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蜃気楼セレッサ3


 頭を振って何とか意識を戻したとき、・・・俺の目の前には、今まで探していた泉が、あった。
「これ、か・・・!」
 輝く水、揺れる水面、・・・これが、探し求めていた泉・・・だったらこの近くに、あの花が!?
「坂田!」
 背後で土方の声が聞こえる。どうやら、あのとき致命傷を与えていたお陰ですぐにモンスターを倒せたらしい。俺に向かってくるモンスター目掛けて、炎の球を投げ付けていた。
「土方ァ!ここだ、これが泉だ!」
 魔法攻撃を直で受けたお陰でモンスターが怯んだお陰で、俺たちは何とか合流することが出来た。駆け寄ってきた土方に泉を指差せば、奴は驚いた表情を浮かべて、周囲を見渡し始めた。
「花、は・・・!?」
「それはまだ、」
 殺気を感じて、俺たちは弾かれたようにその場から飛び退く。同時に降り注いだ氷の塊は、地面を一瞬にしてスケート場にしてくれた。・・・何つうモン放り投げてきやがんだ、コイツ!
「土方、刀貸せ!アイツは俺が引き受けた、その間にお前は花を探せ!」
「お前・・・」
「いいから早くしろ!」
 急かすように怒鳴りつければ、土方は腰の刀を引き抜いて投げてきた。それを受け取って、俺はモンスター目掛けて突っ込んでいった。飛んでくる氷に触れないように、縫うように駆け抜け、その太い前足を薙ぐ。
 響き渡る悲鳴を無視し、踏み付けようと暴れる足をもう一度切り裂いて、隙だらけの腹をかっ捌く。纏わりつく冷気を振り切って、俺は下から上へ振り上げるようにして、その獣の顔を断ち切った。
「っ・・・!」
 顔に近付いた瞬間、奴の口ン中に残ってやがった氷が弾け飛び、破片が俺の腹を掠めていった。勢いの割には傷は浅そうなので助かったが・・・これで、もう大丈夫だろ。
「土方、見つかったか?」
「・・・坂田」
 手元に鞘が無いので、抜き身の刀を持ったまま土方に近寄る。アイツは地面に膝も手も付けて、ぼんやりと俺を見上げてきた。
「・・・どうしたんだ」
 何だよその顔・・・ただ事じゃねぇ、よな。
「咲いて、ねぇ・・・」
「え、」
「花が、・・・枯れちまってる」
 駆け寄った俺が見たのは、茶色く変色し、すっかり枯れちまっている一輪の、小さな花だった。
 マジ、かよ・・・。ここまで来て、やっと辿り着いたってのに・・・咲いてねぇって?
「で、でも、ジミーが言ってたじゃねぇか、咲いてるのは稀だって、条件があって咲くんだって、」
「だったらその条件って何だよ!人の想いを乗せるって、どういう意味だよ!」
「んなの、・・・俺だって知らねぇよ」
「じゃあ・・・ッ!・・・どうすりゃいいんだよ・・・」
 俯いた土方に、俺は書ける言葉も見つからなかった。
 確かに、言われた場所に泉はあった。神聖なる泉・・・これがどんな役割を持つか俺には分からねぇ。そしてそのほとりに、確かに花は存在した。・・・でも、咲いてなきゃ意味がねぇんだよ。そいつがねぇとさァ・・・。
 なァ、神様なんざ、俺は信じちゃいねぇよ。そんなもんがいるんだったら、とっくに世界は平和だろうさ。祈っても、縋っても、助けてもくれない存在を俺は頼ったりはしねぇ。・・・でも、今だけはアンタに願うよ。人の想いをさ、乗せて咲くんだろ?だったら俺のこの想いを背負って、咲いてくれよ。
 俺じゃなくてさ、土方が欲しがってんだ。コイツのために、さ。
 呆然としていた俺たちは、咄嗟に気付くことが出来なかった。背後で、未だ潜んでいたもう一体のモンスターの存在に。
 俺が気付いた時には遅かった。倒した他の奴らと同じくそいつは、鋭く尖った氷の飛礫をぶっ放してきた。
「!」
 俺が避ければ、土方がまともに食らっちまう。だが土方も連れて避ければ、この泉と・・・枯れたあの花が、犠牲になる。・・・どっちを取ればいい、どうすればいいんだ・・・、
 俺はその場から、動かなかった。土方も、花も散らせねぇためには、俺が盾になるしかねぇだろ?
「さ、かたァァァ!!」
 目の前を血飛沫が散った。・・・あー、これ、俺の血か。まともに氷の塊を食らっちまったせいで、身体が凍傷を起こしちまってる・・・腹が凍っちまって、ろくに動けもしねぇ・・・。
「な・・・何やってんだテメェ!ふざけんなよ、こんなッ・・・」
「こう、でも・・・しねェと・・・お前の大事なモン、守れねぇだろうが・・・」
「だからってこんな・・・ッ!」
 全身が氷付けになっちまったみてぇに、もう感覚も無かった。ヤベェな、・・・今度こそマジで、動けねぇや。
「・・・今は咲いてねェけど、さ・・・ソイツは咲くよ、・・・お前が信じてりゃ、・・・いつか」
 祈りとやらが、通じるのなら。あの花は咲いてくれるはずだ。ソイツを使えばお前は魔王が倒せるんだろ?そうしたら、お前の望んでいた世界が、・・・平和ってやつが、訪れるんだろ。・・・それで、いいじゃねぇか。
「だから、・・・お前だけで、・・・」
「・・・、ねぇ、よ」
「え・・・?」
「お前が生きてねぇと、意味がねぇんだよ!!」
 今にも泣き出しそうな顔をして、土方が叫んだ。
 ・・・なんて顔、してんだよ。んな顔されちまったら・・・勘違いすんだろ?
「この花が咲いても、それで魔王を倒せても、・・・それでもお前がいねぇんだったら、意味ねぇだろうが!お前が、いねぇと・・・!」
「・・・どういう、意味だよ」
 ぎり、と歯を食い縛りながら、土方は俺を睨み付けてくる。そして、まだ無事だった胸元を乱暴に掴み上げ、叫んだ。
「テメェがこんなところで死ぬようなタマかよ・・・!諦めてんじゃねぇよ、・・・生きて、戦えよ・・・俺と一緒に生きてろっつってんだよ!!」
 その時、だった。
 土方の背後で、枯れていた花が、眩い光に包まれた。
「なっ・・・!?」
 光は次第に泉を包み、やがてパンッと瞬く間に洞窟中に広がっていった。目の前にいる土方すらも見えない、真っ白な世界に覆われて、・・・俺は不思議と温かい何かに包まれている気がしていた。
 さっきまで感じていた痛みも、身体から徐々に消えていってる。・・・何だ、何が起こってるんだ?声を出そうにも、目の前に広がる白に塞がれてるような気がして出て来ねぇ。・・・どういうことなんだ、これは?
 そうして俺が混乱している間に白はどんどん収縮していき、現実が戻ってくる。スッと洞窟の壁が見え始め、土方の驚愕に満ちた顔が現れた頃、当たりは静寂に包まれていた。
「・・・な、んだ・・・?」
「今のは?」
 声が、出る。身体も痛くない。俺は倒れていた身体を起こす。あれだけ酷い氷に苛まれていた身体が、傷一つない綺麗な姿に戻っていた。・・・え、何だこれ・・・前にかけて貰った土方の治癒魔法よりももっと強力な力・・・。
 辺りを見渡せば、さっき俺を襲ってきていたモンスターの姿が無い。いや、それだけじゃねぇ、俺たちが倒しておいた他の三体の身体も無くなってやがる。それに、モンスターに荒らされた地面も、初めに見たときと同じ姿に戻っている。・・・これは、まさか・・・。
「坂田!」
 土方に呼ばれ、俺は振り返る。
 そこには・・・。
「花、が・・・咲いてる・・・」
 さっきまで枯れて、力の無かった花が、まるで生きてるみてぇに光り輝きながら、美しく咲き誇っていた。




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