[携帯モード] [URL送信]
99. せんげん
「佐助さん、佐助さん。」
「ん?」
「佐助さんのところでは、初めて会った人物に、たった三日で求婚するのは 当たり前のことなんですか?」

・・・あ。佐助さんの手が止まった。

「ん?どーいう事かな?」
「いや・・・だから、初めて会った人物にたった三日で求婚を申し込むものかと・・・。」
「・・・えーっと?」
「だから、初対面の人間と会って三日目で 結婚を申し込むものかと聞いてるんです。」

佐助さんは自分の額に手を当てたまま考える素振りを見せてから、たっぷり数十秒考えた。

「ん?いや、まあ・・・うん、俺達は戦乱の世に生きてるからね。有能な人材がいたら、すぐ引っこ抜くのは 当たり前だと思うよ。」
「え?いや、私を今引っこ抜いても無駄かと思うんだけど・・・。」
「んー・・・いや。旦那達、もしかしたら ちょっと勘違いしてるかもしれないねー。真っ白ちゃんを自分とこに連れて帰れるんじゃないか、って。」
「・・・家政婦として?」
「・・・いやー・・・違うと思うよ。」
「でも、こじゅさんに聞いたら、戦に使うでもないって・・・。」
「・・・へ?」

佐助さんが目を見開いて私を見る。

「いや、確かに・・・なりさんには『有能な駒だから我の駒になれ』とは言われたけど・・・その意味尋ねたら 顔真っ赤にして逃げたし・・・」
「・・・へぇ。」
「で、チカさんには・・・気に入られた事言われたし・・・いや、嬉しいんですけどね、気に入られるの。嫌われるのよりマシだし。」
「・・・それで。」
「それで・・・政宗さんと幸村さんと こじゅさんに、結婚を申し込まれた?」
「・・・。」

佐助さんの雰囲気が先程と違う。だが、答えを引き出すまでは引き下がれない。

「で、佐助さんの話を聞いている限り、そうだとしても今行う動機や事実などが分からないし・・・それに、私はまだ“YES”と答える確証がないのに、いきなりそんな大勝負に出たのかが分からない。政宗さんやこじゅさん達に聞いても、遊びで言っている気は一つもないし・・・。こじゅさんが言うには、明日になれば政宗さん達は何事もなかった振りして振舞うって言ってたし・・・ぶっちゃけ、政宗さん達の真意が知りたいだけなんですよね。」
「・・・受けるの?」
「え。」

佐助さんが半眼で私を見る。

「あんたは、それを受けるのかい。」
「いや・・・まだ会って間もない人間の、そりゃ 人生最大の転機と変化を起こさせるような誘いに、はいそうですか。と、ほいほいと簡単に乗れるわけないじゃんか。それに、そんな軽い人間じゃないし。」
「ふーん。」
「って、何 その『信じてませんよー』的な目は。」
「いや、だって本当に信じられねぇし、俺様。」
「信じられないって言われても・・・私だって『はい夢でしたー』ってな風にならないかなぁって思ってるよ。そりゃぁ。」
「うん。俺だってマジでそうありたいと願ってるわ。」
「でしょ?幸村さんだってそうだ・・・政宗さん達と比べれば長く私といたからと言ったって・・・たった一ヶ月なんだぞ!? たった一ヶ月で、そんな重要な相手を決めるなよ・・・。」
「うん。旦那達、本当に早いわ。」
「そうだよ、絶対早いって。こんな大切な事を言うなんて・・・もう少し熟慮しろってんだ。」
「そうだな。本当に、そうするべきだよな。」
「うん・・・しかも、結婚する相手なんて・・・おいおい。私よりもっと良い女(ヒト)はいるだろ。」
「それは否定するわ。」
「・・・え。いや、佐助さん・・・経験、豊富でしょ?」
「え、俺をそんな風に見てたの?すっげーショックだわ。」
「え。ごめん。」
「こう見えても俺、純情よ?」
「へ、へー・・・。」

酔ってる?

「かすがは妹的なもんなの。ただ目を離せない危なっかしい妹なの。」
「へー・・・一度会ってみたいなぁ・・・。」

可愛いかな。

「うん。真っ白が俺と一緒に来てくれるんなら。」
「・・・佐助さん、酔ってるでしょ?」
「酔ってませんよー。俺 シラフだからー。」
「・・・いや、凄くベラベラと喋ってたから。内的情報。」
「はぁ?それだったら真田の旦那や竜の旦那達の方がよっぽど酷いでしょーが!!」
「・・・うん。佐助さん、ずっと大変だったんだね・・・。」
「そーだよ。全く・・・本当、嫌になるわ。武田軍の給料は安いわ人使い荒いわ・・・。」
「う、うわー・・・。」
「しかも外務手当も休日も無いんだぜッ!!?!!!」
「あ、それは酷い。」

それは酷いわ、幸村さん。

「・・・今度、幸村さんに言っといてあげようか?」
「んー・・・頼めるものなら頼んどいてぇ・・・。」
「はいはい。」

佐助さんが私に抱きついてきて寄り掛かってきた。あー。すっごく疲れてたんだなぁ・・・佐助さん。ポンポンと背中を叩く。

「今度 家事手伝えるものなら手伝っとくね。」
「ありがとー。でも 片倉さんも俺と同じ匂いがするし・・・大丈夫だと思うー。でも、たまに手伝ってねー。」
「はいはい。」

あ。同じ匂いって・・・オカンとオトンか。

「・・・って。隙だらけだと、すぐに竜の旦那に食べられちゃうよ。」
「いやいや。政宗さんは食べないでしょ。人肉なんて・・・うん、豚の味がするっては聞くけど・・・。」
「真っ白ちゃんは もー少し、警戒心ってのを付けた方がいいと思う。」
「いや、そうは言ったっても・・・敵じゃあるまいし。味方陣地内でそういっつもピリピリ張ってたら疲れるじゃんか。」
「でも忍では当たり前の事ですー。」
「私、忍に近い仕事してても忍じゃありませんからー。それに、佐助さんの場合は主君を守る為に敵の気配を辿るんでしょ?だったら・・・あれ?何時もしてる。」
「そうそう、何時もしてるんなら、竜の旦那にも気を付けてよ。」
「え・・・いや、政宗さんは味方でしょ、味方。味方に敵として警戒してどーするんですか。」
「味方だって裏切る時もあるぜ。」
「 埋伏の毒、だっけ?そういうの・・・それはそうであっても、私 そう言う素振り見つけるの得意だから。だからそう言われなくても大丈夫だし、政宗さんがそうするわけないでしょーが。」
「その自信がどこから来るのか分からねぇ。」
「・・・そりゃ、佐助さんは忍だし、いっつも誰裏切るかって神経張り巡らせて るのかもしれないけど・・・」
「・・・」
「 私だって、人裏切るような仕事してるんだ。味方内陣地に気を許したり、信じたりしても、いいだろ?」
「・・・んー・・・人、裏切る仕事って、どーいうの?」
「あー・・・んと、例えば・・・悪の組織に服従する振りして内側から攻撃!」
「え。それ、まだ大丈夫の範囲じゃね?」
「そーかな・・・でも、一度信頼を勝ち取って裏切った事には変わりないし・・・。」
「いやいや。でも、それっきりでしょ?」
「まぁ・・・うぅん・・・流石に一緒に居酒屋行くかと誘われた時は、迷ったけど・・・。」
「居酒屋行くのかよッ!!!?!その組織ッ!!」
「うん・・・で、結局 なんかそこまで悪い人じゃなかったから、組織に関わった人全員生還させて(組織を)潰して 再就職先探してあげてから去った。」
「何それッ!!?!ちょっ、いい人すぎんじゃんッ!!!ってか、それ 俺と同じ職業じゃないからッッ!!!!!!」
「えぇ・・・そうかなー・・・必要な敵から情報抜き出す事もするし、主守る為なら身を厭わないし、後、伏兵の抹殺、とかも・・・。」
「うーん・・・だけど、性質が異なるわ。根本的な所が。」
「えー・・・そうかな。」
「そうだって。いい?忍は・・・」
「道具?感情がいらない?主の命令には絶対?」
「・・・俺様の台詞をとらないでよ・・・。」
「ごめん。でも、正解?」
「うん、正解。」

そう言って佐助さんが離れる。白い椅子に腰を下ろした。

「うーん・・・まさか、そういう人種がいたなんて・・・俺様びっくりー。」
「んー・・・まぁ・・・あ!」
「え?何々、どうしたの?」

尋ねてくる佐助さんに、そこで待っててと言い、お菓子の入ったスーパーの袋をとりに居間の客用の机の上を見るが、無い。何故 と思いながら 心当たりのあるところ全て探すが、無い。まさか 佐助さんが片付けた?と思って佐助さんの方を振り向いたら 何時の間にか背後に佐助さんが立っていた。

「・・・あ。あれ?」
「あ、そう。あれ!」
「んー・・・ちょっと待っててねー。」

と言って佐助さんは台所へ消えた。元の場所に戻って待つべきかなぁーと思ってそのまま突っ立ってたら佐助さんが戻ってきた。

「あれ? そこに立って待ってたの?」
「まぁ。戻ろうかどうか迷ってたら佐助さん、戻ってきたし・・・。」
「ふーん。座って待っててくれたってよかったのに。」
「あ、お菓子。」
「はい。」
「ありがとう、」

と言って佐助さんからお菓子を受け取る。大袋に入った チョコとクッキーの感触がたまらない あるふぉーと です。
それを持って自分の席に座る。佐助さんも続いて白い椅子に座る。
ビリっと袋を破いてミルクを一つ出し、横に置く。乱雑に一つ取り出して 佐助さんに手渡す。佐助さんは手渡されたチョコをぼーっと見ていたが、私はそれに気にせず 自分の用に取っておいたミルクの袋を破り、大袋をデスクの上に置く。お猪口が倒れないように置きながら。袋を破って出てきたミルクを一齧りする。佐助さんも袋を破ってチョコを食べていた。

「よく、幸村さんに強請れるお菓子の内の一つです。」
「ふーん。」
「ぶっちゃけ、佐助さん達の食生活とか健康状態とか身体の構造とか化学物質とか知らないんで、ずっと買わないでおきましたが、」
「ん、ちょっとそこまで知られてたら恐いわ。」
「私だって 自分でもだけど、そこまで知られたら怖いそのものじゃないですよ。ぶっちゃけ恐怖。佐助さんって、忍でしょ?忍だから毒味、平気でしょ?」
「うん。俺様優秀な忍だからね。」
「お味はどうですか?身体のご調子は?」
「まぁまぁ。変化無し、だよ。」
「それなら良かった。それ、色々な化学物質が微量に含まれていて もし身体内で化学反応が起きて毒になったら どうしよう、って思ってたから。」
「ふーん。でも、俺は毒に慣れてるってのもあって これと言った症状がないだけだと思うぜ。」
「症状が出たらヤバいんですよ。まぁ 化学物質と言っても 私が危惧しているのは人工で作られた物だし、それを除いて自然の物質で大丈夫なら、幸村さん達にも大丈夫って、事です。基本的な身体構造は変わらないし。」
「そーかなぁ。」
「そうだよ。人殺す時の教えでも、全部一点を押さえれば皆死んじゃうのと一緒。」
「・・・真っ白ちゃん、そー言うブラックジョーっくって、お好き?」
「いや。出来ればそう言う殺伐したのを口にしたくない主義。」
「そ、俺様も。」

と言って 佐助さんは大袋からミルクを取り出した。あ、ミルクッ!とりあえず私はお猪口に注がれている酒を飲む。

「あ、そうそう。真っ白ちゃん。」
「んー。」
「旦那達の言ってた事、本気だと思うから。」
「ぶっ」

げほッゲホッッ!危うく酒を噴き出す所だった。まぁ、お猪口に口を付けていた時点だったから大丈夫だったけど。

「・・・。」
「うん、旦那達。本気だから。」

何も言わずに黙っている私に 佐助さんは念押しするように もう一度私に言う。

「だから 警戒心つけろって言ったの。・・・旦那達が時期尚早に んな事やったから、出鼻挫かれた気分だけど。」
「へ、へー・・・出鼻、挫かれた気分 ねぇ・・・。」

あはは。・・・とりあえず、明日 政宗さん達が何でもない振りして振舞ってくれる事を願うしかない。

「・・・い、いや!嫌われてない、と思えばいいだけの事だよね!!?!」
「ん、嫌われてないと言うより。めっちゃ好かれてるから。」
「うん、うん!好かれてるよね?!友好的な意味でッッ!!!」
「友好的よりめっちゃ上の意味で。」
「・・・佐助さん、いじめるの・・・好き?」
「俺様、好きな子程虐めたい主義なの〜。」

あ、パクられた!まぁ、いいけど。

「・・・とりあえず、私の中では 友好的な意味、で落ち着けたから。」
「んー・・・ま、妥当な所だね。真っ白は、旦那達を そう言う目で見てないだけなんだろ?」
「ん・・・まぁ。と言うか、それでもし落ちたら もう興奮冷めちゃうでしょ!!熱がッ!!!」
「(興奮・・・あぁ、熱を上げる、って意味ね・・・)それは真っ白が見極める事だろ?」
「んぁー・・・ま、まぁ・・・。」
「ま、大丈夫だって。(片倉のおっさんは知らないが)旦那達も二、三日もすりゃ忘れるって!」
「! そうだよね!ちょっと友好度が下がるのは嫌だけどッ!!!」
「友好度?」
「? ちょっと好きじゃなくなる事、だけど。」
「あ、それは無いわ。」
「よかった。なら、少なくとも 友達でいてくれる事なんだね!」
「うん。(友達ではなく片思いレベルだと言う事は伏せとこ…)でもね、真っ白。」
「ありがとう、佐助さん!  ・・・って、え?」
「俺も本気。真っ白が俺様に そーいう気持ちを持ってくれた時に、プロポーズ するから。」
「・・・はい?」
「はい、酔っ払いの戯言でしたー!」
「あ、あ あははー!!」
「酔っ払いは本音を言うけどね。」
「ぎゃっふんッ!」
「あ、真っ白の落ち着けた結論に入れればいいから。俺様の気持ち。」
「・・・ん、ごめん。」
「  いいってことよ。」

と言って、佐助さんがくしゃくしゃと髪を撫でた。

何か 寝室戻って寝るのも何だか気が引けてきたので、今日は客室のソファの上に寝る事にした。

「え、真っ白。何やってんの?寝具に戻って寝なよ。」
「何か戻りにくい。だから今日 ここで寝る。」
「寝るって、アンタ・・・あぁ、もう!ちょっと待ってろよ!」
「(待てと言われなくても ここで寝る気満々なんだけどな・・・)  ? 」
「はい、布団。女の子なんだから 身体冷やしちゃ駄目でしょ。」
「あ、ありがと・・・って、佐助さんは?」
「俺は外で寝てるの慣れてるからいーの。」
「いや、駄目じゃん。そう言う佐助さんこそ身体労らなきゃ。ほら、布団。」
「真っ白ちゃん、 何気に俺様もここで寝る事、決定しているみたいだね。」
「え、あそこで寝るの。おやすみなさい。」
「あ!違う!ごめん、冗談冗談!」
「えぇ・・・でも、佐助さんの布団・・・。」
「それ 俺様の。真っ白ちゃんに身体冷やしてもらいたくないから 俺様がかけたの。」
「・・・いや、一層」
「真っ白ちゃんの身体壊したくないからねー。」
「・・・。」

どうしようもなくて寝室に戻った。自分の布団とってきて佐助さんに出した。

「え?」
「とりあえず、はい。」
「ん?や、ちょ ちょっと待って!こ これってぇ!!?!」
「んー・・・なんかもう要らん小競り合いしたくないので、私 佐助さんの布団使って寝ますから。佐助さんもそれでどーぞ。」

と言って、ついでに持参した枕を頭の下に引いて寝た。何か聞こえた気がしたが、気のせいだと言う事にした。




症状1:人に嫌われるのを極端に嫌う(人に嫌われない為のなりふり構わない努力を惜しまない)
症状2:――――

「ぶっちゃけ、一歩手前なのよね あの子は。」


[*前へ][次へ#]

103/122ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!