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無限C傲慢

 思っていたよりも、少し遅くなってしまった。だがさすがに、まだ深夜と呼ぶには早すぎる。多少躊躇いはしたものの帰るつもりは無かった俺は、一階の騒がしいスナックを尻目に細い階段を上っていく。
 明かりの漏れていない万事屋。・・・誰もいないってことはねぇよな?
 迷った末、――俺はその扉を、叩いた。
「さか、」
 声をかけるよりも先に、ガチャンと施錠を解く音が響く。まさか、そんなに近くにいるとは思っていなくて思わず肩を震わせるが、驚いたことを悟られまいとグッと息を詰める。
「・・・坂田」
 がらりと開かれた扉の内側で、俯いたままの坂田が俺を出迎えた。
「・・・遅くに、悪ィ・・・話があって、」
「やっと来た。何?副長サンってば意外と焦らしプレイがお好み?」
 相変わらず、表情は見えない。
 眉間に皺を寄せる俺など気にも留めていないのだろう、坂田はいつもの人を馬鹿にしたような口調で続ける。
「そ、・・・んな話を、しに来たんじゃねェ」
「まァ、とりあえず上がれば?今日は神楽もいねェし」
 そう言って身を引いた坂田の後を追うように、俺は漸く万事屋へと足を踏み入れた。
 ・・・正直、チャイナ娘がいないことにホッとしている。さすがに子供の前で話すような内容ではないし、話が出来ないなら今日ここへ来た意味も無くなる。音の無い万事屋はまるで空き家のように生気が感じられなかった。
 居心地の悪さに視線をさ迷わせながら、通された居間のソファに腰を下ろした。
「それで?・・・ここまで焦らしておいて、今更何をお話しするつもり?」
 向かいのソファに腰を下ろし、俺を真正面から見据えてくる坂田がそう切り出す。こちらを見据えるような視線で、組んだ手足が発する威圧感は強烈だ。
「まずは、お前の勘違いからだ」
「・・・勘違い?」
「事の発端は、お前が俺に言ったことだ。俺が、お前のことを好きで、・・・だからお前は仕方なく付き合ってやると」
 坂田は、否定も肯定もしなかった。ただ見定めるように、俺を凝視しているだけだ。居心地の悪さも不気味さも想像を絶するほどで、こんな奴に負けたくねぇのに口を開くのが億劫だとさえ思ってしまっていた。
「そもそも、それ自体が間違いだ。俺とお前は別に付き合ってるわけじゃねぇし、・・・そもそも俺は別にお前のことは好きじゃ、」
 坂田の、表情が変わった。
 思いがけないその変化は、無いと続くはずの言葉を、音に出来ずに口の中に留まらせた。見たことのない、その表情の変化は――非常に、不味い。脳内の危険信号が激しく点滅している。何がスイッチになったのかは分からないが、地雷を踏んだのは間違いない。
「・・・ふぅん。お前・・・俺を、拒絶するつもり?」
 坂田の声は震えていた。・・・笑っている?
 初めは堪えていたんだろうが、じわじわと波は大きくなっていき、ついに坂田は声を上げて笑った。
「お前が、俺を?拒絶・・・?随分面白い冗談言うようになったじゃねぇか、なぁ・・・土方ァ」
 ダン、と組んでいた坂田の足が床を踏みつけた。
「それ本気?」
 ごくり、と響いた音は、己の喉から響いた。
「今なら冗談だ、っつうなら許してやってもいいんだぜ?・・・まぁそれ相応の代償は頂くけど」
「だい、しょうって・・・」
 漸く捻り出した声は思ったよりも掠れていた。
「ん?それは後でのお楽しみ。それで?」
「・・・ッ」
 坂田が立ち上がる。思わず身を引き警戒心を露にした俺を嘲笑うように、奴は飄々とした態度を崩さず隣に腰を下ろす。必然的に縮まったその距離に、緊張感が隠し切れない。
「お、れは、・・・間違ってない」
「・・・」
「冗談なんかじゃねぇ、俺は正し、」
「・・・俺さァ、馬鹿な奴は嫌いなんだよ」
 再び人の言葉を遮った坂田は、気の弱い者なら完全に怖気づいて頭を垂れそうなほどに鋭い視線をこちらに向けている。
「何度も何度も繰り返し説明したってぜんっぜん理解しねぇ奴なんか、特に。・・・お前さ、頭いいんだろ?何で分かんねぇんだよ。なぁ」
 この、男の威圧感は、・・・凄まじい。
 まるで本当に自分が悪いのではないかと、錯覚してしまいそうになる。
「俺もそんな、心が広いわけじゃねぇんだよ。どんなに馬鹿でも、こんだけ言われりゃ理解すると思ってたんだが、甘かったか?」 
 人を嘲笑し、見下すことが得意な男。
 そんな男の言葉や視線に惑わされ、ハッと不穏な気配に気付いて己の腕を見下ろしたときは既に遅かった。恨みさえ篭っているような強い力で、坂田に握り締められた手首をソファに押し付けられる。
「よォく、聞けよ・・・なぁ、もう一回、言ってやっから」
 耳元に触れるほど近寄ってきた奴の唇が、そう囁く。
「俺が、」
 必死になって坂田の手から逃れようと思っても、上から押しつけられる力に抗うのは難しかった。
「誘って、やってんだから」
 今逃げなければ、何としてでも、奴に負けたくないだの情けないなど言っている場合じゃない!
 足を振り上げようとしても、奴の足で押さえられて身動きが取れない。今や坂田は、完全に俺をソファに押し付けるようにして圧し掛かっている。
「嫌、とは」
 覗き込んでくる、その表情は無く、氷のように蔑んだ瞳で俺を射る。
 背中を流れる冷や汗、恐怖からか後悔からか、震える指先。抵抗する術も気力も奪われ、睨み付けることも忘れた俺を、坂田が見やる。
「言わせねェよ」
 ――刹那、視界が揺れた。
 殺意さえ滲ませているような歪んだ唇で、噛み付くようなキスを仕掛けてくる坂田。必死になって逃げていても、上から圧し掛かられたままではどうすることも出来ない。
「お前はもう俺のモンなんだから、・・・さ」 
 いいように弄ばれ、恥辱と怒りに歯を食い縛る。それでも乱れる呼吸がまるで坂田を受け入れているかのようで、悔しさを隠すように唇を噛んだ。だがそれすらも許されない俺は、噛み付くような坂田の乱暴なキスに翻弄され、踊らされる。
「好き勝手したって、構わねぇだろ?」
 それから、先は・・・思い出したくも、無かった。
 断片的にしか思い出せないのは、無意識に防衛本能が働いたんだろう・・・。
 あれから、坂田は、あらゆる方法で俺の自尊心を打ち砕いた。
 男になどまるで興味の無かった俺を変えてしまうように、すべてを教え込むように、執拗なまでに攻め入った。
 腕を縛り上げられ、足を押さえつけられ、自由を奪った上で強制的に浴びせられた快楽・・・しつこいくらいに陰湿な愛撫とも言えない手のひらの動き、思い出すだけでも、体が震えた。
 悔しくて、情けなくて、・・・何よりも体が痛くて、耐えられなかった。プライドなんかかなぐり捨てて痛いと泣き叫んでも、坂田は止めるどころか愉快そうに笑った。
 男の体に、男を受け入れる器官などない・・・それなのに、あの男は、体内で男を感じるという恐怖を俺に植え付けた。
 決して快楽など得ていないのに、気持ちいいんだろうと戯言を吐く男の首を締め上げる力も、・・・方法も、無かった。
 他人の精液に塗れるなんて、想像したこともなかった・・・ましてや、これまで生きてきた中で体験したことなどなかったし、これからも・・・ないと思っていた。
 ・・・まさか、己の肛内を指で弄ばれ、拡張され、望みもしない快楽を強引に与えられて性器をぶち込まれるなんざ・・・そういう趣味でもねぇ限り、想像なんかつかねぇだろ?
 一頻り泣き喚いて、許しを請う俺の頬を撫でる坂田の手から逃れられなかった。
 何もかも終えた後で強引に風呂場へ押し込まれ、体内に吐き出された汚ェ精液を指で掻き出される頃にはもう、抵抗する気なんざ浮かんでこなかった。何度水を浴びても、皮膚が擦れるほどに体を洗っても、落ちることの無い汚れを擦り付けられたようなんだ。 
 汚れちまった、体が、不快だ。
 ――ああ、きもち、わるい。



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