one
私の放課後のスケジュール。
まずは駅前のドーナツ屋さんでのバイト。チェーン店じゃないのにも関わらず大人気、比例して人手が足りない状態のお店。なのでかなり時給のいいその店で私は8時まで皿洗いとレジ打ちをし、余ったドーナツを3つばかし持ち帰る。スーパーで野菜と消費期限が近くて値引きされてる肉や魚を買って家に帰ったら、ドーナツと適当に作ったサラダと肉や魚料理を食べ、一応は高校生なのでその日の復習と明日の予習。何だかんだで就寝は夜の2時、朝は新聞配達のバイトの為に3時起き。それが終わればまた学校、ドーナツ屋……その繰り返し。つまり睡眠は1日1時間。そのせいでいつでも欠伸を連発し、つけられたあだ名は「あくびちゃん」。いつ倒れるか分からない状況の中、体は睡眠不足に慣れながらも欠伸だけは欠かさずに繰り返す。でも木曜日だけはドーナツ屋の定休日だから、その日は家に帰ったらすぐに寝る。
それが私の、週休1日制のスケジュール。
……だった、のに。
「(――…眠…)」
今日は木曜日、一週間に一日だけの私のお休みの日。私は欠伸を何回も繰り返しながら、ふらふらと街中を歩いていた。一人暮らしの私は誰かに「早く帰って来い」なんて言われないし、基本木曜日だけは何をしてても許される(と自分で勝手に決めてる)ので、今日はスーパーのタイムサービスが始まるまでの時間潰しをしていた。
まぁ正しく言えば父親は他界、母親は持病で入院中だから「何も言ってもらえない」のが正解だけど。
「(タイムサービスは5時からか……あと2時間もあるよ、どうしよう)」
このままふらふらしてても余計な体力を消費するだけだしな。そんな事を考えながら、私はふと、本屋の横に置かれた仕事情報誌に手を伸ばし、ぱらぱらと何ページかめくってみた。
「(……まぁ…今より待遇いいバイトなんか、中々ないよね…)」
店長もうちの事情を分かってくれていて、ドーナツもいつも多めに持ち帰らせてくれるし、従業員同士の仲もいいし、何より時給1100円は普通の高校生にとっては高すぎる収入になる。(実際は赤字続きだけど)
まぁ私にも辞める気なんかないし、…それよりお母さんの入院費、足りるかな。そっちの方が心配だ。そんな事を考えながら、私はその薄い冊子を棚に戻した。
―――その時だった。
「仕事、探してんのか?」
「……え?」
肩をぽん、と叩かれ、そう声をかけられた。……今の、明らかに私に向けて言ったよね。
不審に思いつつ、くるりと後ろを向けば、
「…………っ!!!!」
思わず、声に成らない悲鳴を上げた。
……だって、生まれてから15年、こんなにかっこいい男の人見た事ないから。
「ん?どした?」
「い、……え、別に」
貴方の顔が格好良すぎるんです、…なんて言えない。
私が首を振ると、その金髪の美男は「そうか?」なんてヘラッと笑ってからもう一度さっきの言葉を言った。
「なぁ、お前…仕事探してんのか?」
「…別に……」
「えーと…んじゃ、今から時間あるか?」
……新手のナンパか、詐欺か。
よくわからないけど、私にはこんな人(かっこいいけど!)と付き合ってる時間は無い。
そんな暇あれば働いてる。
「……私、忙しいんで。じゃ」
「あ、ちょっ!!なあなあ、話聞くだけでもいいからさ……あ、ナンパとかじゃねぇからな!な、頼むって!」
「…………」
爽やかな笑顔で、両手をぱしん、と合わせて頭を下げられて。
……なんでこんなに必死なのかは分からないけど、ここまでされて断ったら、なんか、あれだな。
……少しだけなら。
「……少しだけ、ですか?」
「ああ!時間は取らせねーぜ」
「……話だけ、なんですよね?」
「気に入らなきゃ断ればいいからさ!」
「……じゃあ…話だけ」
「っしゃ!」
ガッツポーズをとって喜ぶ金髪の美男さんを見て、喜んでもらえて嬉しいとは思ったけど、……睡眠時間を削ってしまった悲しみのせいか、大きな欠伸が一つ、零れた。
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