰ってはいかぬのだ!真田幸村ッ!もしかしたら佐助から一週間おやつ抜きと言う罰が与えられるのかもしれないッッ!!!!!


「・・・あのさ、机の上には立ってくれなかった事には感謝するけどさ・・・これ、摂取(ト)らない?ほら、ずっとお盆持っているの、疲れるし、さ。」


そう言って、その者はお盆を軽く上げた。
上げた拍子に、チラリとお碗の中身が見えた。


「・・・う、うむ・・・分かったでござる・・・・・・。」
「うん、良かった。ありがとう。ところで、座らない?そこの上、柔らかいでしょ?立つの、辛くない?」
「辛かったでござる。」
「うん、こっちも昔、ソファの上で立って、危うくこけそうになったからね。あぁ、槍。どっか近くの方に置いといて。・・・家具、傷つけないようにね。」

その者はそう言って、某の前に湯気の立つお碗を置く。

・・・味噌汁の中にご飯を入れるとは、面妖な・・・。

その者が言ったように、周りの物が傷つかぬように、某が座っているものに立てかける。
机らしきものの足に槍の尻が当たっており、某の座っているものの上に乗りかかった。

その者は某の向こう側に座り、「いただきます」と箸を親指に乗せて合掌をした。
某も慌てていつものように、いただきます、と言って合掌をした。


・・・食事の量は足りなかった。

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