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サンプル
リアルメイカー
 これは現実なのだろうか、果たして夢なのだろうか。俺は何も無い世界をただひたすらに彷徨っていた。瞳を開けてしまえば、そこには見たくも無い現実が広がっていそうで、怖かった。俺は、臆病者だ。こうして瞳を閉じて何も無い世界にただ蹲っていればそれでいいと思っている臆病者だ。
 だが、肌に刺す痛みは、夢だとは思えない。俺はゆっくりと瞳を開けた。じわりと光を取り込んでいく瞳が痛くて思わず眉を顰めるが、それでも現実から目を逸らしてはいけないと、どこかで思っていた。だがその考えも、すぐに後悔に変わる。
 戦場だった。
 変わらない空に浮かぶのは、天人が齎した技術で開発された戦艦。それらは俺たちを目指して爆撃を始めている。高みの見物とはいい御身分だ、あれを叩き切ってやりたいのは山々だが、そこまで行ける力は今の俺には無い。更に、それだけではない、目の前には各々武器を抱えた天人たちがこちらを鋭い視線で睨み付けている。どこもかしこも敵だらけ、不利極まりない。幕府の糞野郎どもは徹底的に俺たちを叩き潰したいらしい。
 気に食わねぇ、気に食わねぇよ、こんな現実!
 俺は刀を握り締めた。今、仲間を守り自分の生きる道を切り開くためには、これが無ければいけない。刀を握り締めて、仲間の命を背負い、俺は立ち上がる。
 ・・・仲間?
 俺はハッと我に返った。敵ばかりを睨み付けていた俺の周りに存在している命は、共にここまで生き抜いて戦ってきた仲間ではない。天人だ、敵だらけだ。奴ら以外に生きている人間などここには見つけられない。俺は慌てた。先ほどまで生きていたじゃないか、一緒に戦っていたじゃないか!必死に辺りを視線を巡らせるが、そこにあるのは屍だけだった。
 仲間の、守らなければならなかった大切な、命、仲間の、存在。俺はあまりの衝撃に、だが涙は乾き切ってしまっているのか一筋も流れやしなかった。なんて薄情な奴なんだろう、俺自身のことだというのに、他人事のようにそう思った。
『残るはお前だけだ、白夜叉』
 にやり、と気色の悪い笑顔。やめろ、そんな顔で俺を見るな。じわり、と近寄る邪悪な影。来るな、来ないでくれ、俺に近寄らないでくれ。
 俺は走った。どこへ向かっているのか、どこに行きたいのかも分からないまま、ただ刀だけを握り締めて我武者羅に走った。四方から襲い掛かる天人たちを切り捨て、ここではないどこかへ。向かってくる獣の顔をした天人の腹に一太刀打ち込んで、怯んだ隙にその体を蹴り飛ばす。背後にいた同じ顔をした天人は、その勢いに巻き込まれて転ぶ。その上を飛び越えながら、左右から向けられる刀を受け、体を転がして逃げる。そう、逃げている。
 誰かに助けて貰いたかった。戦場に出るということは、死を意味するも同じ。己の身は己で守ることが当然だと分かっていても、恐ろしかった。誰か、生きていてくれ、誰か。


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あきゅろす。
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