ばあか、




身体中が、痛い。
昨日より和らいだけれどそれでも尚神経を走る鈍い痛みに、私は酷く大きなベットから出られないでいた。
外はあんなにも晴れてるのに。


「……ん、」


もう一回深い眠りにつこうとして眼を瞑った瞬間、枕元の機械が小さく振動を始めた。その無機質な音と動きに眉を潜めながらも仕方なく手を伸ばそうとして、止めた。


「(…どうせ、あの人)」


本能とも言える直感だろうか、画面なんて見なくても解ってしまった。確証は無いけれど確信はある。そう考えると、この呼び掛けに応えていいのか、酷く躊躇ってしまった。胸は恐怖に酷似した感情で一杯。
携帯はまだ震えている。


「………、」


出なかった際の処罰は何だろう。出てしまった暁には自分は何如なってしまうのだろう。
それでも哀しい事に教え込まれた手はゆっくりと動きを再開し、骨の軋む音が振動音と重なった時、機械は、動きを止めた。


「あ……」


やって、しまった。
そう後悔するより先に私を襲う不安と恐怖に過呼吸。汗が止まらなくて、どうしよう、なんて言い訳をしよう、そんな言葉がぐるぐると脳を廻る。
それでも軋む身体に堪え切れず、柔らかいベットに沈み込んだ。意識が闇に沈んで逝く。今のはきっと白昼夢。大丈夫、大丈夫。都合良く信じて、意識も何もかも全て放棄した。
それから本当に夢を見た。
指輪を命懸けで奪い合ったあの頃の夢。綺麗な炎、私を守ってくれた、あなた。



「クローム」



あまりにも懐かしい。あの時私は、一体何を思ったっけ。あなたを見て、一体何を、


「ねぇ、起きて」


夢の余韻か、そんな言葉では目が醒めなかった。だけど次の瞬間、腹部を襲った激しい痛みに、いやがおうでも脳は覚醒する。


「っあ゙…!」

「起きた?」

「ボ、ス…ぐっ…」

「ねぇ、何で出なかったの?電話」

「…あ…ッ…」


私の腹を思い切り踏み付けている人は、笑顔で、でもかなり機嫌を損ねているようで。大丈夫、昨日はこんなのよりもっと酷かった。その時の痛みがまだ身体に残っているから、あんまり大丈夫でもないけど。


「俺、クロームに用があったのに。何で出てくれなかったの?」

「ゔぁ゙っ…!ッねて、て…!」

「嘘吐き、俺ちゃんと視てたんだから」


ああ、いつからこの人は私を監視するようになったんだろう。いつから私は、この人の檻に入っていたんだろう。
いつから、あなたは。


「っぐぁ…ぼ、ス、や゙めてっ…」

「痛い?どれぐらい踏めばお前は自分の臓器をイメージ出来なくなるのかな」

「あ゙うっ…!」


もう幻覚の問題以前に、腹が潰れてしまいそうだった。これ以上力を入れられたら、私は死んでしまうだろう。
ボスはそれを分かってやっている。



「ボ、ス…」



どうして、こうなっちゃったんだろう。この人はこんな人間だった?違う、違うはず。だって私は、…わたしは、ボスを信じてる。信じて、る?
どう仕様もない哀しみと痛みが襲ってきて、私はただ、こう訊くしかなかった。



「ボス…わたしのこと、嫌いに、なった…?」



私が何かしてしまったのなら、命を懸けて償うから。だから。もう少し。
だけどボスは一瞬きょとんとして、それから声を上げて笑った。何を思ったのか突然足の力を抜き、咳込む私の耳元に唇を寄せ、こう、呟いた。











その言葉があんまり痛くて、頭が真っ白になって、でも目の前は真っ暗になって。今度こそ私は意識を放り投げた。
もう自分の臓器など、想像する余地もない。
自分達の愚かさに、
気付いてしまったから。



(わたしは本当にばかだ、)




最初から、
彼も自分も嘘吐きだったのに。



title/畜生


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