◇Passing
3
3.
「悪い」
ドアを開けるとベッドの脇に雪也が座り込んでいた。
「どうした?」
いつもなら勝手に見つけて勝手にセットして勝手に観始めているのが、その様子もない。
近寄ってその手元にある物が見え、血の気が引いた。
「ばっ…!」
咄嗟に雪也の顔を押さえ、それを奪う。
先程開けてそのままにしていた、あのDVDのケース。
雪也が固まっている隙にデッキからディスクを取り出し、ケースと一緒に元の袋に押し込んでゴミ箱に放り込む。
動揺しながらも、うっかり本編を再生されるよりはマシだったかと考える。
「ゆき、忘れろ」
このショックの受け様。
パッケージもあからさま過ぎた。
時に創りものは現実よりエグい。
「借りたやつ観るんだろ」
何事も無かった様に一人でDVDをセットしなおす。
雪也は見た目のイメージに反してアクション映画が好きだ。
「ほら、始まっぞ」
「…………貴仁も…ああいうの、観るんだね…」
上手くごまかせるかと思ったが思いの他ショックは大きかったらしい。
未だ抜け出せないようで放心状態でいる。
「観ねぇよ。あれは麗華が…」
「っ別に嫌とかじゃなくて!」
突然服を掴まれて少し驚く。
振り向くと何故か必死な様子で雪也がじっと見つめていた。
嫌かどうかと言えば雪也の場合確実に嫌がりそうだが、とりあえず合わせておく。
「……あぁ」
「…当たり前だと思うし…貴仁はバイだって…みんな言ってるし……」
「……バイじゃねぇ。……みんなって誰だ」
言い募る雪也が少し意外だった。
同時にこいつは変な誤解をしそうな気がする。
「…だけど…でも…女の人だけだと思ってて……」
雲行きが怪しい。
「……お前、人の話聞いてんのか」
「聞いてる……」
「ねえだろ」
泣きそうに不安そうに見つめる双眸。
馬鹿だと思う。
「……ゆき」
「…か……可愛い……よね…プロの方が……」
しゅんとなって俯く。
「……馬鹿」
勝手に思い込んで勝手に落ち込んでいる。
一辺見せてやろうかと思ったが、どうせまたいらぬショックを受けるだけだろうからやめた。
顔を上げさせて、その唇にキスする。
「…っ…」
少し潤んだ瞳が不安げに揺れていた。
AVなんて女こそ顔や胸を作ってその辺の女より美人に見える事はあるが、アイドル事務所でもあるまいしその気がなくて見れる男などそういない。
それがこれだけ整った人形のような顔をしているのだから少しは思い上がってもおかしくはないと思うが、いくら女に告られようと痴漢に遭おうと雪也にとってそんな事は関係がない様だった。
「…っ……ふ……っ」
本能のまま口腔を深く犯すと、唇の隙間で雪也が小さく喘ぐ。
耳を擽るその声が好きだった。
「っ…た…ひと……っ」
そのままベッドに押し倒した。
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