そしてわたしはまた、
「にゃあ」
麦チョコの入ったビニール袋を片手に、あの廃墟への帰路を辿っていたある雨の日。
何処からか聞こえてきた弱々しい鳴き声に、私はついつい立ち止まってしまったの。
(……、)
木の下に置かれた小さな段ボールに入れられた小さなそれは、ふるふると身体を震わせてただ小さくちいさく縮こまっていた。…そういえば今日は、すごく寒い。真冬の雨の日に、いくら雨は避けれるといっても、あれじゃあ凍えてしまう。
私は少しも躊躇わず、そちらへ駆け寄った。
(、あ……)
……色々と思うことはあったけど、とりあえずこの子を屋根の下の温かい所へ連れて行かないといけない。私は巻いていたマフラーを震える身体にかけて、片手で段ボールを抱えて、もう一方の手で雨がかからないよう傘を持って、歩き出した。
「………で、何故俺のとこ?」
寝癖だらけの髪で私にそう聞いたボスは、大きな欠伸を一つした。もうお昼だけど、どうやら今し方起きたみたい。それでもボスは、私たちを部屋に迎えてくれた。温かい部屋に、仔猫の震えは段々と小さくなっていく。
「まずヘルシーランドだろ、普通。わざわざ遠い俺の家まで……」
「もう、行ったの。…でも、犬が駄目って」
「ああ、イヌだから…」
「…たぶん、犬は私のこと、嫌いだから」
「そんなこともないと思うけど。犬はツンが三割増しなツンデレだから」
「……つん…?」
「何でもない。で、俺に飼ってほしいと?」
「…うん」
もう、ボスしか頼れる人がいなかった。犬が駄目って言うなら駄目だろうし、私には他に知り合いもいないし。
「…駄目?」
「んー……既に俺ん家には猛獣並みの奴らが数人いるし……」
「………」
……やっぱり、ボスも駄目か。
私のことを受け入れてくれたボスならこの子も受け入れてくれるかも、なんて勝手に期待してたけど。ううん、ペットを飼う事はその子の命を預かるって事だから、そう易々と承諾してもらえるものじゃないんだし、仕方ない。
「にゃあ、」
静かになってしまった部屋に、さっきより幾分大きな鳴き声が響いた。大分元気を取り戻したみたい。よかった。本当に。
(……やっぱり、似てる)
うろ覚えだけど、似てる。
私が身体の数ヶ所と引き換えに助けたあの子。
……まるでまたあの子が命の危険に曝されているようで、どうしても、放っておけなかった。…なんて、勝手な感情。
「…ごめん、ボス。ありがと」
立ち上がって、また段ボールを抱えた。ボスが駄目って言うなら、仕方ない。この子も温まったみたいだから、お暇しなくちゃ。
「え、帰るの?」
「うん。飼い主、探さなくちゃ」
「見つかるの?」
「………」
黙り込む私を見てくつくつと笑うと、ボスはもう一つ欠伸をして、それからこう言った。
「いいよ、俺も飼い主探すの協力する。見つからなかったら母さんに頼んでうちで飼うよ、多分駄目とは言わないし」
「……、いいの?」
「ていうか俺駄目って言ってないし」
「………」
…そういえば、言ってなかった。
意表を突かれたように私が黙り込むと、ボスは可笑しそうに笑った。
「とりあえず飼い主見つかるまでは俺とクロームが飼い主ね、いい?」
「……うん」
ああ、やっぱり貴方は優しいのね。
捨てられた役立たずを、何にも言わずに受け入れてくれる。その行為が私たちをどれだけ救ってくれているか、なんて、きっと貴方は知らないんでしょう。
「……ボス、」
「ん?」
「…ありがとう」
「どういたしまして」
そう言って貴方はまた、太陽のように笑うんだ。
そしてわたしはまた、すくわれる。
救われる、巣くわれる。
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