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108. 下見
原付を飛ばして不動屋さんに着く。カポッとメットを外し原付に鍵を掛ける。不動屋さんの建物の中に入る。

「あの、あの家買うと言った××なんですが・・・。」
「あぁ、はい。」

と、昨日最初に対応した人が出てきた。

「で、下見なんですけど」
「あぁ。それはうちがお連れいたしますので、しばしお待ちください。」
「あ、原付はどうすればいいんですか?」
「あぁ、それは うちの裏手に移動をお願いします。」
「はい。」

と、昨日とは違った態度で客に接する。・・・昨日の こじゅさんの威力、恐ろし だな。・・・うん、虎の威を借りる狐、かぁ・・・。そんな事を独りごちながら原付を不動屋さんの後ろにやるが、中々 道、狭いなこんちくしょうッ!と思いながらも原付の駐車、完了。
その後、不動屋さんの用意した車に乗り込んで下見に向かった。
・・・ぶっちゃけ、こー言う他人の車に乗るのは、ぶっちゃけトラウマらしいトラウマを持っていて、乗っている間中、全ッ然 リラックスらしきリラックスは出来なかった。

「緊張してますか?」
「えぇ。」

そりゃ、ちょっと嫌な思い出が思い出されるからなッ!!!!

「それにしても、ここら辺では有名な人だったんですねぇ、貴方。」
「まぁ・・・。」

何でも屋、って言ってる割りには仕事よりどりみどりしてるから、なぁ・・・。

「ぶっちゃけ、気付いてないでしょ?俺の変装に。」
「・・・え?」

と、不動屋さんがこちらを振り向いてにっこり笑顔で言う。おい、前、前。前見ろ。事故るぞ。

「ちょっと。あの・・・」
「・・・あぁ、赤毛のロン。」
「そ!」

と、ロンは嬉しそうな笑顔をした。あー・・・うん、目印の赤毛が無かった所為で気付かなかった・・・。

「真っ白が引っ越しするからって言ったから、99%来るであろう場所に目星つけてて待ってたんだ。」
「待ってたってお前・・・まだ ストーカー止めてなかったの?」
「何を言うか。俺はしがない情報屋であっても、やる時は徹底してまでやんの。ほら、真っ白もこの前言ってたじゃん。『敵の情報を知り得れば後は容易い』ってね。」
「・・・」
「ま、ヤクザの人がいるなんて、驚きだったけどね。」
「や、違うから。」
「しかも・・・俺のとった情報とは違うし・・・。やっぱ もー少しつけとくべきだったかな。」
「つけるな。他の事やれ。」
「まぁまぁ。大丈夫、真っ白の情報 誰にも売ってないから。」
「売ってたら潰すぞ。」
「怖い怖い。あ、着いた。」

と、ロンの言葉を聞くや否や すぐさま車のドアロックを外して飛び降りる。車は止まらず相変わらずのスピードで走っていた為、着地の際に軽い受け身をとる。
しゃがんだ地面から立ち上がり、周りを見回す。あの資料に書いてあった通り、周りは田圃だ。あまり 民家がない。と言うか、民家までの距離、遠くね?

「おーい。飛び降りんなよ!」
「や、着いたって言ったから・・・。」
「はぁ・・・。その癖も、直ってないようだね。」
「・・・徹底的すぎるだろ・・・。」

呆れた目でロンを見るが、意に介さず 車をそのままバックさせて私に乗るように促す。その誘いに乗る。
一分も経たない内に車が止まる。

「着いたよ。」

その言葉で私は車の外に出る。車は止まっていた為 普通にそのまま出る所が出来た。先程私が飛び降りた所からそんなに離れて無い。と言うか、目と鼻の先じゃん。

「ここ、が真っ白の買う家までの道。」
「・・・草 ぼっさぼさだね。」
「まぁね。掃除なら・・・引っ越す前にしておいた方がいいね。アイツも、仕事で此処に来たけど、結構家の中荒れてたらしいよ。」
「アイツ?」
「ほら、あの・・・」
「あぁ。」

ロンの身ぶり手ぶりで その人物が誰か伝わる。

「え。ちょっと待ってよ。私、曰くつきのは御免。って言ったよ。」
「知ってる。ちょうど真っ白が やーさんとその手の人と一緒に来た時に終わった。」
「・・・」
「安心しなよ。もう何も無いみたいだし、また何かあったとしたら、アイツの面目が丸潰れになるだろ?」
「・・・まぁ。」
「ま、とりあえず・・・此処から車で行くには無理だな。ヘリを使おうにも その為のスペースも少ないし。」
「・・・」
「ま、隠れるには持ってこいじゃない?どちらにせよ。」
「・・・うん。マイナスイオンも豊富だしね!」
「そこか・・・。」

とロンが呟いたが、がさがさと獣道を先に歩く。

「今から案内するから。この手の道は大丈夫でしょ?」
「大丈夫だよ。街やそんなのみたいに似たような物は無いし。」
「似たような、ねぇ・・・。」

とロンは辺りの木を見まわしたが 気にしない事にした。ざくりざくりと歩く。・・・下駄履いてきたのが不味かったかなぁ・・・でも、半そで半ズボンだと、草が掛かるからな。・・・かぶれるかどうかは分からんけど…。

「それにしても、仕事服だとはね。」
「悪い?」
「いや、正解。」

ロンに指摘されて 何時も仕事の際に着て行く着物の裾を掴む。何時の間にか 佐助さんが縫い目を直してくれてた。ロンは長袖のカッターシャツを捲くらないまま 眼前に振りかかる草木を避ける。私は身を屈めてそれを避ける。

「そんなにしなくても こういう風にして良ければいいのに・・・。」
「俺は真っ白みたいに背は低くないの。」

と言ってどんどんと先に行く。なんだと。たかがちょっと高い位でッ!
どんどん先に進むと、平たい地面に着いた。着いたのか、と目線を先にやると、自分より背の高いロンの隙間から家が見える。見覚えのある家に 目を見開く。

「着いたよ。」

と言ってロンが私の視界から消える。私はその目的の地に辿りつく。

まず、目にしたのが家の形。家は 今私達がいる所の特色とは違い、一言で言えば 傾雪の重みに耐えきれられるような屋根の構造になっている。全て木造と土から作られている所から、現代使われている耐震の構造ではなく、震えを逃すと言う昔ながらの構造になっている筈。そして、その家の周りの土地が空いている。私に向かって玄関が見える。その玄関に向かうまでの土地が広い。試しに右手の土地に向かうと 微かに土が柔らかい。他の地面と比べて地面が柔らかく、微かに土の隆起が見られる。
裏手に回ると 縁側と広い地面が見えた。右側から水の流れる音が聞こえる。

「あっちが川。こっちが家。で、ガスや光は明日までに引いてもらうように頼んだから。」
「・・・水は?」
「それも。家の中は・・・」

とロンが言って 縁側の廊下を靴を脱いで上がって 襖を開ける。中は埃まみれで家具が微かに残っている。

「・・・え?」
「ここの持ち主、どうやらヤバいと感じて このまま残して去ったのらしい んだって。大丈夫、元の持ち主には話はついてるよ。最も、その子 にだけどね。」
「・・・。」
「・・・それを含めての あの料金だけど・・・分かった?」
「・・・や。でも、それでも。微妙に安くない?」
「・・・さっきの話の伏線があるからさ。でも 害はもう無いよ。ただ、ね・・・。」
「・・・いや、大丈夫だよ。アイツが全てを終わらせた、って言うしね・・・。」
「・・・なら、大丈夫か。」
「うん。アイツ、腕だけは確かだから。」
「腕だけって、そりゃ酷いでしょ。人格も良くなかったら あんなに救えないよ。」
「・・・そう、だろうね。」
「そうだよ。」

と、ロンは縁側から降りて靴を履く。何があったかは知らないけど、それで両者共無事 落ち着いたのなら良かった。どちらともに害を残さぬ形で残ったのならば。

こうして下見を終えた。

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あきゅろす。
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