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栄養バランスは大事/土+志村


 戻らない近藤に志村邸だろうと当たりをつけて赴けば、何をしているのか、志村妙が門前で佇んでいた。
 土方は首を傾げながら近付く。どちらにしろ近藤の事を聞かねばならない。

「どうかしたのか?」

 声をかけると妙はひくりと肩を揺らした。向けられた妙の顔は、涙に濡れていた。

「………どうした?」

 尋ねてもちょっと…、と妙は言葉を濁す。

「ゴリラなら昼前には始末しましたけど」

 そう言った妙はギュッと瞼を閉じたまま。しかし涙は次から次へと溢れ出る。
 土方は困惑した。どうしたら良いのか判らない。しかし捨て置く分けにも行かず、煩悶の末に「大丈夫だ」と何が大丈夫なのか自分でも分からないまま、妙をそっと腕の中に収めた。
 あやすように背中を叩けば煙草臭い…と呟きが聞こえる。
 うるせぇなと返して黄昏を見上げた。飛んでいる烏を無言のまま数えていると、突然音を立てて門が開いた。

「姉上〜、終わりましたよ……って…………」

 バッチリ新八と目が合った。すっ…、と表情を無くした新八に土方は慌てる。妙を離そうとするものの、隊服をがっちり掴んで離れようとしない。

「……お2人はいつからそういう関係なんですか?」

 新八の声が低い。土方が焦れば焦る程眉間の皺が深くなっていく。

「違うの新ちゃん」

 土方の胸の中で言う姉に何が違うのか説明してみろと言わんばかりの弟は、一先ず2人を門の中に引き入れる。その際全く動かない妙を腕に抱き抱えて入った土方は、新八から更に冷たい目を向けられてしまった。
 邸の中に入るとツン…、と鼻の奥が痛む。何だ?と見回していると玉葱を切っていたのだと新八が答えた。

「は!? 玉葱?」

「新ちゃん、まだ匂いが残ってるじゃない〜」

 妙は土方にしがみ付いたまま文句を言う。「え〜、そうですか?」と言う新八の目も僅かにうるんでいた。

「ちょっと待て。じゃあお前、玉葱のせいで泣いてたのか?」

 居間に妙を下ろすと肯定が返ってくる。
 何だよ、と土方は頭を掻き毟った。

「女性が泣いていれば、誰でも抱き締めてあやすんですか?土方さん、格好良いですね」

 茶を差し出す新八の目が怖い。姉にいい加減離れろと言えば、まだ痛いからと拒否されたのだ。自他共に認めるシスコンとしては、今の状況は腹が立つ。
 しかしいつまでも土方を睨み続ける分けにもいかず、新八は夕飯を食べて行くように言って調理に戻った。
 取り残された土方は、自分の胸に顔を埋めたまま不自然な体勢で座る妙に声をかけて引き剥がそうとするが、妙は逆に、あぐらをかいた土方の足の間に腰を下ろして再びしがみ付いてきた。

「おいっ」

「うるせぇ、座椅子は黙ってろ」

 どうしろと言うのか。困り果てながらも逃げ出せず、土方は茶を啜った。
 暫くすると良い匂いがここまで漂ってくる。玉葱の匂いもすっかり消えた筈だが妙は動かない。土方がその重みに慣れた頃、新八が3人分の食事を運んで来た。

「…………」

「……あ……いや、その……」

 出て行く前以上の密着具合に表情を消した新八にどう返して良いのか分からない。
 溜め息を吐いて、新八は食卓に料理を並べた。

「姉上、いい加減にして下さい。土方さん困ってるじゃないですか。ほら、ご飯にしますよ」

 メニューはコロッケだった。一皿に2つずつ。千切キャベツとトマトが添えられていた。

「凄ぇなお前、こんなの出来るのか」

 感心する土方に、まだ座椅子上の妙は得意気だ。

「――あぁすいません、土方さんは犬の餌スペシャルでしたね」

 薄ら笑いを浮かべ、新八はボトルを握り潰してマヨネーズを投下した。
 土方は慌てて妙を膝から下ろす。

「…こちらこそすいません」

 土方に他に何が言えようか。

退却だ!突撃!

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