気紛れな温度


何だか仕様もなく、寒かった。
だから部屋の暖房を28℃に設定して、身体を欝陶しいくらい分厚い毛布で覆ったというのに。すると今度は暑かった。(なんだよ、寒いと思ったからあったかくしたのに)仕方なく毛布を投げ捨て、大きな伸びを一つしてみる。(……う、)だけど、やっぱり寒かった。なんなんだ、これは。


「……微妙な気温は嫌いだよ」


いたたまれなくなって呟いた独り言の後、がちゃ、バタンという何とも過激な音が響いた。最近反抗期の彼女だろう。おかえりー、と見えない妹に呼び掛けても返事は皆無。おいおい、シカト?(可愛くない奴、)普段はそれだけ思って終わるのだが、今日はなんとなく、愚かな妹にちょっかいをかけたくなってしまった。毛布をもう一度纏って、部屋に消えた少女の後を追う。がちゃりと閉じられた扉を開けば、即様皺を寄せてこちらを睨んできた。



「勝手に入ってくんなヨ」

「じゃあ鍵ぐらい閉めたら?一応男と二人屋根の下に住んでんだから」

「鍵はお前が破壊したんだろうが!」

「アリ?そうだっけ?」



ケラケラと笑えば妹は益々顔を怖くさせ、今度こそそっぽを向いてしまった。あらら。構ってもらえなくなってしまった俺は仕方なく、ベッドに座る彼女の隣に腰を下ろす。妹、無視。顔を寄せて間近でガン見する。妹、無視。(うわー、シカト決めやがったコイツ)ちょっと腹が立ったので、あからさまに邪魔をするとしよう。


「かぐらー、暇」

「じゃあ出てけ」


うわ、酷。言ったきりこちらを見ようともしない妹。さて、どうしたものか。(ここで出てったら負けじゃない?)うーん、と考える最中、ふと視界にちらりと入る彼女の白い首筋。大した考えもなく、まるで吸い寄せられるかのように、そこに口唇で触れてみた。伝わる彼女の体温、びくり、大袈裟な程反応する妹。(あ、面白いコレ)


「っ、ななッなに、何、するアルか!!」

「えー?だって神楽のうなじが『キスしてください』って」

「言う訳ねーだろ!!変態!出てけ!」


顔を真っ赤に染め上げて俺の身体を押す彼女は酷く可笑しくて、どうしよう、悪戯心に火が点いてしまった。(ばあか、お前が悪いんだ)だから毛布を捨てて、混乱している妹の肩を掴み、ぼふり、ベッドに押し付ける。ついでに彼女の上に跨がるまでにそう時間と力は要らなかった。(まだまだ弱いなあ)


「な、」

「ねえ、兄ちゃん暇なんだ。遊ぼ?」


そう言ったら妹は訳が分からないような顔をしたけど、俺が彼女の制服に手を掛けた途端その白い顔は赤いような青いような色になった。(そうそう、その顔好きだよ)馬鹿兄貴、止めろ!そう喚く妹が煩くて、仕様がないから喧しいその口を塞いでやった。


「む、ッ」


舌を絡めてやると抵抗が弱くなるのは知ってる。案の定落ち着く彼女の四肢、ほら、お前だって嫌じゃないんだろ?どうせお前も暇なんだし、兄ちゃんの気紛れな遊びに付き合ってよ。


「神楽、好きだよ」


今は、ネ。そう付け足せば妹は諦めたような顔をして、はあ、と大きな溜息をついた。いいよ、お前が俺を嫌いだろうが好きだろうが、抵抗しようが服従しようが何でもどうぞ。だって俺も所詮は気分屋だもん、もしかしたら明日はお前のことが嫌いかもしれないし。(でも、今は)


「…中は、出すなヨ」

「えー」

「えー、じゃない!!」




今は好きでいてあげるから、愛し合おうよ。










合図としてもう一度キスを交わすと、ほんのりと人体の温かさが伝わってきた。うん、あったかい。



(この温度は丁度よくて、すき。)


あきゅろす。
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