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オッサンの自慢話しは総じて長い/真選組



「土方さんはこれ着て下せぇ」
 沖田が差し出した鎧甲冑に、土方は眉を寄せた。
 松平の命令でコスプレでの市中見廻りをするハメになった真選組。土方は突っ撥ねたかったが例によって近藤が面白がったのだ。
「ちょっと待て、何で俺がコレなんだよ。もっと身軽なのあんだろ」
 陣羽織に兜。刀を差せるのは有難いが、これは無い。
「駄目ですぜぃ、我が儘言っちゃぁ。一人一人決まってるみたいでさぁ」
 因みに沖田が着ているのは赤い軍服。白いブーツが良く映えていた。
「土方さんにってとっつぁんから馬も届いてやすぜぃ」
 言われて庭を覗けば各々扮装した隊士達に囲まれて黒毛の馬が一頭。
「……おい、総吾……」
 手綱の代りにハンドル、そして何故かマフラーの付いた馬が土方を見てふんと鼻を鳴らした。


★☆


 兜が重い。腰の刀が重い。更には設定だからと右目に眼帯を付けられ視界が欠けているのも気に入らなかった。
「似合うじゃないか、トシ」
「どうも…」
 ここで近藤に「アンタも似合ってるぜ」とは言えなかった。何せ近藤は――
「あれ、近藤さん。衣装行きませんでしたかぃ?ゴリラの着ぐるみ」
「いや総吾君、着てるからね。ちゃんと着てるから」
「駄目ですよ近藤さん。局長がそんなんじゃぁ下に示しが付きませんぜぃ」
「着てるから!俺いつもと違うよね!?」
 顔だけ出すタイプの着ぐるみ姿の近藤は既に涙目だ。
 ブツブツ文句を言う土方の横で沖田は設定書を取り出す。
「喋り方にも指令があるみたいですぜぃ?え〜っと、近藤さんは全部『ウホ!』、土方さんはルー語って書いてまさぁ」
「何だそりゃ」
「ウホッ、ウホウホウホホ?」
「いや…済まねぇ近藤さん。何言ってんのか分かんねぇよ」
 ルー語は半分英語を混ぜて喋るのだと言われ益々意味が分からない。第一英語何て喋れない。
「まぁ『Let's Party!』と『Coolに行こうぜ』って言っときゃ間違いねぇでしょう」
 だから、何だそりゃ。


☆★


 江戸の街に突如現れた異様な集団に、市民達は戦いた。遠巻きに眺め目を合わせないようにと顔を背ける。
「…つーか、こんなに目立ってちゃぁ、取り締まりの意味もねぇな」
 馬に揺られながらぼやいた。弦月の前立ては予想以上に土方を振り回す。
「アンタって人はー!! 駄目ですぜぃ、ちゃんとルー語で言わなきゃ」
 馬の鼻先から沖田が振り返る。その横で近藤が「ウホウホ、ウホ!」と(恐らくそうだぞ、と言いたいのだろう。だから分かんねぇよ!)言うのに顔を覆った。
 全く、威厳もクソも無い。
「あれ何アルか?」
 その声に一同ハッとする。道の先に知った顔が立っていた。
「あぁ。ただの変態コスプレ集団だよ。真似しちゃダメだよ」
「あんな恥ずかしい事する訳ないアル。舐めんなヨ、ぱっつぁん」
「あはは。ほらもう行くよ。あんまり見てると変態が感染するからね」
「マジでか!」
 ゴリラが居たね、奉行所に訴えて射殺してもらわないとねなどと言いながら2人は去って行った。
「…………………」
 視線が痛い。
 自分達だって好きでやっている訳ではないのだ。それもこれも全て松平が……。
「いょう、やぁってるなお前ら」
 一行の横手にリムジンが停車した。そこから現れた声に振り向けば、鎧を纏い真っ赤な外套を翻した松平が車から降りてくるところだった。
「とっつぁんのは何のコスプレなんですかぃ?」
「見りゃ分かんだろぉ?織田信長よ」
 サングラスを外し付け髭を付け刺のある額当てをした松平は実に満足気だ。
「天下布武」
 要するに自分がやりたかっただけなのだ。あちこちで嘆息が聞こえる。
「おら、行くぞお前らぁぁあ!!」
 この日の夜のニュースで、真選組の奇行が報道され評判が更に落ちたのは言うまでもない。

退却だ!突撃!

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あきゅろす。
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