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novel
おかえり。<エジフェイ>※前編
ーーにじむ景色の中ーー


なつかしい…いとおしい君へと。僕はただ気持ちのまま駆け出していた。



そう。
今抱き締めた君をもう…
失いたくないんだ。

僕は…静かに君の瞳を見つめた。
「おかえり。フェイズ。」





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
SRF輸送艦管理モニター前。
僕は白い仕事着に身をつつみ、先ほど僕宛てにつながった回線をつなげようとモニターキーをはじいていた。やがてモニターに懐かしい顔がうつしだされ、映し出された人物より声がかけられる。
「久しぶりですね。エッジ艦長。元気そうでなによりです」

その声は、2年前、共に宇宙開拓を目指した種族のガガーン総司令のものだった。
「お久しぶりです!ガガーン総司令!」

僕が立ち上がり敬礼をかえすと、その人はふふっと頬をゆるめ
「そんなに緊張なされなくても良いですよ。」
と、暖かい言葉を僕にくれる。
「ありがとうございます。ガガーン総司令。ガガーン総司令もお元気そうでなによりです。ところでそちら…レムリックでの生活は順調ですか?」
その問い掛けに、その人の眉が少し下がる。
どうやらあまり順調にはいっていないようだ。
「それがですね…ここレムリックの水が我らエルダーの民には少々あわないらしくてね…ろ過装置で対処していたのですが故障してしまいましてね…」
「故障…ですか。それは大変ですね。それで今回は修理用の部品の輸送を我が輸送艦に…」

「はい。忙しいとは思いますが、輸送宜しくたのみます。部品名はまたこちらからメールでお送りしますので…」
「了解しました。」
「ありがとう。心よりお待ちしています。エイルマットやフェイズもあなたが来られると知ったらさぞ喜ぶことでしょう…」

「はは…エイルマットやフェイ……」

フェイズ
今…フェイズ…って?

僕の顔色がかわったのに気付いたのか、ガガーン総司令は僕にこう伝えてくれた。

「あぁ…エッジ艦長にはまだお伝えしておりませんでしたね。フェイズはリムルという娘さんに助けてもらい、再びここレムリックで共に暮らして…」

フェイズ…
「エッジ艦長?」
総司令の声は遠くなり、かわりに僕の心はこの名をひたすら繰り返す。

フェイズ……フェイズフェイズ
2年前、共に宇宙を旅し、僕を尊敬し…そして好きだと言ってくれた名前。
もう2度と聞くことのないと思っていた名前。
僕の心を支配してやまない名前。
まさか、彼が…
生きていたなんて…


僕の瞳から自然にあふれだす涙。それは頬をつたい震える手の甲にぱたぱたとこぼれ落ちる。

「フェイズ……生きていてくれて…ありがとう…フェイズ…」
僕は何度も何度もこうつぶやき続けていた。

…ありがとう…






あの輸送依頼から一ヶ月。僕はレムリックに向かう輸送艦の中、期待と不安につぶされそうになりながら時をすごしていた。
手にしたコーヒーに口をつけないまま…その黄緑色のコーヒーカップをひたすら見つめ、一人ため息をつく。そんな僕の様子に気付いのか、レイミが僕にこう言葉をかけてきた。
「大丈夫…きっとみんな待ってる。早く着いたらいいね。」
「…あぁ。」
早く着いたら。着いたら僕は彼にどんな顔で会ったらいいのだろう…その前に会ってくれるのだろうか。2年前、君を救えなかった僕を、君はどう思って…
でももう後悔はしたくない。君を失いたくはない…
「エッジ?」
「…ん?…あぁ…早く着くといいな…」
僕らを乗せた輸送艦は漆黒の海をただ静かに前進し続けていた。







あれから数日後。
僕らを乗せた輸送艦は大きな爆音と共に、きれいな星に降り立った。
なつかしい空気の香り、雰囲気。そのひとつひとつが僕の気持ちを高ぶらせる。
ここはレムリック。
君と過ごした日々の記憶に背中を押されながら、僕はゆっくり深呼吸をし、船を降りる。


彼は…僕と再会したらどんな反応するだろうか…
びっくりするかな?
泣いちゃうかな?それとも…

そんな心のうちを知ってか知らずか、レイミが後ろから肩をポンッとたたいた。
「ではいきましょう。艦長」
「……あぁ。」
久しぶりに足をつけた地面には白いじゅうたんが冷たく…しかしキレイにかがやいていた。



歩く道のりがやけに長く感じたが、やがて…僕らは以前訪れたことのある小さな村にたどり着く。

トリオム村。

昔、まだ新しい冒険に皆で胸を踊らせて訪れた小さな村。あの頃はまだあんなことになるなんて…思ってもいなかったっけな。
頭の奥にある記憶をなぞりながらふと村を見渡すと、<あの事件>以来、今もその村の中央で村を守るようにたたずむ岩に祈るひとつの人影の姿を見つけた。

「リムル。」

「……えーた…ん?」
そのなつかしい顔は一瞬だけびっくりした表情を浮かべたが、すぐ微笑みにかわり嬉しそうに、タタタ…とこちらに向かいかけてきた。
あの頃より少し見上げる視線が近くなったのを感じながら
「久しぶりだね、リムル。元気だった?」
頭はなでないで手を差出し笑ってみせた。
それが嬉しかったのか、彼女はよりいっそう嬉しそうにこちらをみて
「えーたんも元気だったのよ?」
そう語り掛けてくれた。
「人が…またこの村に戻ってきたみたいだね。」
いくつもの煙突から煙があがっている様子をキョロキョロ見渡す僕に
「うんなのよ。じーたんも喜んでるのよ。」
そう言いながら彼女は手に持っていた花束をそっとその岩の前においた。
「えるだーの人達も、一緒に元気でやっているのよ。ががたんも、いるたんも、けーたんも、でもねなのよ…」
「?」
「フェイズ。」
「!!」
「フェイズだけは…元気じゃないのよ。」
今までの嬉しそうな顔が少しさみしいそれに変わる。「そうだ!フェイズ!彼は本当に生きて…?」
思わず彼女の肩をゆする手に力が入る。
「えーたん痛いのよ。」
「あっ!ごめん!」
「いいのよ。」
「ごめんな、リムル。で、フェイズは今どこに?」
「……フェイズはじーたんの花を摘みにいったのよ。りむ、もうあるからいいって言ったのに、もっといっぱいにしてあけだいから…って…この出口を出たとこの丘の上…きっとフェイズはそこにいるのよ。」
「ありがとうリムル。」
お礼を言うと同時に僕の足は彼を求め、駆け出していた。
もうすぐ…やっと…フェイズに会える…



降り積もる雪のなか、僕はただひたすら走っていた。フェイズに会いたい。そして抱き締めたい。何といわれてもいい。今度こそ。君を失わないために…
フェイズ…!!!

降り積もった雪に足を取られ、僕ははでに転び、雪に顔を埋めた。支給された白い制服が、雪と泥にまみれ汚れたがそんなことはどうでもいい。早く彼のもとへ…立ち上がろうと、ふと視線をむけた草影に

…彼はいた。
黄緑の髪に積もる雪を落とそうともせず、ただひたすら足元の赤い花を静かに優しく摘んでいた。
「フェイズ


僕の声にこちらを振り返り、瞳を大きく見開く君にむかい僕は駆け出した。


にじむ景色の中……


なつかしい…いとおしい君へと。僕はただ気持ちのまま駆け出していた。



そう。
今抱き締めた君をもう…
失いたくないんだ。

僕は…静かに君の瞳を見つめた。
「おかえり。フェイズ。」

今の状況におかえりはおかしいけど…でもまずこれは伝えたかった。
僕のもとへおかえり…と。そして、できたらくっついて離れなくなってしまえばいい…
僕は君の温かさをかみしめるよう、ぐっと力をこめ抱き締めつづけた…





あれからどのくらい抱き締めていただろう。そんな僕の腕のなか、しばらくじっと動かなかった彼がようやく言葉を口にした。

「…ごめんなさい…」
そしてまたぽつり。
「…ごめんなさい…」

ただただ謝り続ける彼の…小さく細い肩を僕はぎゅっと包み込み、首を横にふる。
「謝るのは僕の方だよ…フェイズ…2年前僕は君を…」
「違います…エッジさんは僕に道をしめしてくれようとして下さったのに僕は…」
淡い紫の瞳に大きな涙をうかべ君はそうつぶやいた。
君はずっと苦しんでいたのか…こんな…どうしようもない僕のために…君は…

僕は首をこれでもかというほど横にふりながらゆっくり。でもしっかりと。
「でも、今こうして君は生きていてくれている。僕の前にいてくれる。僕が今生きているのだってさ、フェイズ。君が助けてくれたからじゃないか。だから…な?」

「……エッジさん…」
「だからもう謝るのはなしだよ。」
涙がつたう君の頬に僕はそっと口付けた。


「エッジさん
彼の瞳にたまったしずくが一気にあふれだす。
「フェイズ…フェイズ
君の持っていた赤い花束が風に舞い上がり、僕と君のまわりを赤くそめる。



さっきまでふっていた雪はやみ、かわりに少し顔を出した太陽が僕らを暖かく包み込んでいた。




後編へつづく〜



すいません…やっとあけたと思ったら
前編かよ
ですよね…
もうほんとすいません…

後編はいよいよ再会を果たした二人。はなれていた2年は二人にとってあまりにも長く…そして…
次回乞うご期待☆
…出来るかぎり早くあっぷしたい…です(;^ω^A

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