その他 幸せな夢でありますように[落乱/仙+久々] ※『さよなら、子守歌』の続きです。 「久々知兵助」 名前を呼ばれたと思って振り返った瞬間、視界が一層暗くなった。 次いで、背中に鈍痛。 仰向けに倒されたのだと気付いた時には、相手の顔が見えていた。 「…立花先輩」 腹の上に馬乗りされ、ちらちらと光る物を視界の隅で動かされる。 そんな緊迫した状況でも、頭の中は意外と冷静で、『流石、六年生』なんて悠長なことを考えていた。 「随分余裕だな。」 少し意外そうな声。見下すような笑顔が、冷たい。 「喜八郎が、好きか」 喜八郎。 その言葉だけ、妙に愛情が込もっているように聞こえて、少し反応が遅れた。 「…好きです」 「なら、お前は何ができる」 「え?」 「私に、殺されることとか」 ぐっ、と首に、先程の光る物を当てられる。 硬い。でも、冷たくはない。 「それは、無理です」 「何故?」 「…綾部が悲しむと思うから」 俺の言葉を受け止めてくれた以上、それなりに期待してもバチは当たらないだろう。 …その代わり、首に当たってるものが、より強くなったけど。 「じゃあ、私を殺すのはどうだ?」 ニヤリ、そんな表現が似つかわしい笑顔。 恐らく、立花先輩じゃなかったら『綺麗だ』なんて思えない。 「その方が、よっぽど無理ですよ」 「何故?」 「綾部が泣くからです」 六年生だから俺じゃ歯が立たない。とかじゃなくて、本当に。 「何でも喜八郎なんだな、お前は」 今度は声に出して、クスリ・と笑う。 「じゃあ、お前は何が出来る」 (死ぬか殺すか以外の選択肢は自分で考える領域なのか。) 「綾部を大切にすることです。俺には、それしか出来ません」 「…成程」 「だから、先輩」 「ん?」 「俺が綾部を大切に出来なくなったら、どうぞ」 (殺して下さい。出来れば、一思いに。) そう言って笑えば、立花先輩は俺の首に当てていた物から手を離し、 「なかなかだ。──合格」 「お前に託そう」 「え?」 「喜八郎と、私を」 「?」 (喜八郎を護れなくなったら、お前が私を) 「俺は、立花先輩を殺せませんよ?」 「え?」 「立花先輩は、きっとどんなになっても、綾部の大切な人ですから」 だから、できれば変わらないでいて下さい。 付け足した言葉に、立花先輩は… ─ムギュッ 「ひたたたたたたたっ!?」 「生意気め」 次に瞬きをしたときには、立花先輩も痛みも消えていた。 つねられた頬を撫でながら、体を起こす。 自分が今までお世話になっていた地面を省みると、 「……うそぉ…」 そこには、綺麗な蒔絵が施された櫛が、ちらちらと光っていた。 (この、最後の一曲は) (お前の幸せをうたう歌) 終? *** 子守歌シリーズ第2弾。 死ぬだの殺すだの物騒な仙母様(笑) 仙母様は、自分が愛するものに対して物凄く過保護だと思います。それこそ、本物の母親みたいに。 そんな仙様…いいですよね!(紫村だけだよ) あとはちょっとおまけです。 20081116 [*前へ][次へ#] |