◇Passing
2
2.
「…………」
問題のシーンは完全消音にして、飛ばし飛ばし一通り見終わったものの、言葉が出ない。
確かに内容は普通のAVと比べれば薄いというか見方によっては健全とも取れるが、やはり男同士と言うのはないだろうと胸の中で呟いて、テレビを消して部屋を出た。
階下へ降りると麗華は暢気に夕飯の支度をしていた。
テーブルに着いて額を抑える。
毒気に中てられた気分だった。
「雪也くんそろそろ来るでしょう。迎えに行ってあげたら?」
「…勝手に来るだろ」
「機嫌悪いわね。寝てた?」
「………寝てねぇよ」
誰のせいだと言いたいのを堪える。
丁度玄関のチャイムが鳴り、僅かに顔を上げた。
「こんばんは」
ドアの開く音がして、もう数えきれない程来ている家だというのに、礼儀正しく挨拶する声が聞こえる。
麗華がコンロの火を止め廊下に顔を出した。
「いらっしゃい。雪也くん久しぶりね〜」
「麗華ちゃん来てたんだ」
「ただいまー!」
二人にもう一つ声が加わって玄関が急に騒がしくなる。
「あら、加奈ちゃんもおかえり!」
「麗華ちゃんただいまー!ゆっくんおかえり!今日泊まるの?」
「うん」
話しながら歩いて来る二人の会話が聞こえる。
「ほんと?!じゃあゲームしよ?明日休みだし!」
「ん、いいよ」
「やった!お兄ちゃん全然相手してくれないんだよー」
「はーいゲームの前にご飯ご飯!貴仁、お皿出して」
「今日のご飯なにー?もぉ、すごいお腹空いたー」
「部活大変なの?」
「来週試合ぃ」
腹を空かせた雛鳥よろしく喚く加奈子を麗華があやすのを背中で聞いて、一人皿を取り出していると横から手が伸びた。
「手伝うよ」
ちらりと一瞥すると雪也が少し首を傾げて見上げていて、その様に荒んでいた心が僅かに潤う。
上目になるのは身長差で仕方がないが雪也以外の男にされたら鳥肌が立つだろうと思う。
「……寝てた?」
「……」
不思議そうに見上げていた雪也がぽつりと尋ね、背後で麗華が噴き出した。
「寝起きの悪い男は嫌われるわよ〜」
どういう意味だと睨むが麗華は目を合わせず素知らぬふりをしている。
夕食は、雪也がいる事が嬉しいのか、加奈子は普段より更によく喋り、たまに麗華が嗜めながら進んだ。
食事が済んで雪也に付き合わされ一緒に加奈子の相手をしてやり、散々常日頃の愚痴を聞かされた。
全て雪也に向かって話すが、それはこちらに直接言っても聞き入れない事が分かっているからで、積もり積もった不平不満を雪也を通して聞かせようとしているらしかった。
元々雪也と借りたDVDを見る約束をしていたのだが、結局加奈子の気が済むまで付き合ってやり、ようやく雪也と二階に上がろうとすると今度は麗華に引き止められた。
雪也を先に行かせて声を潜める。
「……何だよ」
「隣の部屋、あたしだからね。忘れないでよ」
「……」
本当は女の皮を被ったオヤジじゃないかと疑いたくなるような微笑を浮かべ、ニヤリと笑う。
腕を振り払ってさっさと部屋へ向かった。
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