女王とMと傍観者

最近俺の友達の様子が可笑しい、気がする。例えば俺が「よっツナ!おはよ!」なんて声をかけても、「………………………………ああ山本、おはよ」そんな妙に間の開いた返事を返してきたりする。これは多分俺を拒否してるとか俺を忘れてたとかじゃなく、声をかけられてからその声が誰の物か判断するまでに時間がかかったからだと思われる。つまりその分思考回路が麻痺し、…何て言うんだろう、心が疲れてるんじゃないだろうか。
ちなみにこの時、友達をここまで疲れさせている原因を俺は知らなかった、…………知らなくてよかったんだ、と今になってから思う。それは只の後悔にしか成らないけれど。





「最近どーしたんだ?顔色わりーぜ」

「……そう?…ああそうなのかな、やっぱストレスって身体にも何かしら影響を及ぼすもんなんだね。まあ身体が壊れる前に多分ストレスで倒れると思うから安心して、」

「いや安心できねーよ、それ」




何て言うか、今のツナはかなりやばい。顔色は常に悪いし、げっそりしていて何だか痩せたように思えなくもない。確かこの前一時間に何回溜息をつくか数えたら138回という記録をたたき出した、つまり彼は一分間に2回は溜息をついているのだ。「幸せが逃げてくぜ!」なんて止めた時も、「幸せ?……そんなのとっくに消え失せてるよ」と哀愁漂う笑みを見せられた。
一体どれだけ苦労してるんだ、コイツ。





「…まー、辛い事は忘れようぜ!な!それより今日英語小テストだな、ツナ勉強したか?」

「いや、どうせ俺寝て……………………………………………」

「…ん?どした?」





急に会話が途切れ、不思議に思いツナを見れば下駄箱を開けたまま停止している。視線は只、下駄箱の中に注ぎながら。





「…おい、ツナー?」

「……ごめん山本、ちょっと持ってて」

「え、あ、おう…ってツナ!?」





俺に鞄を渡すなり直ぐ、ツナは走り出した。多分このまま走れば100m8秒切れるんじゃないか、って位のスピードで。と思ったら今度は、……壁を物凄いスピードとパワーで勢いよく蹴った。ドガァアアアンと音を立てて崩れる壁。誰もが目を丸くし、尚且つ恐怖を湛えた顔でそれを見つめる。おいおい、そんなにストレス溜まってんのか?
そうかけようとした声が、崩れた壁から響いてくる声で、喉に引っ込んだ。








「ク、フフフ…お早うございます、愛しのボンゴレ」


「お早う。わざわざ学校までストーカーしに来るなんて律儀だね、さっさとスリッパ返せコラ」

「甘いですねボンゴレ、僕が学校だけで満足するとでも?ちゃんと君が目覚ましに叩き起こされた瞬間からここに来るまでの全てをビデオに収めてますよ」

「ああそうか、朝からずっと誰かにつけられてたけどそうかお前だったんだ、ふーん、殺す」

「お、おいツナ落ち着けって!」

「落ち着け?常日頃から監視・盗撮されて自慰のネタに使われた上24時間365日俺の事を考えて高確率で吐き気のするイタイ妄想に発展させられ、もっと言うと寝起きから洗顔に朝食、歯磨きに着替え、整髪全てをビデオに収められて更に上履き隠されてどう落ち着けと?」

「…………悪い」





つい謝罪の言葉が出てしまう。多分この場合俺は悪くない、寧ろ善意から言った言葉を覆されて怒ってもいい位なはずなのに。
ていうかこの南国頭、一体何をしてるんだ……いや答えは「ストーキング」の一言に限るけど。




「いや山本は悪くないよ、別に。悪いっていうか消えればいいのはこの頭逝ってるド変態な生ゴミだから」

「クフフフ…イくですか。君の口からその言葉が発せられると興奮しますね」

「オイ今脳内で俺がお前を犯してる妄想してんじゃねーぞ、考えるだけで胃の中の食物がバッキング」

「っは…ええそう…そこですボンゴレ、もっと僕の股間を荒々しく踏みにじって下さい!!!」

「わかった、お望み通りに無駄にでかい肉棒再起不能にしてやるよ」




ゴリュッ、と嫌な音がした。覗き込むと、ツナがいい笑顔で骸の股間部の、…妙に膨らんだ部分を足でぐりぐりしてる。ストーカーはと言えば息子を踏まれて苦しそうに―――いや確かに苦しそうなんだけど、荒い息ではあはあ言いながら何だかクフクフ笑ってる。余りの痛さに息が出来ないのだろうか、もしくは息子をぐりぐりと踏まれて興奮しているのか。多分前者10%、後者90%くらいだろう、……やばい、今いつか観たSMビデオの女王様と下僕男のシーンを思い出してしまった。
とりあえず何かリアクションを取らなくては、――俺はストーカーに被さっている壁の同色の布を見た。




「あー…骸ってこんな忍者みたいな真似してまでツナが見たいんだな!大好きなのな、」

「ん?ああ別にこの生ゴミが出来んのは隠れ身だけじゃないよ、この間なんか京子ちゃんの体で近づいてきていきなり股間握られた事もあったしね。これを大好きなんて甘っちょろい言葉で纏めてほしくないけど」

「その通りです!僕のボンゴレに対するこの崇高な愛をそのような幼稚な言葉で纏めないで頂きたい……そして踏み加減が甘いですボンゴレ!!!出来れば次からはハイヒールで踏んで下さゴファッ!!!!」

「分かった、次はヒール削って針みたいに尖らせたやつで踏んであげるよ」




それは「踏む」じゃなくて「刺す」だろう。いい加減この二人の会話にはついて行けない、行きたくない。ストーカー野郎のズボンについている先程まではなかった筈の染みを見ればツナに同情しない事もない、――でも今のツナの、今までに見た事がないような素晴らしいまでにいい笑顔を見ると、案外このドS女王様とド変態ストーカーっていいコンビだと思うけど。……そんな事を言うと女王様の逆鱗に触れそうなので、俺は傍観者のままでいようと思う。変態になんかなりたくないから。






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