レッツ生脱ぎ





「…………。」




唖然。
その言葉が、今の私にぴったりだと思う。



「こ、これ…」



姐さんに渡された服、着替えようとしてみれば何て事はない、よくありがちなメイド服だった。
メイド、服。



「…………」



目をごしごしごしと何回擦っても変わらない。丈は短いのに無駄に付いたフリルのせいで布が多い、秋葉原なんかで女の子が着てそうなメイド服。
……私に、これを、着ろと。



「…姐さん、これが今日の衣装とか言ってたよね」



つまり、私の役はメイドだという事だろうか。
……なんか、思ってたのと違う。いや、AVさえ抜けば一応は女優なんだから、演技とかもあるだろうけど。



「(でも私、なんにしても素人だし…説明とかも受けてないし)」



どうしろと。
フリフリの服を手に動揺する私に、ドアの外から声がかかった。



「みょうじなまえさーん、お時間でーす」

「うぇ!!?あ、は、はいっ、すぐ行きます!!」



知らない人(スタッフさんかな?)から名前を呼ばれ、思わず変な声が出てしまった。恥ずかしい。
でももっと恥ずかしいこの服を着て、私はこの部屋の外に出なければならない。



「…うう、でも行かなきゃ……」



遅刻したら、何されるか。
そう思ったら、自然と手は速着替えの為にてきぱきと動いていた。














「あらァ〜!!なまえちゃんよく似合うわ〜!」




スタジオに着いた私を迎えたのは、姐さんのそんな黄色い声だった。
うーん、それは褒め言葉なのかな。
私は恥ずかしくて死にそうだけど。



「そ、そうですか…」

「可愛いわよ!お持ち帰りしたいくらい!」

「(それはご遠慮します)」

「ふぅん。馬子にも衣装だね」




何だか失礼な言葉が聞こえて、私はキッとそちらを見た。そこにいたのは、さっきのショタコンっぽい恭弥って男の人。



「………」



……思わず、見惚れてしまった。
Yシャツを胸まではだけさせ、軽く腕捲くり。下は何だか高級そうな黒スーツ。素直に、かっこいい。
ていうか、えろい。




「んも〜恭弥くん、素直に『可愛い』ぐらい言ってあげなさいよ!」

「何で?なまえは僕のメイドなんでしょ。使用人に褒め言葉なんかかける必要はないね」

「………」



…あ、やっぱこの人のメイドなんだ、私。
そういう設定なんだ、私。




「(…ちょっ…、どうしよう緊張が半端ない…!)」


「もう、恭弥くんってば!それじゃあ…早速始めましょうか」

「え!?ちょ、ちょっと!」

「なあに?」

「その…私、どうすればいいか、全く分からないんですけど。演技の仕方とか…」




結構真剣に聞いたつもりだった。だったけど、姐さんは一瞬きょとんとした後、面白い物でも見るような顔で私を笑った。
あれ、真剣な話だよね?




「やーねぇ、貴女は演技なんかしなくていいの!ただ恭弥くんにされるが儘にしておけば!」

「え!!?そ、そんなんでいいんですか?」

「いーの!…そうねぇ、私からアドバイスするとしたら……」

「したら…?」

「もっとカラダに正直になりなさい」

「……はぁ?」



ますます分からない、と私が聞き返したけど、姐さんは怪しげに笑った後スタスタとカメラの横まで歩いて行ってしまった。
ええ?ちょっと、カラダに正直にって、何?




「そういう事だよ」



戸惑う私に更にすっぱりと追い討ちをかけたのは恭弥さん。私がムッと反論しようとする前に彼は口を開いて、その瞬間、
空気は、
変わった。





「じゃあ、始めようか」




ぞくり。
何だか寒気がして、というか身体が震えて、……どうしてだろう、一歩も動けない。
周りのスタッフ(超少人数)や姐さんまでも、なんとなく顔が怖い。



「こっちに、おいで」

「っ…」

「君はご主人様に逆らうの?」



いや、雰囲気が逆らえません。
私は仕方なく、というか空気に押されるように動かない歩き出す。



「そこで止まって」

「………」

「返事は?」

「っ…はい」



なんか、悔しい。
悔しさに唇を噛み締める私を満足げに見て、自分はゆったりと椅子に座っている恭弥さんは次にこう言った。





「脱いで」


「………え、」

「僕の目の前で、脱いでみせて」




え、せっかく着たのに。
いやそういう問題でなくて、……脱ぐって?服を?
人前で?




「そ、んな…」

「返事は『はい』」

「っ……」



本気だ。この人、マジだ。
勿論、全力で拒否したかった。でも、周りが「早く脱げよ」的なオーラ出してる。「この男には逆らうな」オーラ出してる。
私は小さな声ではい、と返事をすると、震える手でエプロンのリボンに手をかけた。しゅるり、とそれは簡単に解けて、肩を撫で下ろすと白いエプロンは床にぱさりと落ちた。その後少し躊躇って、ゆっくりとワンピースのボタンに手をかける。




「ボタンを五つ外して、ワンピースは脱ぐな。下着は両方外して」

「……、は…い」



要するに脱ぎかけのワンピースのみの状態になれ、と。
ボタンを外してしまえばワンピースは大きくはだけて、肌着を着ていない私は下着と素肌を曝す羽目になってしまった。でも、ブラジャーすら取らなければいけない。
誰でもなく、自分で。



「っ………」



じっと見つめてくる冷たい視線を感じて、身体は逆に熱くなる。そんな状況の中、私は仕方なくホックを外し、ブラジャーをするりと床に落とした。ふるり、と胸が震える。



「…可愛い胸」

「っ……」

「じゃあ下も、脱いでみせて」




さりげなく胸が小さい発言されたけど、私はなんとか堪えてショーツに手をかけた。かぼちゃパンツのような下着を膝まで下げて、片足ずつ脱ぐ。
こうなったらもう、ヤケだ。



「…脱げ、ました」

「ふうん。人前で服を脱ぐなんて…恥ずかしい子だね、君」

「っ……!」



お前がやらせたんだろ!という私の言葉は心の中だけで響いた。
でも実際、脱いだのは私。
そう考えると顔が赤くなって、下腹部にも熱が篭る。




「まぁ、いいや。じゃあ次は…そうだな、」




そう、人前での脱衣なんか、始まりでしかなかったのに。




「奉仕でもしてもらおうか」







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