18.墓穴掘った マッハの勢いでドアを開けると、ものすっごく、不機嫌な婦人の方々が見えました。 「ちょっと、真っ白さん。静かにしてもらえまないかねぇ?」 「あ、はい・・・す、すみません・・・。」 「もう少し静かにしてもらえませんか?赤ちゃんが起きてしまったので・・・。」 「そ、それはすみませんでしたぁぁあ!!!」 「私、受験勉強なんだけど・・・あ。あの声、絶対ジャニ系だよね?ねぇ、真っ白さん、一体誰を連れ込んでるの?ねぇ、彼氏?っつーか、あの声からして絶対ぇ美形だろ。紹介しろ。いいから紹介しやがれ。」 「ごめんね。紹介できない。今度のやつ無料にするから、それで許して。」 「よし。じゃぁ飛びっきり高いので一日下僕にしよう。」 「ぎゃぁ。」 掴まれた胸倉を離して貰えたが、一日ただ働き宣言を受けて、軽く心に傷を負った。 それはキツイ、それはキツイよ、のりこちゃん。 だけど本人の前ではいわないよ、海苔こちゃん。のりこちゃんだからね、ん。 「・・・もう少し静かにしろや。」 「すみません。」 不機嫌に半眼で睨んでくるOLのさちこさんに謝る。やべぇさちこさん怖ぇよ。レディース健在並みに怖ぇよ・・・。 平身低頭して謝っていると、ぎぃと扉が開く音が聞こえる。 まさか、と気づいて扉の方を見る。 吐血しかけた。 幸村さんが扉から顔をほんの少し出してこちらの様子を伺っていた。 先手必勝。逃げるが勝ち。 なんか、凄く久々に全力で走った気がする。 脊髄神経をフルに使って二歩で寝室まで走り、左手ではみ出た幸村さんの頭を寝室の中へと押しやり、右手でドアノブを引っつかみ、全体重を掛けてドアを押し閉める。 反動と衝撃に耐えきれず、ドアは ドンッ!! と大きな音を立てて閉まった。 しばしの沈黙。 「ちょ、ちょ・・・」 先手を切り出したのは、のりこちゃんだ。 「ちょっと真っ白さぁぁぁあん?!!!!なによ、今の美男子!!ちょ、ま、おま・・・紹介しろ!!っつーか見せろ!!!今すぐ見せろ!!!!!!」 「あぁ、もー!!!落ち着いて、お願いだから落ち着いてよね、ね?!のりこちゃぁぁああん!!!!! あ、靴脱いで!!」 「え?あ、ごめん。でも真っ白さんの部屋、汚れてるじゃない。 ってか今の出せやぁああああ!!!!!そして見せろ!!!!」 「ごめん、無理!!!!!」 「あら、本当ね・・・真っ白さん、泥棒に入られたの?あ、今の彼・・・もう一回見せてくれないかしら?もう一回。」 「奥さん!語尾にハートつけても駄目なものは駄目です!!!」 「そんな男がどうとか構っている場合じゃないだろぉ?真っ白さん、あんたには日頃から世話になってるからあまりきつく言えんが・・・あまり人さまに迷惑かけるような事をするんじゃないよ。」 「(おばあちゃんが近眼で 助 か ッ た ! ! ! ) あ、はい・・・すみません・・・。」 「頼むよ、真っ白。あんたはまだ失いたくないんだからね。」 「あの、それ・・・裏庭って意味?校舎裏っていう意味?」 「くっ。」 「いや、あの。そんな含み笑い止めて下さい。」 貴方の含み笑い、本当にマフィアの方思い出すから。 「だけど、さっきの奴はなんだい?」 「え。」 「そうだね。また面倒事は嫌だからねぇ。」 「え 」 「ねぇ、真っ白さん。さっきの美男子、誰?気になって受験勉強に集中できない。」 「えぇと・・・。」 「教えなさい、真っ白さん。」 「う゛ぅ」 急に畳みかけた女性陣に恐怖を覚える。 一歩二歩三歩と後ずさるも彼女等もそれに合わせて追及してくる。しかもご丁寧に靴を脱いで、だ!! 背中に壁がぶつかる。なんとそこは寝室の扉!そして前方には恐怖の女性が四人!! 皆、「話さないと帰らないぞゴルァ」な顔をしている。と言うか特に奥さん、大丈夫なのか。あんたんところ赤ちゃんだろ、まだ。赤ちゃん放っといていいのか。アメリカですか?それともちょっと育児放棄入っているんですか? 「さぁ、教えなさい。」 その黒い笑顔も、育児に疲れている影響ですか? だが皆さんは一歩も引かない。更に悪い事に幸村さんがドア付近に近づいてくる気配あり!!! 皆さんの黒い気 が集中していく。 幸村さんがドアの目と鼻の先に来た。 皆さんの黒い気 が大きな塊となった。 幸村さんはドアの前で待機している。 皆さんの黒い気 が「話せ」と見えた。 幸村さんが禍々しい雰囲気に気づいたのか、数秒黙った。 皆さんの禍々しい気が自分ににじり寄っているのが分かった。 幸村さんが「真っ白殿・・・?」とぽつりと小声で控えめに聞いた。 禍々しい気が一気に棘をだす!!! 「ほらやっぱり見ろ!!男がいるじゃないか!!!」と言っている!!これ、攻撃出来てたら一気に串刺しにされてるよ自分ッ!!今すぐッッッ!!!!! 最悪のパターンを拒否したいが為に私は「ごめん!!!クッションを元の位置に戻しといて!!!!!」と叫ぶ。 しばしの沈黙。 幸村さんは私の言っている意味(恐らくクッションの意味)が分からず茫然としている。 皆さんは私が突然叫びだした理由が分からずに呆然としている。 ・・・間を置いて、「ごめん。座布団、」と私は訂正した。 幸村さんはそれに気付いてくれて、パタパタと座布団を整理しに行ってくれた。 皆さんの禍々しい気も消えた。 「・・・座布団?」 「・・・えぇ」 「・・・じゃぁ、あの声は?」 「ごめん、作業に没頭してたら、ゆーちゅーびで流していた音楽、忘れてた。」 「じゃぁ、あの靴は?どう見てもそれ系のしか。え、それ系に入っちゃった?」 「(こ、細かいなっ・・・!!)ごめん、のりこちゃん・・・今度の依頼で、コスプレしての手伝いが来たものだから・・・。」 「・・・真っ白さん、コスプレ嫌いじゃぁ・・・。」 「・・・給料が、良かったんだ・・・。」 「・・・あぁ、そう・・・。」 コスプレが嫌いなわけじゃない、するのが嫌なんだ、私は。 「じゃあ、あれはなんなんだい?」 と、トミさんが物音のする寝室を指さす。 しばしの沈黙。 「さ、さぁいこぱわぁ・・・」 「しばくぞ」 さちこさんのドス声で辺りは静まった。 「・・・犬です。」 「・・・犬?」 「・・・うん。」 「・・・犬禁制だろ・・・。」 「・・・すみません、犬。今は犬。犬という事にして下さい。頼みますから!今すぐ!犬!!いまいるのは犬って事で!!!!」 「犬・・・」 犬。 その言葉に周りは反応する。 「犬、ね・・・まぁいいわ。その言葉、好きにとらせてもらうからね!!子犬みたいなのとか!!!おやすみっ!」 「(ごめん、ほぼ正解だよ、のりこちゃん・・・)うん、おやすみ・・・。」 「犬・・・ふふふ。真っ白さんにも、そんな趣味があったの。おやすみなさい。」 「・・・・・・おやすみなさい。」 「・・・どんな事情があるか分からないがねぇ、自分のした事には責任とってもらうよ。」 「(本当、すみません、トミさん・・・)はい・・・。」 「・・・ったく、真っ白。男の後始末くらい、そいつにさせろよな。」 「さちこさん、それ、違う・・・」 「はいはい。」 「本当、真っ白さんは分かりやすいわよね。」 「ほぼ顔に出てるからな、こいつ。」 「皆さん・・・にやけないで・・・。」 と泣きそうになる顔を両手で隠しながら、皆さんが出ていくのを聞く。 しばしの沈黙。 「・・・犬って言っちまったよ・・・・・・。」 顔を隠した両手を頭に持っていき、両手で頭を抱えてその場に座り込み、鬱に入った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |