ばか



あたしは馬鹿だ。
何てったってあたしの恋した相手は、あのナイトオブセブンなんだから。



(はーあ…)



自分でも何て恋をしてしまったんだろう、って思う。相手は雲の上の上にいるようなラウンズで、だけどナンバーズ出身。前者の身分から言えば皆には無理だ無理だと言われ、後者から言えばだってあの人イレブンでしょう、と言われる。そう、イレブンでありラウンズ。でもあたしは好きになった。元々あたしはイレブンとかあまり区別しないし、身分とかも大して気にしない奴だ。だからこそ、周りの意見も目も無視してしまったのかもしれない。
でも相手はクラスも違うし、易々と話しかけられるような相手じゃない。だからこそあたしは今物凄く悩んでいる。そういえば溜息も随分多くなった。この場合、相談できる相手は一人しかいなかった。
あたしは腐れ縁の副会長の教室へ行った。言った。あなたの幼なじみに恋をしました、と。
諦めろ。
それがアイツの第一声。



「何よ酷い!頑張れとか言えないのかお前は!」

「言えないな。スザクは無理だ、諦めろ。アイツは今ゼロにご執心だ」

「……でも」



あたしは食い下がらない。そんなあたしを見て、ルルーシュは溜息をついて一言。
お前だから尚更だよ。



「……はあ?」

「俺からのアドバイスはそれだけだ、じゃあな」

「あ、あっ、ちょっ」



すたすたと去っていくルルーシュの背中に、ばかー!とあたしは怒声を浴びせた。こういう時だけ足が速いんだから。しかもアドバイスって、「諦めろ」だけじゃん。理由があたしだから無理って、そんなの。



「意味わかんないし……」



呟いて、近くにあった席に座る。他クラスの教室も、誰も居なければ中々落ち着くものだ。放課後の教室はオレンジ色に染まっていて、何だかどうしようもなく泣きたくなった。
そうしてあたしはまた溜息を、




「あの、」



ふと掛けられた声にあたしは肩を揺らした。ひっと小さく悲鳴を漏らした。当たり前でしょう、あたしの悩みのタネであるその御方があたしを見て首を傾げてるんですから。



「、……」

「…あの、どうかしました?他クラスの方…ですよね」



そりゃあ、不思議に思うだろうな。他クラスの生徒が誰もいない放課後に自分の教室にいたら。
怪訝そうな顔をする彼の前で、あたしは酷くパニクっていた。いや、でも待って。クラスに話しかけに行く勇気もないあたしにとって、これは大チャンスではなかろうか。チャンスだよ。周りには誰もいない、スザクさんもあたしを見ている。……ちょっといきなり過ぎるけど。
あたしはぐっと唇を閉じてから、意を決してもう一度口を開いた。



「あ、あの、枢木卿!」



そう言うと、彼は驚いたように目を見開かせた。あ、ちょっと大声過ぎたかな。あたしは小さな呼吸を数回繰り返してから、もう一度口を開いた。
けど。



「くる」
「あの、お名前は?」



……先に口を出されてしまった。
え、ていうか、え、?お名前は、って、あたしの名前?何で、そんなの聞くんですか。
でも聞かれてしまったのは仕様がないから、あたしは素直に答える。




「、なまえです…」

「……、そう」



スザクさんは一瞬だけ残念そうな顔をして、すぐ笑顔に切り替えた。嬉しいような哀しいような、そんな顔。
……そんな顔されると、何だか申し訳なくなってしまう。理由すら知らないのに。




「……ねえ、お願いがあるんだけど、いいかな」

「へっ、あ、はい!」



スザクさんからの突然の言葉に笑顔で答えると、彼はまたさっきの顔をして、こう一言。




「名前で、呼んでくれないかな」


「………え」

「スザク、って。駄目?」

「そ、そんな…えっと」



展開が急過ぎてついていけない。名前で呼べ?それってあたしとどうなりたい訳?何がしたいの?
そう考えると、ちょっと期待してしまう。
とりあえずあたしはこくこくと首を縦に振り、その美しい鳥の名を一言、呟いた。




「ス…スザク、」

「………」




彼はまた嬉しそうな、だけど何処となく寂しげな顔をする。あたしはそれにどう応えていいか解らない。だけど応える前に、先にスザクが口を開いた。




「……似てる…」

「は、」




ユフィ、とその唇が動いて、あたしは全てを察した。ああ、そうか。そうなんだ。あたしはテレビですらそのお姫様の姿を見た事がないけど。御声を聞いた事もないけど。
それでも彼の態度と表情が、彼からお姫様の存在は決して消える事がないんだ、と。



「もう一度…呼んで」

「………」

「スザク、って……」




彼が求めているのは、あたしじゃない。あたしの声だ。あたしの声であり、彼女の声であり、つまりは彼女なんだ。




「ねえ、もう一度、」

「……スザク、」

「………」



彼はぎゅうっとあたしを抱きしめた。抱きしめられたのはあたしだ。でも彼が抱きしめたのはあたしじゃない。
妙にあたたかいスザクの身体に体温を奪われたのかな、あたしのなにかがすぅっと冷えていったような気がした。




スザク。
それでも彼の希望の通り、あの娘の声で彼の名を呟くあたしは、ほんとうに馬鹿だ。




鹿鹿

馬鹿同士で
どうすればいいのよ。



あきゅろす。
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