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制限されると余計やりたくなる/万事屋



 小さい頃、家の冷蔵庫にはいつもコロナミンCが常備してあった。父が仕事帰りに飲むために買ってあるのだ。
 しかし時折兄がそれを飲んでいるのを知っていた。
 私も飲みたいとせがんでも「子供が飲むもんじゃない」と言って瓶を渡してはくれなかった。自分だって子供のくせに。全く理不尽である。


☆★☆★


「何それ?」
 夕食後神楽がコロナミンCの瓶を開けていると、風呂から上がってきた銀時に早速見つかった。特に隠していた訳でもないので説明してやる。
「商店街のポイントと交換してゲットしたアル!」
 気が向いたので新八の買い物に付いて行ったのだ。するとスーパーでポイントの引き替えが行われていた。新八が言うにはどうやら定期的な行事らしい。
 商品リストを覗けばポイント数に応じて意外に豪華である。その中にコロナミンCが入っていた。
『え? 本当にコレで良いの、神楽ちゃん』
『コレがいいアル!』
 ウキウキしながら引き換え所に列び、手に入れたのだった。
「ふ〜ん……」
 首にかけたタオルで頭を拭きながら銀時はUターンして台所に向かう。食器を洗っている新八を尻目に冷蔵庫を開けた。
「…………………………………………………あのぉ、新八くぅん?」
「何ですかー?」
 忙しく手を動かしたまま、新八は首だけで振り向いた。おかしいなぁと呟きながら、銀時は冷蔵庫のドア越しにそんな新八を伺い見る。
「俺のいちご牛乳が見当たらないんだけど」
「ああ、買いませんでした」
 何だそんなことかと既に新八の意識は銀時に無い。しかし当然銀時はそうは行かなかった。
「は!? ちょっ……お前……はぁっ!!?」
 荒々しく冷蔵庫を閉める。
「いやいやいやいや、意味が分ら〜ん。ていうか、いちご牛乳は常に切らすなって言ってんだろーが!! それを何?え?買ってないってお前、いやいやいやいや」
「うるさいですよ銀さん」
「新八さぁ、お前何なの?神楽にはコロナミンC買ってやってんのに、何でいちご牛乳買わねーんだよ!」
「買ってませんよ。あれはポイントで…」
「じゃあいちご牛乳に換えて来いや!!」
「いちご牛乳は引き換え対象商品じゃないですから無理です」
 新八は洗い終えた皿を拭き始める。一顧だにしない態度に銀時はまだ湿ったくせ毛を掻き回した。
「あ〜〜も〜〜、いちご牛乳いちご牛乳いちご牛乳いちご牛乳」
 片付ける手を止め、新八は溜め息を吐く。元はと言えば一向に働かない銀時が悪いのだ。責められる覚えは無い。
「…分かりましたよ。今はこれで我慢して下さい」
 そう言って差し出された物を見て銀時は絶句した。
「……いや、ぱっつぁん…これ………砂糖じゃね?」
「そうですよ?甘いでしょ?」
「いや甘いけど」
 砂糖の入った容器を持たされ、最早言葉もない。
 糖尿間近の自分がこの量を摂ればどうなるかなど一目瞭然だ。
「どうしたんですか銀さん、食べないんですか?」
 目の前でにっこり微笑む新八だが、その背後に鬼が見える。妙と姉弟なのだと実感するのはこんな時だ。
「すいませんでした…」
 砂糖を元の場所にしまった新八は今日はこれで帰るからと銀時に断って台所を出ていく。一人取り残された銀時はぶるりと顫える肩を抱いた。冷え冷えとするのは湯冷めの為だと思いたい。
「ちょっと神楽ちゃん、何本飲んでんの!」
「6本」
「毎日1本ずつだって言ったじゃないか。駄目だよ一気にこんなに飲んじゃ」
 こうやって神楽には細々と世話を焼くくせに、それが銀時になればどうだ。
「早く頭乾かしたらどうですか?」
 冷たい。
「じゃあ神楽ちゃん僕帰るから」
「ん」
 7本目に伸びた手を叩き新八は瓶をしまい、なんとそのまま万事屋を出て行った。
 銀時への挨拶は無しである。
「…え〜…」

退却だ!

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あきゅろす。
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