無理






「…お、誰もいねぇみてぇだな」




屋上の扉を開けるなり、山本君は辺りを見ながら笑顔でそう言った。
……誰かがいちゃ、困る話?



「………あの、…話って?」

「…………」



私が早速話を切り出した途端、山本君の表情が曇った。気まずそうに視線を反らせて、沈黙する。





「…………あの、さ」

「………」




何だろう。
何で笹川を殴ったんだ?―――もしくは、本当に笹川を殴ったのか?そんな感じ、だろうか。
どちらにしても、私には「そんなの嘘だ」の一通りしか答え方がない。




「……なんか、言いづらいんだけど…」

「……うん」




その短い会話を挟んで、また沈黙。山本君は頬を掻きながら、こう、一言、




「無理、すんなよ」




………思わず、目を見開いてしまった。
私が予想していた言葉のどれとも違う、山本君の温かい言葉。



「………む、り、?」

「わ、悪ぃ!昨日会ったばっかの奴にこんな事言われたくねぇよな、」

「……なん、で?」

「え?」

「無理してるって……何で、」




わかったの?
最後まで言わずとも山本君は意味を汲み取ってくれて、「んー」なんて言いながら考え始めた。
………理由、無いの?



「何で……だろうな、わかんね!」

「…………」

「…でもよ、…瀬川さ、全部自分の中溜め込んでるって……なんかそう思ったんだよなー。理由とか無くて……直感的に」

「………、…信じてるの?」

「ん?」


「私が……京子に何もしてない、って、そう思うの?」



さっき、誰かから話を聞いた筈だ。―――なら何で、その事に触れないの?
私の言葉を聞いた山本君は一瞬目を瞬かせた後、少し険しい顔になって逆に聞いてきた。




「本当なのか?」

「……違うよ」

「え、じゃあいいじゃん」

「………、」



嘘なら、そんなの関係ねーだろ?
そう笑う山本君を、私は見つめる事しか出来ない。



「大体さ、瀬川がそんな事するような奴には見えねーし。ツナ達もその内分かってくれるって、気にすんなよ」

「…………」

「だからさ、そういうのも……全部一人で苦しまねぇで、もっと誰かに言ってもいいと思うぜ!」




その為に、ダチがいるんだろ?
少しごつごつした男の子の手で頭を撫でながら、山本君は優しくそう言った。
俺も、いてやっから、と。




「……………、」

「泣いてもいいぜ?」

「…泣かない」

「いいのか?顔、泣きそうだけど」

「違う。ゴミが目に入っただけ」

「ははっ、言い訳古ぃな!」

「……泣くなら一人で泣くから、大丈夫」

「……瀬川、話聞いてた?」

「聞いてたよ。でも泣き顔は気持ち悪いから見せたくない」

「そうか?見てみたいけどな、瀬川の泣き顔!」




山本君のさりげないS発言を受け流して、私は照れを隠すように俯いた。
………その時零れた雫と小さく呟いた「ありがとう」に、気付いてくれた、かな。







あきゅろす。
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