質問
「それ、雲雀だぜ!」
放課中の教室に帰還。
殺気の篭った視線を浴びながらも、手を振ってくれた山本君の傍に行って、あの学ラン少年の事を聞いてみた。
そうしたら山本君は、驚いたようにそう答えてくれた。
「雲雀恭弥っつって、風紀委員長なんだ。あと不良のトップ」
「………」
風紀と不良って、対極にあると思うんだけど…。
ていうか、やっぱそんなすごい人だったんだ。生きて帰って来た自分にびっくりだ。
「鈴生、雲雀と仲良かったのか?」
「…いや、仲良くはないかな…よく分かんないけど」
「へー…じゃあ気に入られたんだな!」
「………」
謹んでご遠慮したい。
「ていうか鈴生、何処行ってたんだ?一時間目」
「えーと…応接室に」
「え…雲雀居ただろ?応接室は雲雀の場所だぜ」
「うん、まぁ…」
そこで周りのひそひそ話が大きくなった。大方言っている事は分かる。多分、私が雲雀さんにチクったんじゃないかとでも言ってるんだろう。
うん、チクってないけど。あの人知ってたよ、もう。
「そっか…仲良いんだな…」
「え、いやだから…仲良くないよ。前はなんか襲ってきたし」
「ははっ、雲雀は喧嘩っ早いからな。…でも今日は、怪我ねぇのな」
「今日は…『もっと強くなれ』って言われた」
「ん、そっか…」
そこで山本君は微妙な笑みを浮かべ、黙ってしまった。え、どうしたの。
聞こうとした時、山本君は頬を掻きながらこう言った。
「…鈴生は、さ」
「?」
「雲雀のこと、どう思ってんだ?」
「……え」
何、その質問。
きょとん、として山本君を見返せば、少し間が空いた後にやっぱ何でもねえ、なんて元気よく返ってきた。いや、何でもよくないよ。
だって聞いてる瞬間、山本君、笑ってなかった。
「…別に、何も思ってないけど?」
「………」
「寧ろ関わりたくないよ、あんなの。次殴られたら死んじゃうって」
「…ははっ、そっか。だよな!」
いつも通りの笑顔になって、わしゃわしゃと私の頭を撫でる山本君。ちょっ、ぼさぼさになるってば。
ていうか、どうしたんだろ、急に。
不思議に思ったけど、「あれ、なんか髪濡れてね?」と首を傾げる山本君をごまかすのに必死で、私は尋ねる事ができなかった。
「うっざいなあ」
そうやって誰かが小さく小さく呟いたのにも、気付く事はなかった。
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