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12.予備知識なしで未知の世界はキツイ
真っ白殿の献身なもてなしと畳を見た瞬間に沸き起こった言いようのない郷愁が込み上げてきて、真っ白殿の前で号泣をしてしまった。
しかし真っ白殿はそんな某を責めるわけでもなく、「困ったときはお互いさまですよ」、と言ってくれた。
真っ白殿の言葉にますます感動してしまって、大声をあげて泣いてしまった。
真っ白殿は困りながら和紙に似た紙を右手で持ちながら、某の拭った鼻水や涙を拭ってくれた。

・・・情けない。

ぐすん、と鼻を啜りながら己の不甲斐無さを責める。
真っ白殿は某が泣きやんだと思ったのか、「着替えてきますね」といくつかの着替えを腕に抱えて向こうの部屋へ消えていった。

真っ白殿は消える前に、某に「何かあったら呼ぶように」と言ってくれたが、これ以上世話になってはならぬ。
一泊一夜の恩だけではなく、これ以上滞在するなど・・・


『真田さん、ここは貴方のいた世界じゃないんです』


ぞわっ、と背筋に粟が立った。
此処を出て何処を行こうかと宛てを探していたら真っ白の某に放った言葉を思い出した。

ここは、某のいたところとは、別のところ。

信じたくない。信じたくはない。
障子を開ければ佐助がいる。佐助がいつものように障子の向こう側で待っているはず。
外に出れば、お館様がいつもの場所で上洛を目指す為の策を考えているはず。

夢だ、そう。これはきっと、悪い夢。

そう思って壁に掛かる布を引き剥がす。
びりびりと布が引き千切られて行ったが、これは夢だ。きっと悪い夢。だからどうでもいい。


布の向こうは透明な枠で、先程真っ白殿に見せてもらった景色と同じだった。

「・・・。」

ふと、頬に冷たいものが伝った。
だが、先程某が泣いた理由とは全く違うものであった。

「・・・。」

外の景色を見て、透明な枠に映る某の泣いている顔を見る。

「・・・・・・。」

どうしようもなくて、その場に崩れ落ちる。

「・・・。」

そう言えば、昔、佐助が「頬をつねると夢から覚めるよ」と言っていたような気がする。

「・・・・・・。」

試しに某の頬を強く抓ってみる。

「・・・痛いでござる・・・。」

自分で抓った場所を擦る。


「痛いで、ござる。」


何時も聞こえる佐助の声も、叱咤してくれる親方様の声も聞こえない。

しん、と周りは静まり返っている。



(より一層、恐ろしく感じた)

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