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その他
タカ丸さんのずばり言うわよ![落乱/鬼編]





わずかな灯りだけがともる会計室。
自分が弾く算盤の音だけが響く。

一緒に帳簿の計算をしていた後輩達は全員規則正しい寝息を立てていた。
いつもは最後まで自分についてきてくれる田村さえも、昼間に野外授業があったためか机に突っ伏して眠ってしまった。

そんな体勢だと後々体が痛くなるだろうに。
健気な姿勢に、思わず笑んだ。

近くにあった毛布を掴み田村の肩に掛けると、同時に。





衣擦れの音。
毛布のものとは違う。






「…誰だ」


低く・殺気を含んで、扉の向こうの人物へ呼び掛ける。

すると、その人物は扉を開け………






「やー、やっぱりバレちゃったかぁ!」






…何とものん気な声を上げ、遠慮の欠片も無く部屋に入り込んできた。


「静かにせんかバカタレ!こいつらが起きたらどうする!」


出来るだけ小声で、出来るだけ厳しく能天気顔を叱り飛ばす。

その言葉で床に眠る下級生達に気付いたのか、わざとらしいくらいそろりそろりと歩み寄ってきた。


「…何の用だ、斎藤」

「あ、僕の名前知っててくれたの?」


嬉しいなぁ・と、にこにこと笑う。

田村から話は聞いていたが、まさかここまで危機感のない男だったとは……本当に、忍者に成る気があるのだろうか。




「…で、何の用だ」

「あ、あのね、」



能天気なにこにこ顔が、少しだけ キリッとなって、








「潮江くんて、三木ェ門くんのこと、好きなの?」

「なっ…!?」


予想以上にデカイ声が出て、慌てて両手で口を覆う。
目の前の斎藤は、キリッとした表情を変えることなく繰り返す。



「ね、好きなの?」

「誰がそんな…!」


誰にも話したことはない。
大体、色に溺れることは忍者として犯してはならないことのひとつ。
自分の為にも。また、田村の今後の成長の為にも、想いを伝えるつもりはない。

それなのに、この男は…




「そうなんだねぇ」



何が『そうなんだねぇ』だっ!
何を根拠にそんな…!



「潮江くんて、割と分かりやすいね」

「何だと!?」


聞き捨てならない言葉に、思わず立ち上がる。
近くで後輩達が寝ていることも忘れて、声を張り上げた。



「お前に!何が分かる!!」

「あのさ、」

「なんだ!」

「潮江くんが、三木ェ門くんに何も言わないつもりなら、僕にもチャンスはあるよね?」

「はっ…!?」

「僕が、もらっちゃうよ?」





『もらっちゃうよ』

その言葉に、脳天を強かに殴られたかのような、錯覚。
そして、強く拒絶を示す自分が居た。




「な、にを…」

「だって、そうでしょ?潮江くんに文句を言われる筋合いはないわけだし」

「貴様、は…忍者の三禁も知らんのか…!?」

「そんなの、関係無いよ」

「きさっ…!」

「溺れることと、大切にすることは、違うでしょ?」



何も、言えなかった。

当たってると認めたくはなかったが、間違っているとも、思えなかった。




「まぁ、大切にするやり方は人それぞれだと思うけど…潮江くん」

「……なんだ」

「たぶん、君にそのやり方は似合わないよ」



斎藤は、そこまで言うとまた先程の能天気顔に戻った。




「あ、言っとくけどさっきのは本気で言ったわけじゃないからね?」

「は…?」

「でも、頑張らないと、本当にいつか取られちゃうよ」



『じゃあ、おやすみ〜』という言葉を最後にして、斎藤はそそくさと会計室を後にした。




残されたのは、俺と眠ってしまった後輩とやりかけの帳簿。



「……ちっ」




小さく舌打ちをして、俺は再び筆を取り・帳簿の前に座り直した。














「………あんな怖い顔するとは思わなかったなぁ…」

ひとつ大きく身震いをして、色素の薄い髪を揺らす影は四年長屋に消えていった。










***


これにて、タカ丸シリーズ完結です!


モンジはすぐ顔に出るタイプだと思います。だから、ミキティのことは仙様辺りにはバレてると思います(笑)

これにて、タカ丸は四年生と付き合ってる(一部例外)人にぐっさりと釘をさしました!

ここまでお付き合い下さってありがとうございました!


20081116

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あきゅろす。
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