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偶然なんて存在しない/土+妙


「土方さん」

 その黒い姿を見つけ、妙は満面の笑顔で声をかけた。


☆☆☆☆☆☆


 何が入っているんだと訊けばいろいろです、と返ってきたクソ重たい袋×2を志村邸の玄関に置いた土方は、謎の荷物が食い込んだ腕を摩った。

「ありがとうございました。本当に良かったわ、土方さんに会えて」

 お礼にお茶でも、と誘う妙に、虚脱していた土方は顔を上げた。

「あー――……、いや、折角だが……」

 疲れた身には魅力的なお誘いだったが仕事が残っていたし、何よりあまり妙と関わって近藤の怨みを買うつもりは無い。
 しかし妙は遠慮せずに、と土方の腕を引く。
 要するにこの荷物を奥まで運べと言う事か。土方はげんなりと溜め息を零した。

「……何処に運べば良いんだ?」

 妙は再び袋を持とうとする土方を止めた。

「帰って来たら新ちゃんに運ばせますから。さ、どうぞ」

 奥へ導く妙に土方は目を瞬かせた。本当にお茶に誘ってくれているようだ。
 近藤の事を思えば流石にどうかと思ったものの、もう家に上がってしまったし腕も痛い。結局、まぁ良いかで済ませて妙に続いた。
 客間に通され麦茶と煎餅を振る舞われる。

「あのゴリラ、さっさとどうにかして頂けませんか?」

 向かいで妙が微笑む。仏のような微笑みだった。会ったが最後、もう戻れない冥府の仏だ。土方は麦茶に口をつけた。

「…手段が間違ってるのは詫びる。でも少し考えてみちゃぁもらえないか。もし近藤さんが普通にあんたに告白したら、どうだ?」

 土方に言われ、妙はうーんと考える。

「無理です」

「早ぇよ」

「だって無理なものは無理です。結局ゴリラですし。私、顎にケツ毛の生えた人好きじゃないんです」

 そのケツかち割ってやりたくなるわと妙は笑う。
 その後も2人はたわいない話を続けた。キャバクラ勤めをしているだけあって妙は聞き上手で、土方は隊内の愚痴から果てはどんな映画で感動したかまで吐き出した。妙もストーカー被害の訴えから始まって弟の事や道場の事、客から仕入れた面白い話をした。
 双方スッキリしてきたところで玄関からただいまぁと声がする。

「あ、やっぱり土方さん。いらっしゃい。……もしかして玄関のアレ、土方さんが?」

 顔を出した新八に土方は慌てた。

「今何時だ!?」

 客間に時計は無い。外を見ればすっかり暗くなっていた。
 新八が7時過ぎだと答えると、さっと蒼くなる。
 妙に声をかけられたのが夕方だったからかなりの時間ここに居た事になる。

「長々と済まなかった。じゃあ俺はこれで」

 帰ったら総吾に何を言われるか分かったもんじゃない。

「ごめんなさい、私もつい…」

 見送りに来た妙が済まなそうに眉を下げる。大丈夫だからと頭を撫でて土方は志村邸を後にした。
 屯所に戻ると案の定総吾がつっかかって来る。

「随分遅いお帰りですねぃ、土方さん。仕事さぼって何処で何やってたんですかぃ?」

 言える訳がない。総吾に話す=屯所中に自ら触れ回るのと同じだ。


☆☆☆☆☆☆☆


 あの日の事は、昼寝をしたら寝過ごしたという事にした。近藤からも軽い注意を受けただけで済んだ。
 今日は外へは出ずにひたすら書類仕事だ。
 攘夷志士の情報など、山崎からの相変わらずの作文報告書に目を通していた土方は、その1枚を見て絶句した。

『〇月▲日(晴)
 いつも局長が迷惑をかけているからと口実を儲け、菓子折り持って志村邸に潜入。―中略―縁側に鎮座したガトリング砲に、こんな所にまで天人の技術が―以下略―』

 どっと汗が噴き出して来る。
 まさか部品?自分で組み立てたのか!? いや、と首を振る。素人に出来るものではない。
 しかしあの女なら…という気もして、土方は一人頭を抱えた。


退却だ!突撃!

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あきゅろす。
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