one
「俺はディーノっていうんだ、宜しくな!」
そう言って笑う美男さん、ディーノさんに連れられて来たのは、……寂れていて薄暗く、空気が澱んだ商店街だった。
「………ここ?」
「ああ」
「……いい仕事があるようには見えないんですけど」
「ん?ああ、まぁぱっと見はそうだけどな。入るとすげーんだぜ?」
また爽やかな、でも子供っぽい悪戯な笑顔でハハッと笑うディーノさんを見ると、どうも何も言えなくなってしまう。
「ここだぜ」
結局文句一つ言えないまま、私はディーノさんが指した店…シャッターの閉まった明らかに潰れているような店に入った。
………入ったけど。
中に人はいないし、電気すら点いてない。
「……中も……見た目通りだと思うんですけど」
「ははっ、地上じゃねーんだ」
そう言ってディーノさんがドア付近にあったレバーをがしゃん、と下げると、…ごごご…という鈍い音を立てながら、今までそこに在った筈の床が引っ込み、階段が現れた。
「(!!!!)」
「さ、こっちだ」
呆然としていた私の手を取り、ディーノさんはその階段をゆっくり下がって行った。
……確かに、なんか、ギャラが良さそうな仕事はありそうだけど。
明らかにいかがわしくないか、コレ。
「…あの」
「ん?」
「本当に、ナンパとか、売春とか…そんなんじゃないんですよね?」
「違うって!話聞いて嫌なら帰ってもいいし」
「…………」
……そこまで言うなら、と。黙ったままでいればディーノさんはそれを暗黙の了解と取り、私の手をぐいぐいと引っ張っていった。
「(……地下に、こんな建物…いつの間に…)」
ぱっと見た感じテレビ局のような廊下を暫く歩き、やがてディーノさんが足を止めた一つの扉の前で私も止まった。
「ここだぜ」
そう言って、ディーノさんが開けた扉の先には……―――
「っ、あっ……んあぁっ」
「ランボ、カメラ向け」
「む、理ぃっ…っこ、の…ドSモミアゲ…ああっ」
「泣きたいようだな、お望み通り鳴かせてやる」
「ひゃぁあっ!」
「(………え?)」
……それは紛れも無く、情事。
しかも、男同士、…?
「…っきゃぁあああっ!!!!」
思わず、叫んでしまった。
私の叫びに、情事中のお二人も、その二人をカメラに収めていた方も、そこらに散らばる方々も、そして椅子に座りながら二人の行為を高見の見物していた方々も、無論ディーノさんも私を見た。
「ディ…っディ、ディーノさんっ!!!」
「ど、どうかしたか?」
「どうもこうも!!!あ…っれ、何なんですか!!!あれは!!!!」
びしっと情事中のお二人を指差して言うと(勿論目を向けないように)、ディーノさんは一瞬きょとんとした後、
「AVの撮影」
あっけらかんと、そう言った。
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