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28.黒白
真っ白殿が某の方を向いた。瞬間、真っ白殿の顔が赤くなった。
某も女人にこのような姿を見られるのは初めてだったので叫んで後退した。穿きかけの袴に足を取られて尻もちをついてしまった。
しまった、また真っ白殿の迷惑になってしまったのでは・・・ッ と思ったが、某と同時に、某のそれ以上ではないかと思う位の大きな声で突然謝りだした。
真っ白殿は某が後退すると同時に勢いよく後ろへ退がり、両手で顔を隠したまま押入れと激突した。
某が呆然と尻もちをついたまま真っ白殿を見ていると、真っ白殿は某に気づかず、ひたすら「ごめんなさい」と謝り続けている。

「・・・真っ白殿?」

某は膝に引っ掛かったズボンを何とか上まで上げて、真っ白殿に恐る恐る近づく。
外から某の姿が見えないように床に膝をつきながら真っ白殿に近づく。(昨夜の会話からして、真っ白殿は某の姿を隠しがっていた。)

「真っ白、殿?」

真っ白殿の目の前に来た。しかし真っ白殿は両手でしっかりと自分の顔を塞いだまま、某の顔を見ようとはしなかった。
昨夜の某も、今のような真っ白殿のような反応をしたのであろうか?
しかし、不思議と真っ白殿が泣きそうな程傷付くことは無かった。

「真っ白殿?」

恐る恐る真っ白殿の髪に触れてみた。触れてもないのに真っ白殿の身体がびくりと震える。

「ご、ごめんなさい・・・。」
「真っ白殿、なぜそのように謝るのでござるか?」

両手で顔を隠しながら謝る真っ白殿に訝しながら某は尋ねる。昨夜からとは全く違う様子だ。まるで別人のような・・・。
真っ白殿の耳と頬が茹で蛸のように赤かった。

「や、だって・・・い、いきなり真田さんのあんなとこ 見たから・・・。」
「真っ白殿、゛真田゛じゃないでござる。゛幸村゛ でござるよ。」

痛い。胸がチクリと傷んだ。
あぁ、昨夜真っ白殿が言った痛いとは、この事であったか。
真っ白殿の顔が見たくて真っ白殿の両手首を掴み、両手を退かす事を試みた。

「ちょ、真田さん・・・ッ!すとっぷ!待って!まだ!!ちょ、待って!!!」
「嫌でござる。某、真っ白殿の顔が見たいでござる。真っ白殿が某の事を゛幸村゛と呼ぶまで、某は止めないでござる。」

真っ白殿は某に抗おうとして両手に力を込める。しかし某の方が力が強い。段々と真っ白殿の茹で蛸のような真っ赤な顔が見えてくる。それに、真っ白殿が某の事を゛真田゛と呼ぶ度に某の心はちくりちくりと痛むのでござる。昨夜、真っ白殿は某のことを゛幸村゛と呼ぶことを約束した。なのに今ここで約束を破るのは、ひどいと思う。

「あ、あのね・・・ゆ、ゆゆゆゆ・・・ゆきむ、ら さん・・・。」
「なにでござろうか。」

真っ白殿が観念したように言葉を吐きだす。しかし両手の力を緩めない。某も真っ白の顔を拝見するまで両手に込める力を緩めない。

「あのね、私・・・ひ、人の名前呼ぶの・・・な、慣れてない、んですよ・・・ッ!」
「ほぉ、それがどうかしたでござるか?」
「ど、どうかしたじゃなくて・・・ッ!だから!それから!察して!ほしい の!!!」

真っ白殿が急に両手の力を弱めた。反動で某の身体が真っ白殿の方に沈みかけたが、真っ白殿はその隙をついて、某の両手に自分の両手を組んで、某と力比べする形になった。
真っ白殿の真っ赤な茹で蛸のような顔が見えた。

「だから、察してほしい ッ の!!!」
「しかし、真っ白殿・・昨夜、某の事を゛幸村゛と呼んでくれることを約束したでござる。」

某は再度力を込める。真っ白殿もそれに負けじと鼻の穴を広げて某に抗う。あ、お館様を思い出したでござる。お館様と殴り合いしている時を思い出した。
真っ白殿は うっ と呻いて力を弱めた。某はその隙に真っ白殿の両手を力を込めて押した。しかし真っ白殿はそれに気付き、負けじと押し返した。
別の意味でも益々真っ白殿の顔は真っ赤になってきている。

「した、けど!つい、あのね!!?ちょっと事情というか色々なものがあって、ね?!!たまに人の呼び方とか変えちゃうの!私ッ!!!」
「じゃぁ、某の事を゛幸村゛と固定してくだされ。」
「いや、あのね?!人にも個人個人によって色々な尺度があるの!!心の尺度があるの!!!だから、ね?!!ちょ、っと!こ、心の許してない人には名前を直接呼びにくいと言うかなんと、いう、かぁッ・・・!!!」
「真っ白殿、某の事・・・信じてないのでござるか・・・?」
「いや、違う!!違うから!!そう言う意味では無くて!!っつーかそうだったら信用できずに部屋いれてないでしょ!家に招きざるでしょ!普通!!!」
「でも真っ白殿は某を入れてくれたでござるよな?」
「そ、れは!真田さんも同じだと思ったからです、よッ!!」
「同じ?」
「そう!また何かで招かれたのか、って、ね!」

真っ白殿が反動をつけて某を押し返した。
その反動を受けて某は床と衝突する。真っ白殿が某に影を落とした。しかし力比べは止めない。

「私はッ!死にたいと思った時に!此処に 来たッッ!!!そして、次はッ!幸せな時に、再び此処に戻ってきたッッ!!!さな、だ さん、はッ!!?」

あぁ、この御人はずっと偽ってたのか。佐助が何時も飄々とした態度を取っていたかのように。佐助は偽ってないと思うが、忍だから己の本心を隠すところがあると思う。本人から聞いたことないから分からぬが。それに佐助も聞かないでくれ。と言うし。
だが、真っ白殿は初めから偽っていた。某に本心を隠していた。本性を隠していた。
きっと真っ白殿は予測してなかったのだろう。某のあんな所を見るのを。だから本性を現した。

真っ白殿は、ただ意地を張っていただけではなかろうか。思い出せば、真っ白殿は、某の事を一番気にかけていた。

「真っ白殿。」
「な、なんです、かッ!!!」

真っ白殿の汗が某の顔に落ちた。女人に武士の力はきつすぎたか。


「それが、真っ白殿の、本性でござるか?」
「!!」

真っ白殿はハッとしたように目を見開く。真っ白殿の力が抜ける。某はそれを見て一気に形成を戻す。次は某が上になった。

「な、何を言っているんですか・・・?」
「とぼけても無駄でござるよ。」

現に真っ白殿は汗をかいている。

「真っ白殿、なぜ本性を隠すのでござるか?」
「そ、それは・・・。」
「某、すごく傷付いたでござる。」

ぐぐぐと力を強める。
真っ白殿の某を押し返す力は弱い。

「・・・させたくなかったんです。」
「なんて言ったでござる?全然聞こえなかったでござる。」
「ッ!だから!!!心配させたくなかったんですよッッ!!!!」
「心配?」

真っ白殿の言葉に某は首を傾げる。

「ッ!最初から、誰一人!知り合いも誰もいない土地で一人でいるのはとてつもない恐怖なんですよッ!それに、私は幸村さんに敵意はありませんし、利用するつもりもありませんッ!!それだけは覚えといて下さい!私は、幸村さんのみ、味方ですからっ!!」
「真っ白殿、言いかけたな。」
「なっ?!ゆ、幸村さんッ・・・ちょ、黒い!!」
「何処が黒いでござろうか?さぁ、真っ白殿、なぜ言いかけたでござる?言ってくだされ。」
「ちょ、言い慣れてないからですよ!!!悪役のセリフは何となく言えちゃうけど、正義の味方のセリフはむず痒くて言えないんですよッッ!!!」
「味方って、正義の味方のセリフであろうか?」
「いや、ちょ・・・セリフでしょう!!」
「じゃぁ、悪役は味方と言わないのでござろうか。」
「まぁ・・・悪人は味方を平気で見捨てますからね。」
「そうか・・・真っ白殿は某を簡単に見捨ててしまわれるのか・・・・・・。」
「いや、違う!!違いますからッ!幸村さん!!私、そこまで根性腐ってませんよ?!!捨てるなら最初から捨てるつもりで接しますから!!!」
「じゃぁ、それはどんなものでござるか?」
「え。こんなじゃれあいなんかしません。」

じゃれあい?

真っ白殿の言葉でハッと気がつく。
某が真っ白殿に馬乗りになっている。真っ白殿と某の手は繋がっている。つまり・・・?


破廉恥でござるぅぅうう!と叫ぼうとした途端、真っ白殿の手が某の口を塞いだ。


(真っ白殿、息がし辛いでござる。)

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あきゅろす。
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