結局こうなるのね
「どーいうことですかっ!!!」
あのオンボロ商店街のオンボロ家の地下に隠れる忌ま忌ましい場所に、バァアアン、と盛大に扉を開け叫びながら乗り込んだ私。今日は撮影はしてない、ただ椅子に笑顔のツナさんが腰掛けてて、その回りに居る銀髪と黒髪のおにーさん達が私を驚いて見てるだけ。
銀髪の人はどっちかと言うとメンチ切ってる感じだけど、私も引いてはいられない。
「これ!!!どういうつもりなんですか!?」
「どうって?別に、よく撮れてるから送っただけだけど。来いなんて言ってないし」
「うっ…て、ていうか何でアドレス知ってるんですか!!」
「撮影中に携帯抜き取って調べる事くらい簡単だよ」
「なっ…」
「でも多分なまえなら乗り込んできそうだったから、わざわざバイトのない日まで調べて一週間待ってあげたんだよ?感謝してほしいね」
「〜〜〜〜っ」
調べて、って。個人情報をそんな簡単に。
この大掛かりな地下基地…じゃないな、地下スタジオに加えて。
一体あんたら、何者ですか。
「〜〜っとにかく!消してください、それ!!あと録画したやつも!!!」
「嫌だよ。著作権の侵害はよくないよ?」
「私にだって肖像権がありますっ!」
「難しい言葉知ってるね、偉い偉い」
「…っ馬鹿にすんな!!!」
「あ、キレた」
完全に私をおちょくりながら、ツナさんは片手に携帯を、片手に多分私のはしたない姿が録画されているであろうディスクをちょろめかす。
めっさ腹が立つ。
立つけど、冷静にならないと。
「……調べたなら分かってると思いますけど、うちにお金なんかないですよ。脅したって無い袖は振れませんから」
「分かってるよ、新聞配達とドーナツ屋のバイトを頑張るくらいだもんね。別にお金なんて余る程あるし、君から巻き上げようなんて考えてないから」
死んでくれ。
そう言いたいくらい「余る程ある」に更に腹が立ったけど。
落ち着け落ち着け、間違っても乗せられるまま変な契約書にサインするような真似だけはしちゃいけないぞ、私。
「…じゃあ何の用ですか、今更。一回犯して処女奪っただけじゃまだ足りないんですか変態」
「テメェ十代目に何て口きいてんだ!!!」
「隼人、抑えて。いつかは隼人もこの子とヤるんだから」
「…………は?」
何だソレ。
まさか自分一人だけじゃなく、もっと複数で、…私を?
なんか、嫌な予感。
「…っ帰ります!!!」
「待ってよ、誰が帰っていいって言った?…コレ、ばらまかれたい?」
「………っ」
「俺はさ、ただなまえにAV女優になってほしいだけだよ?絶対悪い話じゃないって」
「あんなのをまた何回もやれって言うんですか!!」
「あんなに快んでた子の言う台詞?それ」
「……っ」
何も言えなくなる。
嫌だったとは言え、確かに私は感じてしまっていたんだから。
でも、喜んでいた訳じゃない。
「……あ、そうだ。これ、この間のギャラね」
「…え?」
突然ツナさんが思い出したようにそう言って、私の手を掴んで何かを掴ませた。…分厚い、封筒。
……中身を見て、愕然とする。
「……っ」
「びっくりした?そりゃそうだよねー、君が二週間働いてようやく貰えるようなお金だし」
「…こ、んなの…っ要りません!!」
「ねぇ、一回ヤっただけでそのお金だよ?もし女優になったら……きついバイトの日々からも解放されるんじゃないかな?」
「……私に、売春しろと?」
「そんなにタチ悪くないけど」
……否定は、しないんだ。
そりゃそうだ、お金の為にAV女優になるなんて、行為としては限りなく売春に近い。
「……そん、な…」
「いいよ、好きなだけ迷えば。でも俺には君の処女卒業を収めたディスクがあるって事…忘れないでね?」
「っ……」
「それとも…もう一回、ぐっちゃぐちゃにされたいのかな?」
耳元で囁かれて、身体がぴくん、と震えた。……何となく、身体が疼いてる、気が。
まさか私、期待してる?
「(違う違う!!絶対違う!!!)」
「…無言なのは、肯定ってことでいいのかな?」
「!ち、違っ…」
「いいよ、…この前は処女だから優しくしたけど……今日は痛い痛いハードなSMでもしよっか」
「やめとけよ、ツナ」
「!」
そこで会話に入ってきたのは、ツナさんの横に居た黒髪の……いかにも爽やかそうな、好青年さんだった。
……こんな人まで、AV撮ってんのか。
「…何、山本。邪魔しないでくれる?」
「そんなさ、無理矢理ばっかだと可哀相だろ!合意の上でやんないと俺らだって気分悪いし」
「別に。俺は好きだけど?嫌がる女の子をとことん調教すんの」
「とにかくハードSMなんか止めろって!な!」
「………」
……感激だ。
此処に来て初めて、こんなに優しくて紳士的な男の人を見たよ、私
「やっぱ最初はソフトSMだろ!」
「……………ん?」
待て待て待て。
……今感動してる私の耳に、何かとてつもなく嫌な言葉が…ていうかなんか気のせいだろうか、黒髪の好青年さんが私に迫ってる気が…
「…っ!!!!!ちょっ、待っ…こここ来ないで!!!」
「んーと、お前に拒否権ないからな!大丈夫大丈夫、初めは痛くて痛くて火傷や傷なんか当たり前で鞭の跡で身体が真っ赤になるような地獄だけどそのうち気持ちよくなっから!」
「(何処が大丈夫!!?)」
「あ、俺の事は『ご主人様』って呼んでな!俺の命令に一回逆らう毎に一回中出しだからなー」
「ちょ…っ本気!!?」
爽やかに言ってるけどこの人、言ってる事はツナさんより危ないんですけど。しかもじりじり迫ってきて、いつの間にか後ろは壁だし、両側に爽やかさんの手がつかれて逃げられないし、顔めっちゃ近いし。
……頭を、「中出し」の単語が過ぎる。
「んじゃ始めっか!…子作り」
「…っ分かりましたよ!AVでも何でも撮ればいいでしょ、勝手に!!!!だから止めて!!!」
………あれ。
逃げたい一心で思わず叫んでしまった、けど。
………私、何て言った?
「……そう、撮らせてくれるんだ。嬉しいよ」
「賭けは俺の勝ちだな、ツナ!」
「あー…『なまえが自分から女優になるって言う』だっけ。でも山本が無理矢理運んだ感じじゃん」
「ツナだって、『なまえはもう一度犯されて帰る』ようにしようとしてただろ?おあいこなのなー」
「俺は『犯されずに女優にもならずに逃げる』に賭けてたんスけどね…ていうか野球馬鹿!!!十代目の邪魔してんじゃねぇ!!!」
「……あの」
「ああなまえ、さっき女優になりますって言ったよね。言った事はちゃんと守ってね、ハイじゃあ契約書にサインして?ああ言っとくけど『言ってません』は無しだよ、証拠になるように録音しておいたから。何なら聴く?隼人、大音量で再生」
「はい!」
―カチッ―
『…っ分かりましたよ!AVでも何でも撮ればいいでしょ、勝手に!!!!』
―カチッ―
「以上っス」
「(『だから止めて』スルーされてるー!!!)」
「ね?はいじゃあサインして、しなかったらディスクと画像ばらまくし強制中出しするけど…どっちがいい?」
「………サインします」
……流されるまま、…どうやら私はAV女優になる…らしい、です。
「(ていうかもろ乗せられてんじゃん私の馬鹿ぁああ!!!)」
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